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【グロ】挿絵 バフォさん陵辱SS 02 by 森谷
挿絵 バフォさん陵辱SS 01 by 森谷
【健全】挿絵 バフォさん by 森谷
王と王子と狂気の悪魔 01話 by 森谷
もけさんとリレー。4~5時間ぐらい。またやりたいね!
そして挿絵はリクエストで。自分で書いたのに舌の群れを忘れた。
written by もけ and 森谷 (リレー)
■ 王と息子と狂気の悪魔 第1話 ■
願いを叶える悪魔。
その噂が流れ始めたのは、他国の侵略が激化し国内のあちこちに不安が募り始めた頃だった。戦禍にさらされ荒廃したこの国での暮らしがよくなるのなら、悪魔に魂を売ってもいいという者も少なくなかったが、治安を守るため王はこれを厳しく禁じた。
しかし禁止されていてもなお、悪魔を呼び出し、そして願いを叶えられた者が現れた。戦場で深く傷つき、二度と普通の生活をおくる事はできないであろうといわれた息子が全快したというのだ。
王は悪魔を呼び出した家族を厳しく罰した。皮肉ながら家族は以前よりも不幸になってしまったが、人々は暗に悪魔への期待を抱いていた。
王宮の廊下を、王族の衣装に身を包んだ居丈高の獅子が歩いていた。
その額に王冠を頂き、冠にもまけず立派な鬣がその威厳のある相貌を飾っていた。
獅子の王は王宮の地下深く、最奥の間を訪れていた。
暗く湿った空気の淀んだ間には、魔法陣が描かれ、四方に設置された燭台にはオドロオドロしい赤紫の火が灯っている。それは国中で語られている、悪魔を呼び出す術式だった。
「悪魔よ、我が呼び掛けに応じ、異界よりその姿を現わしたまえ
我が願いを代償を以て叶え給え」
王が高らかに宣言すると、怪しく輝く魔法陣から煙に似た、ぼやけた光がたちこめ、中から純白の毛皮を持った山羊の似姿が浮かび上がる。男性的な巨躯に歪曲した物々しい角、股間から伸びる男性器であるべきものは凶悪な蛇の姿をしていて、その体をしならせながら正しく別の生き物としてうごめいている。
王は、小さく息を飲む。悪魔について、ある程度は理解していたつもりであったが、やはりこうしてその巨体を目の前にすると、どうにも圧倒されてしまう。
それでも、自らも王であるという誇りからか、彼は内心の不安を隠し、王としての民の前に姿を表す時と同様の、威厳を持った表情を作る。
悪魔を相手に、自らの弱みなど見せるわけにはいかない。恐れや不安を表に出してしまった時こそ、選択を誤り、悪魔に対して弱みを見せてしまう結果となるのだ。
毅然とした態度で自らへと強い視線を向けてくる王を、悪魔は値踏みするかのように、その横に割れた瞳孔で眺める。足元からタテガミの先まで、値踏みするようにねっとりと視線を這わせた。
どうやら悪魔と向きあってもその威風堂々とした姿を崩さぬ獅子王の姿は、何か悪魔を満足させるものをもっていたらしい。悪魔は口元を小さく歪めると、地を這うような低い声で、王へと問いかける。
『願いを言うがよい』
ただ一言であるが、それは悪魔との契約を促す、魔性の誘惑である。そうして口にした願いを悪魔に叶えてもらい、そして代価を払わねばならない。
国を統べる王である自分が悪魔と契約を結べば、その彼に振りかかる代価次第で、国そのものが左右されかねないのだ。
彼は、悪魔の問い掛けに対して、一瞬だけ何かを考えるように、その表情に影を作る。だが、それもすぐに消えた。心の奥底で、自らの国民たちへと向けて謝罪をする。
ともすれば、その選択がそもそもの間違いであったのだろう。国あっての王だというのに、その国よりも自らの息子を優先してしまったのだから。
王は、ゆっくりと口を開く。
「我が息子を助けてくれ。ある日倒れてからと言うもの、目を覚まさず、いつまでもうなされ続けている。今ではやせ細り、このままでは命さえッ。……頼む」
『……』
願いを聞いた悪魔の表情は、それを見た王には理解できなかった。
まるで、仕掛けたいたずらがうまくいったかのような。その威厳のある相貌からは想像しづらいにやりとした笑み。
『よかろう、願いを叶えよう。
その願いに値する代償を差し出すならば』
王は鎮痛な面持ちではあったが、もとより覚悟を決めていたその強い眼差しは崩さずに、声を響かせ、悪魔に答える。
「わかっている。
私の命でも魂でも、持っていくがいい
ただし、我が子がこの国を受け継ぐ事は――
願いが叶えられた事だけはこの目で確かめさせてくれ」
『この私を疑うとは、我ら悪魔に対する礼儀を知らぬ王だ。
だが、それもよかろう。
お前に王子と、この国の行く末を心ゆくまで見せてやろう』
悪魔は満足げに言う。
その笑みとは対称的な表情の王は笑う悪魔を正面に見据えながら、深く眠る息子の凄惨な姿を思い出していた。再び目を覚まし、この悪魔のものとは似ても似つかない柔らかい笑顔を取り戻してくれることを願って。
『さあて、ではまずお前のその立派な体でたっぷりと楽しませてもらおう』
悪魔の表情とは恐ろしいものだと思っていた。今まで見せていたいやらしい笑みが悪魔の顔なのだと。しかしそれは大きな間違いだった。
あらためてこちらを見る悪魔の顔は、好奇や酔狂などのぼやけたものではなかった。そこにあるのは獲物を、極上の糧を欲する狂気の欲望を称える笑みだった。
(そうか……。私は悪魔の餌なのか……)
悪魔の表情を見据えながら、王はそれを悟った。自分が払う代償は、どうやらとてつもなく大きいらしい。だが、それで息子が助かるのならと、彼はいよいよ決意を固めた。
『それで良い。さあ、その体を差し出せ』
その決意が伝わったのであろうか。悪魔は満足げに笑うと、魔法陣の上に胡座をかいて座り、その股間で蠢く蛇を見せつけるようにしながら、王へと語りかける。
悪魔の口ぶりとその仕草で、まず自分が何をされるのか、彼も察したようであった。しかし命でも魂でも渡すと言ったのは、他でもない彼自身である。断る道理もない。
「分かった……」
やはりその行為への抵抗感は残っているのだろう。王は、先程までよりも小さな声で了承の意を示し、そして悪魔に命じられるがまま、その身を包む衣に手をかける。
王家の印章の縫い込まれたマントを外し、上質な布で織られた衣服やズボンを脱ぎ捨てる。柔らかな獣毛に包まれた、逞しい肉体が露になった。悪魔との契約に対する緊張や不安のせいか、その体はぎこちなく緊張し、僅かに汗ばんでいる。
しっとりと濡れた首筋や胸の毛皮に視線を這わせながら、悪魔は小さく舌なめずりをする。なるほど強い魂だけでなく、体の方までも一級品だ。これは楽しめるだろう。
『どうした? 何を躊躇う。もはやお前の体は我のもの。恥ずかしがることもなかろうに』
「く……」
最後にその股間を覆う布を残し、王は僅かに躊躇する様子を見せていた。当然と言えば当然の反応であろう。こうも屈辱的な事を強制されるなど、初めての経験のはずだ。
だが、それならば……、と悪魔は思案顔を浮かべる。もっと強い辱めを与えてやるのも面白そうだ。腰を覆う布と王冠だけを身につけ、童話に出てくる愚かな王のような姿をさらす彼へと、悪魔は手招きをした。
『そのままの姿で構わん。さあ、こちらへ来い』
屈辱に震える手で腰布を掴んでいた王は、そのままでも構わないという言葉に、その手を止め、悪魔を見る。そして、相手の招きに応じて、悪魔の座る魔法陣へと向けて歩き出した。
獣人の中でも、それなりに体格の大きい彼であるが、それでも悪魔の目の前まで近づけば、その体格差は歴然であった。股間から生える蛇は、獅子の腕と同等の太さを誇り、細い舌を口から出してチロチロと動かしながら、まるで獲物へと狙いを定めるかのように彼を見据えている。
『こうまで体を緊張させていては、王の威厳もあったものではないな。いや、王たる自分の身を投げ出し、国を捨て自身の息子の身を案じるお前は、もはや王ですらないか』
悪魔の言葉に、彼は言葉を詰まらせ、その体をよりいっそう緊張させた。言い返す言葉もない。まさに事実であった。わなわなと体を震わせながら、その言葉を受け止める彼を、悪魔はその太い腕で抱き寄せる。
――カラン……
雄々しいタテガミの上から、王冠が転げ落ち、床へと落ちた。王は何か未練を残すかのように、その王冠を目で追う。しかし、直後彼の目の前に近づけられた悪魔の顔に、その視線を奪われた。
一体何をするつもりなのかと、獅子はその表情を強ばらせる。その直後、彼の鼻面に、ねっとりとした生暖かい感触が走る。
「――ッ!?」
悪魔の舌であった。太く長いそれが、彼の鼻面を這い、そして口へと伸びる。
とうとう始まってしまったのかと、彼の胸の内に深い喪失感が芽生えていた。その行為への抵抗感から、口をきつく閉じ、悪魔の舌の口内への侵入を拒んでしまうが、そうすると牙の隙間から、まるで蜜のように甘い唾液が流れ込んでくる。
それはまるで麻薬であった。その甘露な味わいに、一瞬であるが嫌悪感さえも忘れてしまう。そして僅かにのどを動かし、唾液を少量飲み込んでしまうと、今度はこの状況にも関わらず、頭の片隅に僅かな幸福感が生まれ、それに付随して体が心地よい熱を帯びる。
これでは、いけない。彼はその感覚を恐怖した。自らの誇りを穢されたように感じ、そこから逃れようと、爪を手の平に食い込ませるように、強く拳を握った。
血が滴り、僅かに霞の掛かっていた頭が、痛みのおかげではっきりとしてくる。彼は、奪われそうになる意識をなんとか取り戻した。だが、彼の口から舌を引いた悪魔の表情は、何故か満足げに笑みを浮かべている。
『ただの接吻でこうも欲情しようとは、存外にはしたない王であったな』
悪魔が彼の股間を見下ろしている。そこでは、ペニスが硬く勃起し、腰布を内側から押し上げてテントを作っていた。
王は自らの体の変化に動揺を隠せずにいた。威厳のあった顔は歪められながら、その原因である体の疼きに赤く染まっている。妻との睦事では自分が性感を覚えるのは自分の剛直のみであった。体全体をくすぐられるような”責められる”性感は初めてのことだ。悪魔の言葉が、燃える体に痛いほど突き刺さる。
悪魔は満足気な笑みをそのままに、固く握られた王の手をとる。その手を開かせ、傷ついた手のひらに舌を押し付け、ぬるりと舐める。手にひときわ強く甘い刺激が走る。
王は目を見張った。手のひらの傷は、まるで悪魔の舌に舐め取られてしまった血と同じようになくなっていた。王の意志を現実へと引き戻していた痛みも消え、代わりに体をじわじわとあぶり続けているのと同じ心地よい熱が残る。
手のひらから口元を離した悪魔の視線が再び王の顔を睨める。口元に再び悪魔の長くぬめった舌が這い登ってくる。まだ口の中ではないのに、首元から顎を撫でる舌に先程の接吻以上の心地よさを感じて思わずもう一度拳を握ろうとした。
しかし、じんじんとした熱が脈動する手は動かそうとする度に甘い疼きを生み、その拳に力を込めることは出来なくなっていた。体が快感のためにぼうっと浮き上がるようになる。口元を悪魔の舌先がちろちろとくすぐると、自然と顎から力が抜けて、魔性の甘露を纏う肉の侵入を許してしまった。
悪魔の舌は、先程よりも長くなったように感じるほど、口内の隅々を撫でまわる。左右のあご骨の付け根あたりに舌がうねりながら唾液をなすりつけると、当然のように耐え難い疼きが頬骨に広がり、今度こそ口元を引き締めることは出来なくなった。
牙の一本一本を、左右交互に愛撫される間に自分の舌と悪魔の舌がこすれ合う。自分の舌の上に普段味わうことのない甘い味が残り、喉が自然とその甘露を飲み干そうと動く。しかし染み込んだ甘さは喉に垂れ落ちても舌から落ちていかない。失われることのない甘味の上から、悪魔の舌がさらに甘美な唾液を塗りつけていく。
すでにどのぐらいの時間がたったかもわからなくなった。唐突に口内からずるりと舌が抜き取られる。
王は口元をだらしなく開き、そこから舌をはみ出させて荒い息を吐く。吐息には疼きに耐えかねる震えが含まれ、その瞳はもはや先程の威厳を保ってはいない。
その姿を面白そうに見つめる悪魔は、すっかりとろけきった王の耳元へささやく。
『このような身勝手、おまけに淫乱な王を頂いたこの国の民には、
悪魔の私でも同情してしまうぞ』
王はびくんと体を震わせる。
先程までの心地よさそうな表情はひび割れ、羞恥、背徳、自己嫌悪の苦悩に痛めつけられている心の内を露呈していた。顔を歪めた王の耳元に、悪魔はそのまま柔らかい吐息を吐きかけている。吐息に含まれた湯気が王の耳の奥まで届き、その内側が僅かに湿り気を帯びてくると、じんとした熱はいよいよ王の頭の中にまで響き始める。
『お前の体は息子を助ける代償として差し出されたはずだが……
楽しんでいるのはお前の方ではないか。
お前の息子が、その浅ましい姿を見たらどう思うかな』
すでに王は固い表情のまま、自然と体を震わせるようになっていた。
甘い快楽と背筋を這う後悔とがないまぜになってその魂を擦り上げ摩耗させる。王は必死に利かない体を抑圧しようとしている。その様子に悪魔はやはり嬉しそうに舌なめずりをする。その舌を苦しげな王の肩へ這わせる。
すると、悪魔の舌はその口からずるりと抜け落ち、蛇か蛭のような外観で今までと同じようにズルズルと王の肉の上を這いずり始めた。悪魔の口元からはすでに新しい舌が頭をのぞかせ、その舌もすぐに口内より這い出て王の体にまとわりつく。
あとからあとから際限なく悪魔の口より産み落とされる舌の群れは、王の胸元から露になった毛皮を、下腹部に向けて広がっていく。毛皮の下に隠された小さな突起に触れた舌は、そのまま胸に留まり、きゅうっと突起に巻き付く。突起を中心に胸を恥ずかしい形に覆うと、肉を絞り屹立させた突起を、巻き付いていた先端がわざとらしく押しつぶし、れろんとその真ん中を横断する。
「ぁあうっ!」
突起を刺激されると、王の口からたまりかねた声が漏れる。
震える体が這い回る舌と勝手に擦れて、体の芯がどんどん快感によって冒されていく。すでに両胸に舌が張り付いて交互に、あるいは同時になって突起を弾く度に頭の中がビーン、ビーンと痺れる。
首筋に巻きつかれ、へそをほじられ、腕や脚の盛り上がった筋肉を撫で回される。その舌の一つ一つがたっぷりと粘液を絡ませ、その毛皮になすりつけて汚していく。粘液をなすりつけられた毛皮は、まるで快感を植えつけ、体を変質させた証のようにわずかに黒ずむ。
舐め回す快感に耐えかね、王がその大きな体を振って悪魔の抱擁から逃れようとすると、それをまるで赤子のように抑えつけてその耳元に言う。
『お前は体も、その淫らな心に見合う変態だな』
妻の体でしか性を知らず、奥手だった王に悪魔の言葉が深く突き刺さる。まだ性器すら触られていない。乳首や体を舌に愛撫されただけで、自分の体は発情期の雌のような反応を見せている。悪魔の言葉は王のプライドを引き裂いていくが、王はそれに反論する言葉を何一つ持ち合わせていない。ズタズタにされていく己のプライドをただ見ているしかなかった。
「ひぃっ、ん……ッ」
体に張り付く悪魔の舌は、性感帯となった彼の体を刺激し続け、そうやって蓄積されてゆく快感に、もはや喘ぎ声を我慢することさえもできなくなっていた。
「はっ、……ぅっ、がぁ……!」
悪魔の唾液で湿った体を震わせながら、王は目の前の胸板に腕を突っ張り、体をよじらせ、自分の体を抱く、悪魔の腕から逃れようとする。だが、もはや全身を覆う甘い刺激に、体は脱力し、体を離すどころか、気付けば悪魔の胸板に身を預けるようにもたれかかっている始末である。
頭の中では、悪魔から投げかけられた言葉が繰り返し何度も渦を巻き続け、自らの淫らな姿に対する嫌悪もあって、涙さえ流れそうになる。しかし体は言う事を聞いてくれない。また、頭の何処かでも、悪魔の胸板に体を預けることに、不思議な安堵感を抱いてしまう。
体中を這い回る舌の愛撫の快感が絶えず彼の体を襲い、悪魔に寄り添いながら、その体をビクリと震わせ、嬌声に交ざって甘い息が漏れた。
体が際限なく欲情してゆき、心までもがそれを受け入れそうになってしまうのだ。だが、同時に底なし沼にどこまでも沈んでいくかのような、ほの暗い恐怖を感じ、そしてその恐怖が、彼を正気に保っていた。
『ほう……』
悪魔が感心したように声を漏らす。悪魔の唾液を何度も飲まされ、悪魔の舌で体中を愛撫され、それでも表情は今だに羞恥や屈辱から来る嫌悪の表情を垣間見せている。
実際、彼はそれだけ気高く、輝くような強い魂を持った王なのであろう。その気高い魂が光を失い堕ちてゆく様は、何よりも彼を楽しませてくれる。
悪魔はニヤリとした笑みを浮かべながら、王の頭へと手を伸ばし、雄々しいタテガミを掴むと、その体を傾ける。王は、今度は何をされるのかと動揺している様子である。凛々しい獅子の顔は、丁度悪魔の股間へと運ばれ、その口元へと、蛇頭がグリグリと押し付けられた。
「んぐ……ッ?!」
それは悪魔の性器である。唾液の代わりに塩辛い先走りの液体を口から垂らす蛇が、王の口元へと押し付けられていた。もはや自らの舌を噛む力すら失った顎をこじ開け、その口内を犯そうとする。
王はその陵辱から逃れようともがくが、頭を押さえつける悪魔の手は、びくとも動くことはない。口内へと侵入する悪魔のペニスを拒む事も、それから逃れることも出来ない。
「ふぅ……、んむぅっ」
そして、王はついにその口でペニスへと奉仕を行うこととなった。嫌がるように舌を動かすと、ネコ科のざらついた舌が蛇鱗の表面を這う。
それに応じるように、蛇の口からは先走りの液体が溢れ、その塩辛い味が王の口内を穢していった。再度、心に穴が開くような喪失感を感じ、王は低く呻いた。
そんな王の姿を見下ろしながら、悪魔は相変わらずの笑みを作り、今度はその視線を、王の尻へと向けた。そこと股間のペニスだけは、今だ舌による愛撫すらも行われていない。
そろそろ、また新しい快楽を教えてやってもいいだろう。王のタテガミを掴んでいた悪魔の手が、背中を這いながら尻へと向かう。尻尾の付け根を弄ってやると、王の背筋がビクンと跳ねた。
『男根を貪りながら快感を感じているのか。淫らな王だ。だが、よく考えろ。このような淫らで下賎な王が、王子の命に見合った代償だと思うか?』
悪魔は王へと語りかけながら、その手を尻までもってゆき、指先で尻の割れ目を開くと、今まで性行為に使われた経験などまるでない、初々しいピンク色の肛門へと太い指先をあてがう。
肛門の表面を僅かに撫でるような刺激であるが、王はそれだけでくぐもった嬌声を上げ、ペニスからは先走りをこぼしていた。
『私が欲しているのは、気高く高貴な王だぞ』
つぷり、と悪魔の指先が、王の肛門を貫いた。慣らしもしていなかったはずが、すでにその中は腸液で濡れそぼり、悪魔が指先を動かせば、くちゅりと淫らな水音を発してしまう。
「あっ、ひぃぃいっ……!」
そして、まるで尻の中が溶けてしまっているかのような、これまで感じたことすら無い種類の快感に襲われ、王はまるで痴女のような情けない悲鳴を上げ、ついにそのペニスから精液を溢れさせていた。
ビクビクと震えるペニスから迸った精液は、悪魔の脚へとかかり、その白い毛皮にじっとりと染み込む。そして王は、射精を終えた脱力感に体を支配され、口からもペニスを吐き出し、悪魔の股間に顔をうずめたまま、ぐったりとしてしまう。
だが、悪魔が彼の肛門へと挿入した指先を動かすと、その脱力した体もビクビクと痙攣し、王の口からは掠れた嬌声が漏れる。悪魔はその痴態を見下ろしながら、これ見よがしに鼻で笑ってみせた。
『喘ぎ散らすしか脳のない男娼であれば、生憎だが掃いて捨てるほど持っているのでな』
その情けない背中に言い捨てると、まるで嗚咽するかのように、王の体が小刻みに震えているのが伝わってきた。もう心が折れてしまったのだろうか。意外に呆気ないものだ。
悪魔は一瞬そう考え、僅かに落胆したような表情を見せる。だが、それは間違っていたようだ。射るような視線を感じ、悪魔が再度王の顔を見下ろすと、そこには怒りに満ちた獅子の瞳が、雄山羊の顔を映していた。
なるほど見上げた心がけだと、悪魔は呆けたような表情を浮かべた後、その顔に意地の悪い笑みを浮かべる。なるほどこれなら、気を使わなくても勝手に耐えてくれそうだ。
バフォメットは王の体を抱き上げ、いわゆる対面座位の格好で自らの脚の上に座らせながら、その耳元へと囁く。
『お前が価値を失えば、王子の病も治ることはない。覚えておけ』
悪魔は憎悪をむき出しにした王の表情をその鋭い視線で射る。王は鋭く見返しながらも、その実余裕のなさがありありと顔に出ていた。抱え上げて開かれた脚の付け根をぞろりと撫ぜられる。
「んあうっ…!」
先程まで王の口内を犯していた悪魔の生殖器だった。
舌が纏うものとちがい、塩辛く白濁とした粘液と王の唾液にまみれた蛇が、そのしなやかな体を巧みにうねらせて王のわずかに緩んだ肛門を刺激している。
刺激から逃れる術は、明らかになかった。体を向かい合わせにしっかりと密着されて抱えられている。大柄なバフォメットの脚に己の脚はめいいっぱいに開かれて座らされている。
蛇がずるりずるりと肛門を擦ると、その肉の入口がきゅうっと締まる。蛇が体をうねらせながら離れると緩み、またぬるりと撫ぜられて締まる。くり返しくり返し無理矢理動かされてしまうアナルからじわりと熱い腸液が漏れ、蛇から与えられるような直接的でない、ささやかな刺激で王の羞恥と快感をさらに高める。
王の怒りの表情がその淫靡な感情によってみるみる塗り替えられていく。それでも歯を食いしばり、胸同士を押し付けている悪魔の雄山羊の頭を睨みつけて耐える。
睨まれた悪魔はその視線を嘲笑う。王の尻を嬲っている蛇根の頭をそのひくひくと蠢く肉穴に向けると、ぱくりと口を開かせる。中からそぞり出たのは細長い二股の舌だ。蛇の舌はそのまま肛門を押し伸ばして侵入する。
「あっ…!あひゃっ…!?」
はじめに入れられた指のように圧力で押し込まれるのではなく、肉をつるりとなでるだけで奥まで入り込んで中をかき回す感触に王はくすぐられたような驚きの声を上げる。ぎゅうぎゅうとした野太い指と違い、蛇の舌はいくら肛門を締め付けても、こそばゆい感触を少しも和らげずに与えてくる。肛門は王の意志を離れてくぱくぱと勝手に動き出す。
肛門は刺激のために緩み、完全に閉じることが出来なくなっている。そのだらしなくひらいたまま息づく肛門から薄く蛇の舌が這い出し、二股に分かれた先端が一杯に開いて肛門をぱくりと開いた。
すると、尻尾の付け根をいじりまわしていた舌が一本、その開ききった尻の穴に這い出してきてそのままひゅるりと体内に入り込む。
「あっ!?」
舌は器用に王の体内でぐるりと向きを変える。
そして舌先を伸ばして、入り込んだ時に改めてきつく締まろうとした肛門の中から強制的に突き出る。きつく締め上げた尻を柔らかくざらついた肉がずるっと通る感触に、王は射精後も屹立し続けていた肉棒をひときわ張り詰めて震わせる。体内の舌はそのままくぽっくぽっと王の意志などお構いなしに肛門を開閉して王を高ぶらせる。
尻を舌が内側から出入りする度にビクつくペニスを見て悪魔が笑う。
『おやおや、そんなに尻の穴がお気に入りか。
性器より胸より、尻で感じる者が王とはおこがましいな
……とんだ雌猫だ』
「――ッ!!」
悔しさに睨みあげようとした王の顔は、断続的に尻穴を出入りする舌の刺激であっさりと熱の篭る息を吐く呆けた表情へと歪められる。それでもなんとか悪魔を見上げると、悪魔はその口元に三度自らの口を合わせ、舌を送り込む。すでに完全に調教された王の舌は、侵入者を拒むどころかその甘味に引かれてその肉を絡ませる。
しかし今回はいままでの接吻とは違った。侵入した舌は抵抗なく王の口の中へと流れ込み、口内と同じように甘い毒に冒され、弛緩した喉をするりと通り抜けて体の奥へと飲み込まれていく。
「んぐッ!?」
悪魔は口を合わせたまま、その指で喉を撫でる。
慌てて閉じようとした喉はそのぞわりとした刺激に負けて、ゾクゾクと悪魔の口から流れ込む舌の本流を抵抗出来ずに飲み下してしまう。驚くほどの量が王の体に流れ込み、それが終わると悪魔は王の口を解放する。
悪魔は意地の悪い笑みで今起きてしまった事態に青ざめている王に言う。
『さあ、私の舌がどんなものかはわかっているだろう?
どれだけお前がよがり狂ってくれるものか、見物だな』
王の鍛えられた腹はぽっこりと小さく膨らみ、内側から押されて蠢いていた。
「んっ、ぐえぇ……ッ」
王は体内へと流し込まれた悪魔の舌を吐き出そうとするが、まるで意志を持っているかのように体内で蠢く舌は、彼の期待通りに動いてはくれなかった。
目尻に涙を貯めるほどに噎せ返ってみたところで、胃液すら吐き出すことは出来ず、それどころか舌は、彼の体のより奥へと潜り込んでゆく。
その下腹に出来ていた膨らみも、程なくして消えていた。それはつまり、彼の体内でバラバラに舌が移動したと言うことである。先程体中を舌で刺激されたように、今度は内側から至る所を刺激されるのだ。
加えて……。
「ひっ、あぁ……ッ」
蛇の舌による肛門の快楽で、彼はその体をビクビクと震わせ、ペニスからは不様に先走りを溢れさせる。二度目の絶頂も、そう遠くはないだろうと予感できた。
体を這う舌は、今も胸や首筋、玉袋をねっとりと刺激している。体の内側も外側も、悪魔の唾液で敏感になった体をこれでもかと刺激されているのだ。気が狂ってしまいそうだった。
「あがぁっ」
腸内の奥深くで、悪魔に飲み込まされた舌が蠢き、腸壁を舐め回す。そこから分泌される唾液が馴染むほどに、本来なら触覚すら無いであろう部分が、敏感な性感帯へと変化してゆくのだ。
同様に、胃も、食道も、腸内の至る所も、舌で弄られる快感に喘ぎ声が止まらない。休憩すらもなく、絶えず快感が背筋を走りぬけ、本当に頭がおかしくなりそうだ。
次第に悪魔の唾液は彼の体中へと拡散し、その終りの無い快楽の拷問の中で、ついには微妙に体が震えるだけで、内臓が微かに揺れるだけで、空気が肌を伝うだけで、これでもかと言う快感が襲ってくる。
「ひぃんっ……、ひぃッ、あぎぃ……ッ」
絶え間のない快感に襲われ、常人であればとうに気が狂っていたのだろうが、しかし王は耐え続けていた。彼が壊れれその価値を失えば、息子は目を覚まさない。皮肉にも、悪魔の囁いた意地悪な条件が、彼を繋ぎ止めていた。
だが、その満身創痍の表情を覗き込めば、どれだけギリギリで耐えているかも分かると言うものだ。悪魔は含み笑いを浮かべながら、王の顔を見下ろす。
顔の毛皮は涙と鼻水、そして悪魔の唾液に濡れ、半開きで荒い息を漏らす口からは、涎が垂れ流しになっている。威厳など欠片も残らず、もはや壊れているようにさえ見えた。だが、その目にだけは、息子を救うという決意の光が残っているのだ。
悪魔がこれまで見た中でも、肉親のためとは言え、ここまで耐え続ける者はいなかった。一国の王を務めるその魂の輝きは、確かに悪魔がこれまで堕落させてきた誰よりも美しいものであった。
しかしそれだけに、悪魔の嗜虐心をくすぐるのだ。どこまで耐え続けるか、息子のためにいつまで頑張り続けるか、そしてついに壊れる瞬間を、その目で見たい。
『随分と楽しそうだな。では、私もその淫らな尻で楽しませてもらうとしよう』
タテガミを掴んで顔を上げさせながら、今にも壊れてしまいそうな、疲弊しきった獅子の顔へと語りかける。彼はもう、返事をする余力などないのか、ただ喘ぎ声をあげながら、体の内外から伝わる快感に、耐え続けるばかりだ。
フン、と小さく鼻で笑うと、悪魔は股間から生える蛇をうねらせ、すっかり淫らになった王のアナルへと、その頭をあてがう。舌による前戯は終わり、ついには悪魔のペニスをその肛門でくわえ込んでもらうのだ。
悪魔は意地悪く笑いながら、挿入する前にもう一度王へと語りかける。
『いいか? 壊れるなよ。息子を救いたければな』
獅子は体を震わせながら小さく頷いた――ように見えた。悪魔の言葉の直後、緩みきった肛門へとう蛇の頭が潜り込み、そのまま獅子の腕とそう変わらない大きさの胴体までもが、うねうねと彼の体内へ潜り込んでゆく。その衝撃に、彼は絶叫を上げ、涎をこれまでとは比べ物にならぬ、悪魔のペニスによる刺激によがり狂う。
「あがぁぁあっ、ひあっ、ひぃっ、ぎぃぃいぁあああっ!!」
もはや苦痛による悲鳴と区別すら付かない咆哮であるが、彼は間違いなく快楽にその悲鳴を上げていた。長い蛇の胴体は、難なく彼の体内へと飲み込まれ、その腸内を滅茶苦茶に掻き回す。
その逞しい腹筋には、内側で蛇が蠢く様子がはっきりと浮き上がり、そのたびに王は体全体を震わせ、押し出されるように金切り声を上げた。
あまりにも巨大な快楽に、もはや苦痛との区別すら無い。硬く勃起したペニスからは、壊れた蛇口のように精液が溢れ出し、止まることなく悪魔の股間へと垂れ落ちては、そこを濡らしていた。
『そのような大声を上げては、この場所がバレてしまうぞ? 見られてもいいのか? お前が王の資格すらない淫らな男娼だと知られてしまうぞ?』
涎と鼻水と涙を撒き散らし、感じたことも無い強烈な快楽に悲鳴を上げ続ける王へ、悪魔はにやにやと笑いながら問いかける。だが、もはや言葉など理解できる状態にはないらしい。
頭を埋め尽くすような途方もない快楽の波に流されてしまわぬように、一握り残ったプライドと理性、そして息子への想いにしがみつき、耐え続けるだけで精一杯なのだ。
「ぎぃ――ッ! あっ、あがぁっ、ひ――ッ!!」
うねる蛇によって体内を掻き乱されながら、王は何か頼るものを求めてか、無意識の内に悪魔の体にしがみついていた。もはや思考することすらも出来ないのか、あれほど離れようとしていた忌まわしい雄山羊の体に、自らきつく抱きつき、痴女のように喘ぎ散らす。
蛇のザラザラとした鱗が腸壁を擦り上げ、そして突き破るような勢いでその頭をぶつける。悪魔自身はピストンすらすることもなく、汗ひとつ流さず獅子を見下ろしていた。
バフォメットはその横長の瞳で冷静に獅子王の姿を観察していた。
すでに狂乱状態にある王の直腸を、悪魔の生殖器は念入りに犯していた。しかし少しづつ、気付かないほど少しづつその動きが細かく、ゆっくりとしたものになっていく。
王はすでに正常な知覚を失っていて自分や悪魔に起きるわずかばかりの変化になど気づかない。だが自分を陵辱している悪魔に抱きついてなんとか意識を保とうとしていた体に、耐え難い疼きが膨らんでくる。体の内と外を這いずり回り耐え難い快感は、ある程度悪魔の生殖器の鋭い責めによって鎮められていたのだ。
気がついたときには蛇根の動きはゆっくりとしたグラインドに変わっていて、自分のすべての場所をつつき回る快感をさらに酷く、耐えられないものへと変えるだけの刺激になっていた。
王は顔から涙と鼻水をしたたらせ、歪められた顔により一層のなさけない、悲痛なしわを刻む。しかし入念に開発され、今や体内すら逃げ場はない針のムシロのような快楽の地獄にどっぷりと浸かっている。もはや耐えられるはずがなかった。
「ふわっ……くぅ……うぅあっ、ああああぁぁぁ!!!」
王はついに、なぶるようにグラインドしていた蛇ペニスに、もどかしげにその腰を押し付け、振り乱しはじめてしまった。自ら激しく腰を上下させて、蛇の鱗と、植え付けられた舌が複雑にこすれあいながら腸壁をゴリゴリと押しつぶす快感に一際大きな嬌声をあげながら射精する。
ビュルッ ドプッ ビュク、ビュク、ビュク……
「ああああああ……」
がくがくと震えながらうつむき、すでに焦点を失った瞳で口からヨダレとともに嗚咽を漏らす王の耳に、悪魔が愉悦の極まった声でささやく。
『……残念だったな。王よ。
お前は今、自らの意志で堕ちたのだ。
他のどんなものよりも、私の性器で快楽を享受することを願ったのだ』
「あっ……ああ、ああああああ……」
悲惨なことに、射精を終えてわずかに正気を取り戻した王は、その言葉の一部始終を捉え、その意味もはっきりと理解した。自分が王族として生まれてよりずっと、心の内でその力の糧として共にあった志は、今粘液のような堕落と恥辱にまみれた価値のないものへと成り下がってしまっていた。
王はそのまま力なくだらりと悪魔に身を預けてしまう。
『…だが忘れるなよ。お前がくだらぬ肉人形になどなったら
お前の息子は、お前の望みのとおりにはならんぞ…?
今までの苦労もすべて水の泡というわけだ…クックック』
その言葉に操られるように、王の瞳に再び一点の光が戻る。
王は今や、悪魔との契約に、その言葉に操られるままに快楽地獄を耐え続けるだけの哀れな生き物へと変えられていた。
つづく
蜘蛛妖怪と虎と狼 by 森谷
SSの挿絵。原作SSは絵に付けられたそうで、絵→SS→絵という変換が起きている。
SS掲載の許可を頂きました。どうもありがとうございます。
SS元の挿絵原作の方も快諾くださったそうで、重ねてお礼申し上げます。
直接のお礼でなくて申し訳ありませんが……。
written by h
壁に走った亀裂から入り込む太陽のわずかな輝きだけが光源の薄暗い空間、朽ちかけた屋敷の屋根裏の一角で捕食は行われていた。
被捕食者は人狼の若い男だ。埃っぽい床に広げられた衣服の上に仰向けに寝かされて、片足を抱え上げられたまま、臀部を打ちつけられる衝撃に体を震わせていた。
毛皮の上からでもはっきりと見て取れる引きしまった体には、蜘蛛の糸がまるで彼を縛りつけるかのように、彼の灰色の毛並みの至る所に走っている。
「あっ、ぐ……ぅ、ううっ……はぁっ」
ズプッ ズプッ ズプッ ズプッ
白濁とした粘液をまとわせて体内を出入りする異物に、人狼の男に全身が蕩けるような快楽が走る。
その度に体積を増した彼の一物は震えながら、未だ褌に包まれた先端から雫を滲ませ、布地の色を変色させていく。
止めどなく襲いかかる快感の中で繋ぎ止めた彼の理性は、最後の抵抗とばかりに口を突いて出そうになる嬌声を押しとどめていた。
「…………」
それに対して、捕食者は人虎の大男だ。
一糸まとわぬ人虎の大男は声も発さず無表情のまま、人狼の男に比べ一周りは大きく、荒縄を束ねたような筋肉質な巨躯に見合った野太い肉槍で人狼の男を貫く。
感情を感じさせない、まるで絡繰り仕掛けのような無機質な動きでただひたすらに。
人狼へ突き出す腰の動きに合わせて、やや上気した呼吸が口から吐き出される。
差し込む太陽光に輝く大男の真っ赤な瞳だけが、彼の精神状態を物語るかのように狂気の光をたたえていた。
「ぐっ、がぁ……? ぐっ……うぁぁっ……! ぁああぁっ……!!」
ズップ ズッズッズッズッ
一定間隔で行われていた抽送運動が突如として加速を始めた。
それに合わせてさざ波のように緩やかだった快感が、より断続的でより強烈なものへとなっていく。
抑えきれない掠れた嬌声を上げて、人狼の男は全身を包む快楽に身を震わせた。
逃れようとしても、人虎の大男に押さえられた足はびくともせず、人狼の男は快楽に耐える苦しみと快楽に翻弄される悦びに表情を歪ませる。
その光景をやはり無表情に見下ろしながら、人虎の大男は吐く息をやや荒げて律動を速めていく。
腰使いも大きなものから小刻みなものへと変化していき、肉と肉が打ちつけ合う乾いた音と体液に塗れて濡れた水音が人狼の嬌声と絡み合い淫靡な不協和音を奏でた。
「が、ぁあ、あ……っ! あああっ!!」
狂おしいまでの快感に、人狼の男は焼き切れそうな理性が悲鳴を上げているのを感じながら、それでも抗えないで暴虐に身を委ねている内に、それは訪れた。
叩きつけられた人虎の腰が人狼に密着したままその動きを止め、人虎の大男はがふっ、と大きく息を吐きながら顔を仰け反らしたかと思うと、
「…………ッ!」
ドクンッ ドクン ドクン ドクン
奥深く埋め込んだ自分自身から遠慮なく欲望を解放した。
膨れ上がった亀頭から撒き散らされる白濁液に、人狼の男は大きく吠えた。
持ち上げられた足の付け根から覗く尾が、声に合わせてぶるっぶるっと痙攣する。
「あっ、ああっ、うああああっ!!」
ドクドクと脈打つ人虎の肉棒から勢いよく放たれる熱い濁流、それに伴い人狼の体に今まで以上の快感が走る。
人狼の男はまるで体の内側から肉も心も蝕まれるような錯覚さえ覚え――同時に、それは錯覚ではないと理解していた。
これは捕食だ、まぎれもなく彼は食われていた。
褌の中で痙攣しながら人狼の一物はどろどろと精液を吐き出し、赤い布地にまだら模様を描く。
だが奇妙なことに、その模様は数秒も待たずに、まるでそこに最初から何もなかったかのように元の赤に戻っていた。
その奇怪な現象の正体が、人狼の男の目には写っている。
もうどうすることもできないが、彼の瞳には確かに写っている。
それは蜘蛛だ。大きさは子どもの手のひら位のものから指先程度のものまで大小様々で、墨汁でも垂らしたかのように真っ黒な体を持つ蜘蛛だった。
人狼や人虎の周りをかさかさと這い回り、繰り広げられる一方的なまぐわいの果てに放たれた精に群がって、蜘蛛達は音もなくそれらをすすっていく。
それだけでも身の毛のよだつ様な光景だったが、それ以上におぞましいものがすぐそこに存在していることを人狼の男は知っていた。
人虎の大男の大きな体、その背後にゆらりと揺れている影がある。
人狼の目にも周囲の蜘蛛ほどはっきりと見えないが、それは確かに人間よりも巨大で醜悪な姿をした化け蜘蛛だった。
全ての始まりは刻を一刻ほどさかのぼる。
餅は餅屋、化け物退治には化け物を。
それは決して世間一般の常識ではないが、人間が圧倒的多数を占めるこの社会に生きる人外の者にとっては、人間達から信頼を勝ち取る手段の一つであった。
そしてその人狼の男は、旅をするためにその手段を忠実にこなしていた。
「街外れのお化け屋敷に蜘蛛の化生、か」
時刻はまだ太陽が昇りきったばかり。
昨日訪れたばかりの街の評判の茶屋の軒先で、人狼の男は買ったばかりの団子を咀嚼しながら瓦版に目を通していた。
珍しくもない安物の着流しに履き古してくたびれた草履、腰には刀を携え見るからに浪人といった出で立ち。
人間には分かり辛いが男前と評しても問題ない顔つきで、そんな彼が難しそうな表情で甘味を食す様は(ついでに尻尾をぱたぱたさせてるのは)どこか滑稽だった。
「事件発生からさほど日数も経ってないし……悪くない仕事だな」
そう呟く人狼が見ているのは、ほんの三日前に起きた化け物騒ぎの記事だ。
この街の外れにある古い屋敷を地主の依頼で取り壊す為に、街の大工が屋敷に足を踏み入れた所、巨大な蜘蛛の化け物と遭遇、大工の棟梁とその見習い二名が屋敷に取り残されたまま帰ってこない、というものだった。
人狼は各地を旅する流浪人で、同時に物の怪や化け物退治を引き受ける退魔士でもあり、訪れた街で時折発生する事件を見つけては、路銀稼ぎのために引き受けていた。
「ふむ……」
もごもごと咀嚼を続けながら、人狼の男は思案する。
人の立ち入らない場所に妖怪変化が現れるのは珍しいことではない。
大概は人も食わずにひっそりと暮らしている為に大して強い力も持たないので、こんな風に犠牲者が出るのは非常に珍しいことだったが、それでも人間三人を食らったところで大したものでもない。
強くなるのにも時間が必要となるので、たった三日程度では毛が生えた程度だろう。
剣の腕はともかく、化け物退治の腕はまだまだな自分でも問題ないだろう、そんな風に結論付けながら、人狼の男は串に刺さった最後の団子を頬ばった。
自分の考えがどんなに甘い物なのか、後々思い知らされることも知らずに。
「とりあえず、奉行所でもう少し話を聞いてから……んっ?」
念には念を入れて詳しい話を聞くかと、食べ終えた団子の串を適当に放り捨てて歩きだそうとした人狼の視界に、見覚えのある何かが写った。
振り向いた先の人通りに視線を巡らせる。
一瞬気のせいか、と視線を戻そうとした人狼の目に留まるのは、人通りの中でも一際大きい人影。
それは自分と同じ人型の獣妖、人間だらけの街の中ではかなり目立つ大柄な人虎だ。
露出の多いはっぴに股引姿で、大柄な見た目にふさわしくはっぴがはち切れんばかりの筋肉質な体付きから、人虎が肉体労働者であることがうかがえ知れた。
しかし、と人狼の男は思った。
人虎の知り合いがいないわけではないが、前方の大男は自分の知己ではない。
一体どこで見た覚えがあるのか、思案しているうちに人虎の大男と目があった。
「……!!」
瞬間、人狼の男は戦慄した。
虚ろな目、生気のない死人のような不気味な瞳に背中の体毛が逆立つ。
同時に閃くものがあり、素早く手にしていた瓦版に視線を落とすと、先ほどまで読んでいた記事に目を走らせる。
事件内容の記述のすぐ近くには、被害者の人相書きが添えられていた。
未だ帰らぬ大工の棟梁とその見習い二人を描いた三人分の人相書き、その中でも特に大きく描かれた棟梁の顔は――目の前の人虎と同じだった。
「待っ……! ……ちっ、どうする?」
人狼の制止の声に耳を貸さず、人虎がふらふらとした足取りで遠ざかって行く。
犠牲者であったはずの人虎が異常な様子で目の前に現れて、追うべきか追わざるべきか人狼の男はしばし躊躇した。
明らかに妖怪変化に憑かれ、操られている様子。
妖怪が何のために街中に人虎をうろつかせているのかは分からないが、死人のようにも見えても人虎はまだ生きているようだった。
このまま放置すれば、やがては生気を吸い尽くされて人虎は本物の死人と化すだろう。
「……見捨てるわけにもいかないか」
頭に浮かぶ様々な根拠のない疑念や推論よりも人命優先を取ると、半ば己に言い聞かせるように呟いて、人狼の男は人虎の大男を追うために駆け出した。
そして戦いは半刻もしないうちに終わった。
「なっ――?」
件の街外れのボロ屋敷、その前のちょっとした広場のようになった庭に、人狼の男の驚愕の声と共に澄んだ金属音が鳴り響いた。
真っ二つに断たれた刀――人狼にとっては頼み綱の、無銘ながらも強い霊力を宿した霊刀の刃先が、弧を描いて地面へと突き刺さる。
呆然と固まる人狼の男の眼前で、人虎の大男が霊刀を叩き割った腕を薙ぎ、そのまま人狼の男を吹っ飛ばす。
数度体を弾ませて、人狼の体が大地に転がった。
「ぐぅっ……! ぐ、ゴホッ、ハァハァ、くらえ……!」
すぐさま身を起して、人狼は体勢を立て直しながら懐に忍ばせていた紙切れを数枚を投げつける。
宙に放り投げられた紙切れは、本来なら空気に阻まれふわりと浮くだけ……のはずだった。
しかし紙切れは何の前触れもなく中空で動きを止め、その表面に描かれた幾何学的な文様を輝かせると、火の元がないにも関わらず紅く燃え上がり、焔の矢となって人虎の大男へと襲いかかる。
焔の矢が人虎に届くのを見届けることなく、人狼の男は街へ向けて駆け始めた。
頼りの霊刀がない今、決定的な攻撃手段を持たない自分では被害者達の二の舞だと、そう考えての逃げの一手だった。
後方から響き渡る人虎の、虎の咆哮とは似ても似つかぬ不気味な奇声を聞きながら、振りかえることなく全力で大地を蹴りながら一目散に走る。
故に彼は気付かない。人虎の大男が咆哮一つで焔を吹き飛ばしたことも、野獣の如き跳躍力で追い縋って来たことも、その口から蜘蛛の糸をはき出したことも。
数条の白い糸が、無防備な人狼の背中へと殺到する。
「――!?」
背後に迫る気配に気が付いた人狼の男が振り返り、自分を絡め取ろうと迫る糸から逃れようと慌てて跳躍する。
高く跳ぶ人狼を追い切れず次々と糸はその勢いを失っていく――人狼の男の片足を捉えた一本を除いて。
「くっ――がはっ!! ガフッ! ゲホッ!」
糸に跳躍を遮られ、重力のままに地面に叩きつけられて、今度は立ち上がることもできないまま人狼の男は苦痛の呻きをもらす。
その間にも、糸は人狼の体に幾重にも絡みつき拘束する。
(口から糸……だと)
混濁する意識の中、人虎の口から吐き出される糸に人狼は呆然とした。
たった三日で憑依した相手の肉体にまで変化が及ぶほど強力な化け物が相手では、勝ち目があるはずがない。
体を覆う糸が発する妖怪の邪気が全身を蝕み、抵抗する力も気力も奪われていくのを感じながら、人狼は楽観視した己が迂闊さと、この後自分の身に起こるであろう悪夢に恐怖するしかなかった。
そして物語は冒頭に戻る。
化け蜘蛛が棲み処にしていたのは、ボロ屋敷の屋根裏だった。
かつては物置としても使われていたらしいそこは広く埃にまみれていて、ところどころに張り巡らされた蜘蛛の糸がみずぼらしさを際立たせていた。
崩れかけた壁の亀裂から零れる日の光だけが光源の空間の片隅には、他所よりもひと際多くの糸達が集まった場所があり、その場所で人狼の"捕食"は行われていた。
身動きの取れぬ体に一方的に刻まれる凌辱の律動、その度に本来なら感じ得ない快楽に襲われる。
同性との性交経験などない人狼であったが、全身を侵す邪気に正常な感覚は奪われた彼は、痛みを感じることも許されないまま、人虎の陽根を受け入れさせられていた。
「……ぁ、はぁはぁ、く……そ……」
今まで生きてきて感じたことのない強烈な快感を、人狼の男は否定するように途切れ途切れの悪態を呟く。
流石に出したばかりだからか、蜘蛛に憑かれた人虎も動かないで荒い息を吐いていた。
だからといって、この状況を覆す術を人狼は持っていない。
出来ることと言ったら、この化け蜘蛛を討伐する誰かが来るのを祈りながらこの凌辱に耐え続けることだけだ。
しかしそれが長く続かない事も、人狼はおぼろげながら予感していた。
吐き出された人虎の精、未だ引き抜かれていない肉棒、そして体に纏いつく糸から、絶え間なく化け蜘蛛の邪気が自分の体を蝕んでいるのが分かる。
やがてこの邪気は己の理性をも呑みつくし、自分はただ蜘蛛に栄養を供給するだけの抜けがらと成り果てるだろう。
今まで何度も見てきた化け物の被害者達の末路、そこに自分も加わるのだ。
魑魅魍魎の類が栄養とするものは、その種類、個体ごとに異なっているのだが、この蜘蛛の妖怪には人の精気、それも性行為の最中に分泌する体液に含まれるものが無上のものだった。
人虎に憑く蜘蛛をずっと小さくしたような子蜘蛛達は、それを証明するように人狼や人虎の精液に群がっている。
しかしそれらはあっという間に吸い尽くされてしまい、それを見た化け蜘蛛は次なる行動に出た。
「はぁぅ、く……ぅん……!」
動きを止めていた人虎の大男は、化け蜘蛛の意のままに腰を引き、人狼の男から巨大な陰茎を引き抜いた。
その感覚に小さく嬌声をもらす人狼。穿たれた肉穴から、腹に溜る大量の精の一部がべちゃりと吐き出される。
それもすぐに子蜘蛛達が群がり、体毛を汚した白濁は後をわずかに残してなくなってしまう。
もちろんその光景は見ることができなかったが、臀部に群がる子蜘蛛の這いまわるおぞましい感触に人狼は身をよじる。
「うぁ……」
口を突く掠れた呻き、だが次の瞬間人狼はもっと大きな声を出すことになった。
肉棒を引き抜いた人虎は、子蜘蛛が人狼が漏らした精を吸い尽くすのを確認すると、抱えていた人狼の足をさらに高く掲げて両の腕でしっかりと人狼を固定する。
そしてそのまま、
「う、ぐあぁぁぁぁぁっ――!」
遠慮も容赦もなく人狼の菊座にむしゃぶりついた。
新たな侵略者が人虎の陰茎とはまた違う熱さと、遥かに柔軟で濡れた肉の感触を人狼の内部で主張する。
ぐちゅぐちゅじゅるじゅるといやらしい水音を立てて、人虎の大男は自身が吐き出したはずの精液を啜りあげた。
人虎の背後に"居る"化け蜘蛛が、餌にありつけた喜びを示すかのように闇よりも暗いその肢を蠢かせる。
「ひぃ、ひぃぁ、ぅぁぁっ……」
まだ自由が利く首を左右に振り人狼の男は吠える。
変化は舌にまで及んでいるのか、長い舌が肉棒よりもさらに奥深くまで侵入して暴れ回った。
一滴残らず精を吸い尽くそうと縦横無尽にその濡れてざらついた表面を人狼の中に擦りつける。
時折人狼の急所を刺激するのか、褌から零れ出た人狼の男性器はそのたびに先端から先走りを滴らせた。
先のどこかからくり仕掛けのような無機的な凌辱とは違う、貪欲に動き回る肉塊のまるで暴風雨のごとき苛烈な責めに、人狼は震える男性器に合わせるように口からも艶を帯びた呻きを漏らす。
責苦はそれから十分近く続き、ようやく終わりを迎えた。
突如動きを止める舌、ぐったりとしたまま小さく喘ぐ人狼がそれを意識する前に舌がゆっくりと引き抜かれ始める。
ズズッ ズズッ ズズズズッ
「――――!」
最後とばかりに念いりにこそいでいく肉塊。
もはや声は声にすらならず、尾の先端まで痺れるような絶頂に人狼の脳裏は真っ白に焼かれた。
自分自身に白濁をまき散らしながら痙攣する人狼。
その姿に、人虎の大男の顔に初めて感情らしいものが浮かべた――獲物を弄ぶ猫を連想させるような、残酷な笑みを。
再び人狼を床に降ろすと、人虎は人狼の足を押し広げながら覆いかぶさった。
いきり立った肉棒を突きたて、人狼の体に付着した精を舐めとりながら再び律動を開始した。
「……ぁ」
既に広がりきった人狼の体は、抵抗らしい抵抗もなくあっさりと人虎を受け入れてしまう。
その事実を無感動に受け入れながら、人狼は再び沸き起こる快感に身をゆだねた。
虚空を見上げる焦点の合わない瞳、理性の光も翳り、人狼は拒むことも忘れて与えられる快楽に身を震わせる。
頭の片隅で、思ったよりも遥かに早く己の命運が尽きることを予感しながら。
~終~
著者:hさん
許可を頂き掲載しております。無断での転載などはご遠慮下さい。
リクエスト ガーランド 自慰(たぶん) by 森谷
あまり良く覚えていない。こちらは射精差分。
ところで管理者のみ閲覧出来るコメントにどう返事したらいいか…。
あとせっかく頂いた拍手コメントどうすればいいのか…
名前を伏せて返信ならいいのかな。
そこら辺どうすれば失礼にならないのか…
とりあえず、応援ありがとうございます。皆さんの実用になるように。
もけさん、takeさん、さいと~さん、カチちゃん がんばろう。
丸呑み ランゲツ(風の何か) by 森谷
ソラトロボ レッド鬼畜陵辱 by もけ
痛いだけのレイプ表現です。あとおれにしてはソフト目です。
まるで骨の中に鉛を詰められてしまったかのような気分だった。爪先から耳の天辺まで、全身にその重さが圧し掛かっている。
固い木製の床に伏しながら、まともに動かすことも出来ぬ体に苛立ちつつレッドはそう思い浮かべた。顔を上げるだけにも時間がとられてしまう。
なんとか上体を起こし、重たい目蓋を少しずつ開いてゆくと、優しげなランプの灯りに照らされた部屋がグラグラと揺れていた。
いや、揺れているのは自分の瞳の方であると、時間が経つにつれて揺れの収まってゆく部屋の様子を見ながら彼はようやく気づく。
「ショコラ……、ここ、ッは――けほッ、うッ!!」
彼はその見覚えのない部屋を見回しながら、いつもの癖で宙へと問いかけるが、咳にその言葉を遮られる。ひどく息苦しい。のどが締め付けられるような不快感に、呼吸がまともに出来ない。
加えて、その問いかけへの返答もない。彼の声を拾うマイクも、気の強い妹からのナビゲートを伝えてくれる通信機は見当たりはしなかった。
右腕が何かを探すような手つきで、目の前にゆっくりと伸ばされる。ダハーカの操縦桿を握るときの動作であった。
霞に包まれた思考は今だに自分の置かれた状況と言うものを理解できていなかったが、それでも幾ばくかの不安を感じるには充分な材料が揃っていたらしい。
縋るように伸ばされた手は空を切るが、それが彼の中でのスイッチになったようであった。半分眠っているかのようにとろんとしていた瞳が、驚愕に見開かれる。
覚醒しきっていなかった頭から急速に霞が晴れてゆく。常に自分を助けてくれる存在から完全に隔離されてしまったと言う実感が彼を叩き起こしたのだ。
だが、今に限って言えば意識の回復も悪い方向へと働いてしまう。なんとか働くようになった頭が今の状況を理解しようと思考を始めるが、同時に無意識のうちに遮断されていた感覚が、意識の覚醒と同時に彼の体を襲っていた。
「あぁあああっ、あぁ……ッ! ――ッ、――!!」
左右の足に猛烈な痛みを感じる。レッドは全身を震わせながら悲鳴を上げようとするが、呼吸がまともにできず声が出ない。それどころか、全身をこわばらせ叫ぼうとするほどに意識が遠のいた。
異変に狼狽し震える両手をのど元へとやると、皮製の首輪が彼の細い首筋に食い込んでいた。それは命を奪うほどに呼吸を妨げはしなかったが、しかし激しい運動や大声を上げることを不可能にしている。
何とか首輪を外そうとはするが、手元が震えて金具を外すことは出来そうにもない。そしてそれを引きちぎるには、彼は非力すぎた。
小さな手が喉を掻き毟るように動き、その行動の成果は首輪の周りにうっすらと血が滲むというだけである。
狼狽し困惑する頭の中に残った一握りの理性を用いて、なんとか息を落ち着けるよう深呼吸しようとするが、両足から走る焼け付くような痛みがそれを妨害する。
レッドは瞳に涙を溜めながら、痛みを放つ足へと視線を向け、そして絶句した。
「ひッ……!」
喉の奥から掠れた悲鳴が漏れる。両足は足の甲を重ね合わせる形で鉄製の杭を突き刺され、床に縫いとめられていた。
すでにそれを突き刺されて時間が経っているのか、傷口から溢れた血液はどす黒く固まっている。すでに出血もなく、首輪と同様に直接命に関わることはなさそうではあるが、絶え間ない痛みに苦しめられる。
レッドは首輪を外すことを諦め、体を起こしその杭へと手を伸ばすが、少し動くたびに傷口から激痛が走る。体のどこかで筋肉が動くたび、杭を打たれた足が痛んだ。痛みに耐えてどうにか杭へと手を触れても、彼の細腕では深く打ちつけられた杭を少しも動かせはしなかった。
痛みによる消耗で求める空気の量は増えてゆくが、喉を締め付ける首輪がそれを許さない。再び頭に霞が掛かり始めていた。
判断力を失い、何でもいいからこの状況を打破する道具はないかと身の回りを両手でまさぐるが彼の手の届く範囲に置かれたものは何一つなく、そして喉を締め付ける首輪だけが彼が唯一身につけているものであった。
打開策もないまま、ひたすら恐怖だけが頭の中で膨れ上がってゆく。股の間に挟まれた尻尾によって隠れている股間では、玉袋と竿がきゅぅっと縮こまっていた。
苦しい。怖い。それだけに思考を支配され掠れた声で泣き始めそうにそのとき、彼の背後で扉の開く音が聞こえた。
「なんだ、起きてたのか」
そして聞こえてきたのは野太い男の声であった。レッドは今にも泣き出しそうに歪めた表情で振り返る。
そこにいたのは中年のネコヒトの男であった。ぼろぼろのズボンと汗と汚れの染みたランニングの姿は、シェットランドで働く鉱員たちと同じである。
小柄なレッドとは対照的に、筋骨隆々とした体つきと虎に似た顔つきを持つ大男である。虎は片手に握った酒瓶を煽ると、レッドへと向かって歩き出す。
距離が狭まるほどにきつい汗の匂いが鼻をついたが、今はその程度のことなど気にはならない。レッドは掠れる喉から言葉を搾り出す。
「た……、すけ……ッ」
『助けてくれ』。潰れた声で途切れ途切れに言った言葉であるが、相手の男にも充分理解できる範囲であった。だが、虎はレッドの言葉を無視して、いくつもの縫い傷が刻まれた彼の体へと大きな手をかぶせる。
その行動の意味が理解できずに困惑するレッドをよそに、虎は酒瓶を脇に置き口元を歪めながらレッドの体を撫で回す。
引き締まった尻を撫で、太ももをまさぐり、やがてその手は杭で打ち付けられた足へと辿り着く。生々しい傷口を見つめながら虎が口元をニタッと吊り上げた。その仕草に激しい不安を感じ、レッドは相手を制止するように手を伸ばすが、彼はレッドの意思などまるで興味がないかのごとく、その右足を鷲掴みにした。
「ぁ――ッ!!!!」
強く掴んだ足を力任せにぐりぐりと捻る。閉じかけていた傷口から血が滲み、その激痛にレッドが全身を震わせた。眉間にシワを寄せながら口をいっぱいに開くが、そこから出るのは掠れた息だけである。
床の上でのたうつように震えながら、レッドの頭では疑問ばかりが浮かぶ。なぜこの男はこんな酷いことをと、深く考えなくとも容易に想像がつきそうな事柄であるが、今の彼ではそれも難しかった。
まるで状況を飲み込めていない様子のレッドを見据え、虎は伏せられた耳元へと呆れたような口調で話しかける。
「酸素が足りなくて馬鹿になっちまったのか? なんでここにいるのか思い出せねぇのかよ」
レッドの頭を押さえつけ荒っぽい口調で問いかけながら、首輪の金具を外してその締め付けを緩める。
ようやく得られた開放感に笑みさえ浮かべながら、レッドは大きく息を吸い込んだ。動きの鈍っていた頭は、大量の酸素を取り入れて再びその活動を再開する。なぜ自分がここにいるのか、なぜこんな目に遭っているのか、自分自身へと問いかけた。
「て、めぇ……ッ」
その疑問の答えはすぐに浮かび上がった。レッドは震える声で怨嗟の言葉を吐く。ダハーカから降りたところを罠に嵌められ、この男に捕らえられた記憶が、頭の中で鮮明に思い起こされていた。
すぐにでも復讐を果たしてやろうとその目に怒りの炎が浮かぶが、しかし酸素を取り入れて思考力を取り戻した頭が、すぐさま『どうやって?』と疑問を投げかけてくる。
乗り手を失ったダハーカを、浮島から遥か下の雲海へと投げ捨てられるさまを見せ付けられた。護身用に使っていたスタンガンもなく非力な自分に対して、相手は大型犬の遺伝子を受け継いだ巨漢である。
その葛藤を察しているかのように、虎はいやらしい笑みを続けている。怒りと恐怖に体を震わせるレッドを見下ろしながら、ズボンのポケットへと片手を突っ込む。
「助けを呼ばれると厄介なんでな」
そう話しながら、透明の液体が入った小瓶を取り出す。コルク製の栓を口で挟んで引き抜くと、レッドの口を片手でこじ開ける。
その液体をどう使うつもりなのか、今なら充分に予想がつく。レッドは虎の手から逃れようと体を揺すり首を動かそうとするが、万力のような力で押さえつけられた顎はびくとも動かない。
悲鳴の一つでも上げたかったが、喉の締め付けが解かれたばかりの今では、まだ思うように声も出せない。
すべての抵抗は意味を成さず、小瓶はレッドの口の上で傾けられる。刺激臭を放つ透明の液体が、とぽとぽとレッドの口内へと注がれた。
「んぐぅ――!!!」
それと同時に虎はレッドのマズル掴み鼻を塞ぐ。喉の手前で溜まった液体は、肉が焼け爛れるかのような痛みを放った。
窒息に意識も遠のきかけた頃、ようやく彼はレッドの鼻面から手を離す。薄らいだ意識の中、彼は大きく息を吸い込むのを止めることができなかった。
「か、はぁ……ッ、あ゛あ゛ぁ……!!」
普段の快活な声とはまるで掛け離れた、壊れた蓄音機から発せられたかのような歪な声がレッドの口から漏れる。
喉の奥へと流れ込んだ液体が、まるで煮え滾った鉛を飲まされたかのような痛みを放っていた。声帯が焼け爛れてゆく。レッドの掠れた悲鳴は、徐々に人の声とさえ認識できぬ呻きへと変わり、そしてついにそれさえも消えた。
「――ッ!…… ッ!!?」
声が出ない。どんなに口を開いて大声を放とうとしても潰れた喉を息が通り抜け、焼けた爛れた声帯に例えようもない痛みが走るのみである。
だがレッドは、その事実を受け止めることができなかったのか、ひたすら口を開き、声を張り上げようとする。
頭の中には、叫ぶ言葉がいくらでも浮かび上がった。きっと自分の帰りを待っているはずの人々の名、どんなときも自分を守ってくれた愛機の名、そして救いを求めての言葉。
しかしどんなに強く思い浮かべようとも、それが声として彼の口から発せられることはもう2度となくない。強烈な喉の痛みを伴って掠れた息を吐き出すたびに、彼はそれを自覚してゆく。
「いい顔になったじゃねぇか」
絶望に染まってゆくレッドの顔を見下ろして楽しげに耳をピコピコ動かしながら虎が言う。
彼の顔には下卑た笑みが浮かんでいた。もはや抵抗の意欲さえ消えかかり震えるばかりのレッドの姿を見据えながら、その股間ではズボンに大きなふくらみが出来ている。
熱の篭もった生暖かい息が、虎の口から吐き出される。レッドへと向けられる表情は、苦痛に悶える様子を楽しむと言うものから、純粋にレッドの裸体への欲情へと変わっていた。
もはや何かを叫ぼうとするのもやめ、半開きのまま浅い呼吸を繰り返す口元に左手を置き、右手はレッドの足を貫通する杭を掴む。彼の細腕ではどうにもならなかったその杭であるが、虎が右腕の筋肉を隆起させ満身の力を込めると、少しずつではあるが杭が引き抜かれてゆく。
足を貫通した杭を動かされ、その痛みにレッドがビクビクと震えていた。その両目から涙を溢れさせ潤んだ視界に虎顔が映る。
欲情し息を荒げる男の表情は、嫌悪を感じる以前に恐怖の対象であった。捕食者を前に身動きの取れぬ獲物の気分である。
ただ恐怖だけが思考を覆い、気づけば彼は唯一残っているか弱い武器を相手へと向けていた。
「ッ、つぅ……!?」
レッドの顔を押さえつける左手に痛みを感じ、虎が声を漏らす。見れば、レッドは涙を流しながらそこへ喰らい付き、爪を立てていた。その二つが、獣の遺伝子を受け継ぐ者たちの最後の武器である。
レッドは鋭い牙を相手の左手に食い込ませ、両手の爪でその腕を掻き毟る。涙と鼻水を滲ませながら、半狂乱と言った様子での抵抗である。
虎は予測していなかった抵抗に、口をぽかんと開けて動きを止めた。しかし、困惑はすぐに怒りへと変換された。
「こっの野郎!!」
虎は大声で叫びながら左手を引くが、レッドはそれを喰らい付いて離さない。牙を突き立てられた手へと血が滲み、より深く牙が食い込むほどに痛みも増す。
自制心が強いとはいえぬ彼を激昂させるには充分すぎる反抗であった。虎は引いていた手を、今度は床へとめがけて振り下ろす。その手に喰らい付くレッドの頭も、鈍い音を立てて床へと打ちつけられた。
「――ッ、かひゅ……ッ」
脳を揺さぶられたのだろう。レッドは白目を剥き、体を痙攣させて体毛を逆立てた後、意識を失った。だが、それだけでは怒りは収まらない。レッドの足から引き抜かれかけていた杭へと、虎は再び手を伸ばす。
すでに中ほどまで浮き上がっていたこともあり、少し力を入れればあっさりと杭は引き抜かれ、足の傷口からは少量の血が漏れる。
彼は杭を掴んだ腕を大きく振り上げ、レッドの顔へと狙いを定めた。完全に頭へと血が上っていた。その後の楽しみの予定は思考から締め出され、今すぐ目の前の生意気な小僧を殺してやろうと、それだけが目的と化す。
そしてその杭が今まさに振り下ろされようとしたとき、この小さな家のドアの向こうから声が響く。
『おーい、いきなり大声出してどうしたんだ!?』
「あ、すまん、少し……!」
大声を出させまいとレッドの喉を潰してやったというのに、自分で大声を出して隣人からの注意を引いてしまうとは。虎は目を丸くして冷や汗を掻き、振り上げた手を小さく震わせる。
『おい、どうしたんだ!? 何かあったのか!?』
「……む、虫が出たんだよ! それも飛び切りでかいやつがな! 」
『虫!? くそ、駆除が済むまでは頼まれたっお前の家にゃあがんねぇよ!!』
「ああ、そうした方がいい! 何とか一匹潰したが破片が飛び散っちまった! 今掃除してるんだ!」
ドアの向こうからは、さも気分を害した様子で『うへぇ』と隣人の声が響き、それきり相手は去っていた。虎は額に溜まった冷や汗を腕でぬぐうと、視線をレッドへと戻す。
まだ意識は戻っていない様子であった。もし気絶しないまま隣人に声をかけられていたら、大変なことになっていたかもしれない。虎はほっとした様子で大きく息を吐く。レッドへの怒りはすっかり削がれてしまった。
だが、また爪を立てられても面倒だ。レッドの爪で掻き毟られた左腕の毛皮には、虎縞に混じって薄く血が滲んでいる。
彼は忌々しげに鼻を鳴らすと気絶したレッドを仰向けに寝かせ、万歳するような体勢でその両手を重ね合わさせる。足のときと同様だ。
右手に握ったままの杭をその手へと振り下ろす。激しい音は立たず、杭はさくりとレッドの両手を貫通して床に突き刺さった。
「――ッ」
細い体が小さく揺れる。失っていた意識は再び叩き起こされ、力なく開いた口から消え入りそうな吐息が漏れた。
もはや何も語ることの出来ぬ口がゆったりと動き、何かを話すような様子を見せる。
その言葉がどういったものだったか、本人にすらもう分かりはしなかった。最後の抵抗さえ失敗し、レッドは全てを諦めたかのように生気を欠いた瞳で、目の前の虎の顔を見上げる。
大きな手がレッドの肢体を這い、そのいやらしい動きへの嫌悪感に体が揺れるたび、虎が下品な笑みを浮かべる。
均整の取れた胴体を撫で、その体の所々に見える縫い傷を指先でなぞる。柔らかな毛皮の感触を手先で味わうたびに虎の股間が再び膨らんでゆく。
「ご開帳といくかぁ……」
ぎらぎらと目を血走らせ舌なめずりをしながら、虎はレッドの両太ももへと手を添える。腰を軽く浮かせるように持ち上げながら足を開くと、尻元の体毛の奥に初々しいピンク色の肛門が見つけられた。
本来の目的以外では一度も使われたことがないのだろう。キュッと締まっている可愛らしい穴を貫いたとき、レッドはどんな反応をするだろうか。
虎は鼻息を噴出しながら自分のズボンへと手をかける。汗が染みてわずかに湿ったズボンを下ろすと、一日かけてズボンの中で熟成された汗と恥垢の匂いが周囲に漂った。
そういった匂いを嗅ぐ機会は少なかったらしく、レッドがむせ返るように咳をした。鼻面が苦しげにヒクヒク動いている。
そんなに嫌がられては興奮が深まるばかりだと、虎は生唾を飲み込んだ。股間からは恥垢に塗れた赤黒い巨根がそそり立っている。
股間を隠すように丸め込まれた尻尾を掴み脇に逸らすと、レッドの腕ほどの大きさもあるそれを、ピンク色の秘肉へとあてがった。
「……」
そのまま腰を動かし、硬く閉じたその場所へと先端を強く押し付ける。すぐに痛みが発生することはなく、レッドは周囲に漂う強烈な雄の匂いに顔をしかめるばかりであった。
やがて、丸い亀頭が入り口をこじ開けその体内へと侵入を果たす。慣れないそこを強引に押し広げられる感覚に、レッドが大口を開けて荒い息を吐き出した。喉が潰れていなければ、さぞ大声で叫んでいたのだろう。
虎が腰を押し込み、より深くへと肉棒を挿入してゆくと、それに伴ってぶちぶちと嫌な音が伝わってくる。許容量以上に拡げられた肛門からは鮮血が溢れ、結合部から竿へと伝っている。
「……ッ!! ッ――!?」
「へへ、感じてるじゃねぇか」
涙を流しながら体をビクビクと痙攣させ、逃れようと腰をくねらせるレッドを見つめながら、彼は冗談めかしてそう言った。
味わったことのない痛みなので想像はつかなかったが、慣らしもしていない肛門へと異物を突き入れられるには、相当な苦痛を伴うようである。
レッドの股間で縮こまっているそれを片手で掴み、こねくり回すように扱うと、彼の体の痙攣がいっそう強くなる。どうやら力加減を間違えたらしいと虎が苦笑した。
「ん、ここまでか……」
肉棒を中ほどまで挿入した辺りで、虎はそう呟いて腰の動きを止める。どうやら今はそれ以上奥には入りそうにない。彼は軽く舌打ちをしながら腰を引く。
「よっ、……とぉっ」
「ッッッ!!」
そして小気味のよい掛け声とともに、再び腰をレッドの尻へと打ちつける。結合部から漏れる鮮血を撒き散らしながら、ピストンが始った。
これまで以上の痛みに、レッドが壊れたように口を動かしている。何かを拒否するときのジェスチャーのように顔を左右に振り、そのたびに涙と鼻水、そして血混じりの涎を振りまいた。
汗の染みたランニングに新たな染みを作りながら、虎は容赦なくピストンを続ける。激しい音を立てて腰が打ち付けられるたび、肉棒はより深くレッドの体内へと飲み込まれてゆく。
痛いほどに勃起した肉棒を、血に濡れた肛門がきつく締め上げる。血液に混じって腸内から分泌される粘液が、ぐちゅぐちゅと淫らな音を奏でた。その匂いを吸い込みながら、虎の興奮はより激しくなってゆく。
だがレッドからすれば、その行為は拷問以外の何者でもない。肉棒自身に宿る熱と肛門の裂傷で、まるで焼け火鉢を突き入れられたかのような感覚であった。
もはや己に降りかかった不条理を嘆く余裕も、目の前の男に憎悪を向ける気概さえなかった。ただひたすらに、潰れた喉で叫び続ける。
(痛いッ、痛い痛い痛い痛い痛い!!! もう噛まねぇし抵抗もしねぇ、だから、やめてくれぇ……ッ!)
だがその声は、もう二度と誰にも届くことはない。どんなに口を動かしても、相手はそこから意味を読み取ろうとする様子すらなく、ただ腰を揺するばかりだ。
ついに虎の肉棒は根元までレッドの体内へと収まり、臓物を圧迫するかのような存在感を放つ。勢い良く腰を打ち付けられるたびに、レッドの喉からは呻くような息遣いが漏れた。
(もう、やめてくれぇぇええ!! 頼むから、何でも言うとおりにするから!!! もう逆らわねぇ! いたっ、痛いぃい!!)
大きく開いた口からは息遣いだけがひゅぅひゅぅと虚しく漏れる。レッドの体へと突き刺された肉の杭は、内臓を蹂躙しつくそうとするかのように腸内で暴れまわる。
腸内から溢れる腸液も、突き入れられた肉棒の先端から漏れる先走りも、その圧倒的な対格差の前では気休めですらない。虎が快楽を貪り腰を揺するほどに、レッドは激しい苦痛に悶え続けた。
「チンコぶち込むたびに震えやがって、女とかわらねぇなぁ?」
随分と荒くなった息遣いを整えながら、レッドの耳元へと虎が話しかける。当然その言葉への返答はないが、元からそのつもりでかけた言葉であった。
背が低く体つきも華奢な彼がピストンのたびに悶える姿は、意味合いは違うながらもそれをイメージさせる。そして、そんなイメージと重なってしまうようなレッドの姿がどうしようもなく滑稽で、そしてたまらなく劣情を誘うのだ。
虎が鋭い牙を剥き出しにして笑みを浮かべる。激しいピストンを繰り返し、限界がすぐそこにまで近づいていた。
レッドの両太ももへと深く爪を立て、まるで殴りつけるかのような勢いで腰を打ち付ける。激しい音を立てて肉と肉がぶつかり合うたび、彼の爪は深く突き刺さりレッドの太ももの毛皮に血が滲む。
尻は痛みを通り越して、ジンジンと例えようもない熱だけが残っていた。腰を打ち付けられるたび骨の軋む感覚が背筋へと伝わってくる。尻の辺りの毛皮は猿のそれのように真っ赤に染まっていた。
(たすけて……)
「うおおおおっ……!!」
もはや泣き叫ぶ余力も失い虚ろな瞳を宙へと向けながら、レッドはもごもごと腰を動かした。その最後の言葉さえも踏みにじるかのように、虎は押し殺した声で叫ぶ。
――びゅるぅううううううううううっ!!
男のイチモツによってぐちゃぐちゃにかき回された腹の中へと、熱い液体が流れ込む。
男によって犯されあまつさえその精液を流し込まれてしまったという事実に対する嫌悪感は、もうなかった。
ただ、苦しみしか生まぬ行為にようやくの終了が訪れたと言う安堵に彼は大きく息を吐いた。全てを踏み躙られ、奪われ、彼は諦めるしかなかった。
(……)
随分と柔らかくなった肉棒が、血に塗れた肛門からずるりと引きずり出される。巨根で押し広げられめくれ上がった肛門から、血と精液の混じった淡い桃色の液体が漏れ出し、床に溜まった小さな血だまりへと垂れ落ちる。
レッドは気絶したかのように体を脱力させ、目蓋を閉じる。体中を痛みが包んでいたが、疲労はそれを上回り彼の感覚を鈍らせてゆく。虎の体が自分から離れたことさえ気づかぬほどに。
体は休息を求め、レッドの意識はまどろみの中へと吸い込まれてゆく。身を包む苦痛は雪のように溶けていた。出来ることなら、そのまま目を覚ましたくないのに……。
そんな全てを諦めてしまったかのような願いを残し、レッドはついに意識を途切れさせようとする。だが、どんな些細なものであろうとも、希望を持つことなど許されてはいなかった。
「――ふぅ、ッ!?」
半開きのまま真上に向けられていた口の中に、冷たい鉄で出来た異物がねじ込まれる。それが何であるか理解する前に、実演が行われていた。
虎の左手へと深く食い込ませていた上顎の牙を、鉄の塊ががっちりと挟み込み、そしてそのままねじるような動きで引っ張る。獣にとっての最後の武器であるそれは、意外なほどにあっさりと引き抜かれる。
(え……)
レッドはぽかんと口を開け、呆然とした様子で目の前の異物を眺める。虎の大きな手がペンチを掴んでいる。そしてそのペンチには、血の滴る牙が挟まれていた。
だいぶ活動の鈍ってしまった頭が、数秒かけてそれが何であるかを理解する。そしてレッドは、まるで生気を失ってしまった瞳で少しの間それを眺めた後、口の中に溜まった血を吐き出した。
「なんだ? 急に黙りやがってよ」
そのつまらない反応を見せ付けられ、虎が苛立ちを隠さぬ声で呟く。レッドの反応を確かめるようにその鼻面を殴りつけるが、淀んだ瞳が虚空を見上げるのみで、これといった反応は返らない。
虎はさらに苛立ちを強めた様子であったが、レッドがそうなるように仕向けたのもまた彼である。次々と希望を奪われ痛みで踏み躙られれるうちに、
絶望が彼の思考を満たしていた。
涙さえ枯れ果てた瞳はもう何も見てはおらず、怯えるように伏せられた耳はもう何も聞こうとはしていない。先ほどまでとはまるで違うその反応が理解できず、虎はレッドの口へと再びペンチをねじ込んだ。
今度は奥歯を強く挟み、牙と同様に力強く引き抜いた。レッドは一瞬だけ体を震わせるが、しかしもう先ほどまでのように泣き叫ぶことはない。何度試してもその反応は変わらなかった。
レッドはまばらに牙の残る口を半開きにして、歯茎から溢れる血を吐き出す。虎はその様子を見つめながら忌々しげに唸り、ペンチを足元へ投げ捨てた。
彼はそこまで頭が回る方ではない。難しい顔で暫く唸った後、レッドの変化に対して『この程度の痛めつけ方では慣れてしまったのだろう』と、結論をつけた。
そうなれば、やるべきことは一つである。再び意識を失いかけていたレッドを殴りつけ叩き起こすと、彼を強姦したときのように股を開かせる。
だが今度は先ほどのようにその華奢な体に覆いかぶさったりはしない。代わりに、巨根で掻き回され閉じきらぬまま精液を垂れ流す肛門へと、太い指をねじ込んだ。
「スカしてんのも今のうちだぞ?」
緩んだ肛門へと突き入れた人差し指と中指を、中の様子を確認するように動かす。腸内に残った精液をかき混ぜ、くちゅくちゅと音を鳴らす。
それだけの動きであれば対して痛みを伴うものではない。レッドは虚空を見つめたまま何の反応も示さなかった。だが、虎は一度指を引き抜くと、今度は5本の指を全て束ねるようにして、めくれ上がった肛門へと押し付ける。
その指先が少しねじ込まれるだけで、レッドの肛門はシワが一つも残らないほどに拡げられていた。限界まで張り詰めていることは誰の眼にも明らかである。これ以上奥へと押し込めばどうなるかも。
「――ッ」
ほとんど反応を失っていたレッドが、虎の手から逃れようとするかのように腰を動かした。ようやく帰ってきたまともな反応に下品な笑みを浮かべながら、彼はレッドの体を押さえ込み、さらに腕を押し付ける。
ブチブチと何かが切れる音が聞こえた。それでも虎は小さな穴へと自分の手を押し込もうとする。すでに5本の指の第一間接ほどまでが飲み込まれていた。
まるで太い縄を構成する糸が一本ずつ切れてゆくような手応えである。そしてその状態が続くほどに、レッドの顔に表情が戻ってゆく。
継続する激しい痛みは、鈍った彼の頭が処理できないほどにまでなろうとしていた。拒絶するように首を左右に振り、その目を再び涙に潤ませ、何かを懇願するように口が動く。
「なんだ、ちゃんとできるじゃねぇか」
牙もほとんど残らぬ口をぱくぱくと動かすレッドを見つめながら、虎が楽しげに言った。そして、肛門へと押し付ける手へとさらに力を込める。ある意味焦らすようにゆっくりと押し付けられていた手が、生々しい音を立ててレッドの肛門を裂いた。
(い……、たい……?)
何かがちぎれるような感触とともに、肛門からの抵抗が一気に失われる。レッドの太ももと同程度の大きさを持つ虎の腕が、完全に締め付けを失ったそこへと飲み込まれていた。
虎はレッドの腸内へと挿入した右手を握りこぶしにすると、その温かい肉の感触を味わうかのように左右へと腕をねじる。このまま少し力を込めれば、張り詰めた直腸を引き裂いて内臓を鷲掴みに出来そうだ。
だが、今はしない。しかし、そうまでしなくてはレッドが反応しなくなったときには……。虎はその瞬間へと思いを馳せ、再び肉棒をいきり立たせせる。
「――!! ッ!! ……ッ!」
レッドは再び体を苛み始めた激痛に悶え、この虎からの虐待が開始されたばかりのときのように涙を流し潰れた喉から悲鳴を上げる。
その反応を満足げに眺めながらひとしきり腸内の感触を味わうと、虎は乱暴な動作で右腕を引き抜いた。
完全に締まりを失い、ぽっかりと口を開ける肛門から、てらてらと光沢を放つ粘液をまとった紅い肉がはみ出る。それを指先でいじくりながら、虎はレッドの耳元へと口を近づけた。
「俺に逆らいたかったら逆らえよ。いくらでもいてぇ思いをさせてやるからよぉ?」
虎はこらえきれずに笑い声を漏らすと立ち上がり、いきり立った肉棒を見せ付けるかのようにレッドの顔を跨ぐ形で腰を下ろす。
レッドは涙を溜めた瞳でその赤黒い肉の杭を見つめた。己に残った一握りの尊厳を守り通したいのであれば、目の前に突きつけられたそれに対して何をすればいいのか分かっている。
「ぴちゃ……、ぺろ……」
だが、そうはしなかった。レッドは鼻腔を突く雄の匂いに耐えながら虎の肉棒へと舌を這わせ、表面に付着した精液の残りや恥垢を舐め取ってゆく。
吐き気を感じるほどに気持ち悪いが、地獄のような痛みよりはずっとマシだ。
レッドは両目から大粒の涙をこぼし肩を震わせ虎の顔色を伺いながら、拙い舌遣いで奉仕を続ける。胸の内で何かが壊れる音がした。失ったものは、きっともう二度と戻らない。
終
まるで骨の中に鉛を詰められてしまったかのような気分だった。爪先から耳の天辺まで、全身にその重さが圧し掛かっている。
固い木製の床に伏しながら、まともに動かすことも出来ぬ体に苛立ちつつレッドはそう思い浮かべた。顔を上げるだけにも時間がとられてしまう。
なんとか上体を起こし、重たい目蓋を少しずつ開いてゆくと、優しげなランプの灯りに照らされた部屋がグラグラと揺れていた。
いや、揺れているのは自分の瞳の方であると、時間が経つにつれて揺れの収まってゆく部屋の様子を見ながら彼はようやく気づく。
「ショコラ……、ここ、ッは――けほッ、うッ!!」
彼はその見覚えのない部屋を見回しながら、いつもの癖で宙へと問いかけるが、咳にその言葉を遮られる。ひどく息苦しい。のどが締め付けられるような不快感に、呼吸がまともに出来ない。
加えて、その問いかけへの返答もない。彼の声を拾うマイクも、気の強い妹からのナビゲートを伝えてくれる通信機は見当たりはしなかった。
右腕が何かを探すような手つきで、目の前にゆっくりと伸ばされる。ダハーカの操縦桿を握るときの動作であった。
霞に包まれた思考は今だに自分の置かれた状況と言うものを理解できていなかったが、それでも幾ばくかの不安を感じるには充分な材料が揃っていたらしい。
縋るように伸ばされた手は空を切るが、それが彼の中でのスイッチになったようであった。半分眠っているかのようにとろんとしていた瞳が、驚愕に見開かれる。
覚醒しきっていなかった頭から急速に霞が晴れてゆく。常に自分を助けてくれる存在から完全に隔離されてしまったと言う実感が彼を叩き起こしたのだ。
だが、今に限って言えば意識の回復も悪い方向へと働いてしまう。なんとか働くようになった頭が今の状況を理解しようと思考を始めるが、同時に無意識のうちに遮断されていた感覚が、意識の覚醒と同時に彼の体を襲っていた。
「あぁあああっ、あぁ……ッ! ――ッ、――!!」
左右の足に猛烈な痛みを感じる。レッドは全身を震わせながら悲鳴を上げようとするが、呼吸がまともにできず声が出ない。それどころか、全身をこわばらせ叫ぼうとするほどに意識が遠のいた。
異変に狼狽し震える両手をのど元へとやると、皮製の首輪が彼の細い首筋に食い込んでいた。それは命を奪うほどに呼吸を妨げはしなかったが、しかし激しい運動や大声を上げることを不可能にしている。
何とか首輪を外そうとはするが、手元が震えて金具を外すことは出来そうにもない。そしてそれを引きちぎるには、彼は非力すぎた。
小さな手が喉を掻き毟るように動き、その行動の成果は首輪の周りにうっすらと血が滲むというだけである。
狼狽し困惑する頭の中に残った一握りの理性を用いて、なんとか息を落ち着けるよう深呼吸しようとするが、両足から走る焼け付くような痛みがそれを妨害する。
レッドは瞳に涙を溜めながら、痛みを放つ足へと視線を向け、そして絶句した。
「ひッ……!」
喉の奥から掠れた悲鳴が漏れる。両足は足の甲を重ね合わせる形で鉄製の杭を突き刺され、床に縫いとめられていた。
すでにそれを突き刺されて時間が経っているのか、傷口から溢れた血液はどす黒く固まっている。すでに出血もなく、首輪と同様に直接命に関わることはなさそうではあるが、絶え間ない痛みに苦しめられる。
レッドは首輪を外すことを諦め、体を起こしその杭へと手を伸ばすが、少し動くたびに傷口から激痛が走る。体のどこかで筋肉が動くたび、杭を打たれた足が痛んだ。痛みに耐えてどうにか杭へと手を触れても、彼の細腕では深く打ちつけられた杭を少しも動かせはしなかった。
痛みによる消耗で求める空気の量は増えてゆくが、喉を締め付ける首輪がそれを許さない。再び頭に霞が掛かり始めていた。
判断力を失い、何でもいいからこの状況を打破する道具はないかと身の回りを両手でまさぐるが彼の手の届く範囲に置かれたものは何一つなく、そして喉を締め付ける首輪だけが彼が唯一身につけているものであった。
打開策もないまま、ひたすら恐怖だけが頭の中で膨れ上がってゆく。股の間に挟まれた尻尾によって隠れている股間では、玉袋と竿がきゅぅっと縮こまっていた。
苦しい。怖い。それだけに思考を支配され掠れた声で泣き始めそうにそのとき、彼の背後で扉の開く音が聞こえた。
「なんだ、起きてたのか」
そして聞こえてきたのは野太い男の声であった。レッドは今にも泣き出しそうに歪めた表情で振り返る。
そこにいたのは中年のネコヒトの男であった。ぼろぼろのズボンと汗と汚れの染みたランニングの姿は、シェットランドで働く鉱員たちと同じである。
小柄なレッドとは対照的に、筋骨隆々とした体つきと虎に似た顔つきを持つ大男である。虎は片手に握った酒瓶を煽ると、レッドへと向かって歩き出す。
距離が狭まるほどにきつい汗の匂いが鼻をついたが、今はその程度のことなど気にはならない。レッドは掠れる喉から言葉を搾り出す。
「た……、すけ……ッ」
『助けてくれ』。潰れた声で途切れ途切れに言った言葉であるが、相手の男にも充分理解できる範囲であった。だが、虎はレッドの言葉を無視して、いくつもの縫い傷が刻まれた彼の体へと大きな手をかぶせる。
その行動の意味が理解できずに困惑するレッドをよそに、虎は酒瓶を脇に置き口元を歪めながらレッドの体を撫で回す。
引き締まった尻を撫で、太ももをまさぐり、やがてその手は杭で打ち付けられた足へと辿り着く。生々しい傷口を見つめながら虎が口元をニタッと吊り上げた。その仕草に激しい不安を感じ、レッドは相手を制止するように手を伸ばすが、彼はレッドの意思などまるで興味がないかのごとく、その右足を鷲掴みにした。
「ぁ――ッ!!!!」
強く掴んだ足を力任せにぐりぐりと捻る。閉じかけていた傷口から血が滲み、その激痛にレッドが全身を震わせた。眉間にシワを寄せながら口をいっぱいに開くが、そこから出るのは掠れた息だけである。
床の上でのたうつように震えながら、レッドの頭では疑問ばかりが浮かぶ。なぜこの男はこんな酷いことをと、深く考えなくとも容易に想像がつきそうな事柄であるが、今の彼ではそれも難しかった。
まるで状況を飲み込めていない様子のレッドを見据え、虎は伏せられた耳元へと呆れたような口調で話しかける。
「酸素が足りなくて馬鹿になっちまったのか? なんでここにいるのか思い出せねぇのかよ」
レッドの頭を押さえつけ荒っぽい口調で問いかけながら、首輪の金具を外してその締め付けを緩める。
ようやく得られた開放感に笑みさえ浮かべながら、レッドは大きく息を吸い込んだ。動きの鈍っていた頭は、大量の酸素を取り入れて再びその活動を再開する。なぜ自分がここにいるのか、なぜこんな目に遭っているのか、自分自身へと問いかけた。
「て、めぇ……ッ」
その疑問の答えはすぐに浮かび上がった。レッドは震える声で怨嗟の言葉を吐く。ダハーカから降りたところを罠に嵌められ、この男に捕らえられた記憶が、頭の中で鮮明に思い起こされていた。
すぐにでも復讐を果たしてやろうとその目に怒りの炎が浮かぶが、しかし酸素を取り入れて思考力を取り戻した頭が、すぐさま『どうやって?』と疑問を投げかけてくる。
乗り手を失ったダハーカを、浮島から遥か下の雲海へと投げ捨てられるさまを見せ付けられた。護身用に使っていたスタンガンもなく非力な自分に対して、相手は大型犬の遺伝子を受け継いだ巨漢である。
その葛藤を察しているかのように、虎はいやらしい笑みを続けている。怒りと恐怖に体を震わせるレッドを見下ろしながら、ズボンのポケットへと片手を突っ込む。
「助けを呼ばれると厄介なんでな」
そう話しながら、透明の液体が入った小瓶を取り出す。コルク製の栓を口で挟んで引き抜くと、レッドの口を片手でこじ開ける。
その液体をどう使うつもりなのか、今なら充分に予想がつく。レッドは虎の手から逃れようと体を揺すり首を動かそうとするが、万力のような力で押さえつけられた顎はびくとも動かない。
悲鳴の一つでも上げたかったが、喉の締め付けが解かれたばかりの今では、まだ思うように声も出せない。
すべての抵抗は意味を成さず、小瓶はレッドの口の上で傾けられる。刺激臭を放つ透明の液体が、とぽとぽとレッドの口内へと注がれた。
「んぐぅ――!!!」
それと同時に虎はレッドのマズル掴み鼻を塞ぐ。喉の手前で溜まった液体は、肉が焼け爛れるかのような痛みを放った。
窒息に意識も遠のきかけた頃、ようやく彼はレッドの鼻面から手を離す。薄らいだ意識の中、彼は大きく息を吸い込むのを止めることができなかった。
「か、はぁ……ッ、あ゛あ゛ぁ……!!」
普段の快活な声とはまるで掛け離れた、壊れた蓄音機から発せられたかのような歪な声がレッドの口から漏れる。
喉の奥へと流れ込んだ液体が、まるで煮え滾った鉛を飲まされたかのような痛みを放っていた。声帯が焼け爛れてゆく。レッドの掠れた悲鳴は、徐々に人の声とさえ認識できぬ呻きへと変わり、そしてついにそれさえも消えた。
「――ッ!…… ッ!!?」
声が出ない。どんなに口を開いて大声を放とうとしても潰れた喉を息が通り抜け、焼けた爛れた声帯に例えようもない痛みが走るのみである。
だがレッドは、その事実を受け止めることができなかったのか、ひたすら口を開き、声を張り上げようとする。
頭の中には、叫ぶ言葉がいくらでも浮かび上がった。きっと自分の帰りを待っているはずの人々の名、どんなときも自分を守ってくれた愛機の名、そして救いを求めての言葉。
しかしどんなに強く思い浮かべようとも、それが声として彼の口から発せられることはもう2度となくない。強烈な喉の痛みを伴って掠れた息を吐き出すたびに、彼はそれを自覚してゆく。
「いい顔になったじゃねぇか」
絶望に染まってゆくレッドの顔を見下ろして楽しげに耳をピコピコ動かしながら虎が言う。
彼の顔には下卑た笑みが浮かんでいた。もはや抵抗の意欲さえ消えかかり震えるばかりのレッドの姿を見据えながら、その股間ではズボンに大きなふくらみが出来ている。
熱の篭もった生暖かい息が、虎の口から吐き出される。レッドへと向けられる表情は、苦痛に悶える様子を楽しむと言うものから、純粋にレッドの裸体への欲情へと変わっていた。
もはや何かを叫ぼうとするのもやめ、半開きのまま浅い呼吸を繰り返す口元に左手を置き、右手はレッドの足を貫通する杭を掴む。彼の細腕ではどうにもならなかったその杭であるが、虎が右腕の筋肉を隆起させ満身の力を込めると、少しずつではあるが杭が引き抜かれてゆく。
足を貫通した杭を動かされ、その痛みにレッドがビクビクと震えていた。その両目から涙を溢れさせ潤んだ視界に虎顔が映る。
欲情し息を荒げる男の表情は、嫌悪を感じる以前に恐怖の対象であった。捕食者を前に身動きの取れぬ獲物の気分である。
ただ恐怖だけが思考を覆い、気づけば彼は唯一残っているか弱い武器を相手へと向けていた。
「ッ、つぅ……!?」
レッドの顔を押さえつける左手に痛みを感じ、虎が声を漏らす。見れば、レッドは涙を流しながらそこへ喰らい付き、爪を立てていた。その二つが、獣の遺伝子を受け継ぐ者たちの最後の武器である。
レッドは鋭い牙を相手の左手に食い込ませ、両手の爪でその腕を掻き毟る。涙と鼻水を滲ませながら、半狂乱と言った様子での抵抗である。
虎は予測していなかった抵抗に、口をぽかんと開けて動きを止めた。しかし、困惑はすぐに怒りへと変換された。
「こっの野郎!!」
虎は大声で叫びながら左手を引くが、レッドはそれを喰らい付いて離さない。牙を突き立てられた手へと血が滲み、より深く牙が食い込むほどに痛みも増す。
自制心が強いとはいえぬ彼を激昂させるには充分すぎる反抗であった。虎は引いていた手を、今度は床へとめがけて振り下ろす。その手に喰らい付くレッドの頭も、鈍い音を立てて床へと打ちつけられた。
「――ッ、かひゅ……ッ」
脳を揺さぶられたのだろう。レッドは白目を剥き、体を痙攣させて体毛を逆立てた後、意識を失った。だが、それだけでは怒りは収まらない。レッドの足から引き抜かれかけていた杭へと、虎は再び手を伸ばす。
すでに中ほどまで浮き上がっていたこともあり、少し力を入れればあっさりと杭は引き抜かれ、足の傷口からは少量の血が漏れる。
彼は杭を掴んだ腕を大きく振り上げ、レッドの顔へと狙いを定めた。完全に頭へと血が上っていた。その後の楽しみの予定は思考から締め出され、今すぐ目の前の生意気な小僧を殺してやろうと、それだけが目的と化す。
そしてその杭が今まさに振り下ろされようとしたとき、この小さな家のドアの向こうから声が響く。
『おーい、いきなり大声出してどうしたんだ!?』
「あ、すまん、少し……!」
大声を出させまいとレッドの喉を潰してやったというのに、自分で大声を出して隣人からの注意を引いてしまうとは。虎は目を丸くして冷や汗を掻き、振り上げた手を小さく震わせる。
『おい、どうしたんだ!? 何かあったのか!?』
「……む、虫が出たんだよ! それも飛び切りでかいやつがな! 」
『虫!? くそ、駆除が済むまでは頼まれたっお前の家にゃあがんねぇよ!!』
「ああ、そうした方がいい! 何とか一匹潰したが破片が飛び散っちまった! 今掃除してるんだ!」
ドアの向こうからは、さも気分を害した様子で『うへぇ』と隣人の声が響き、それきり相手は去っていた。虎は額に溜まった冷や汗を腕でぬぐうと、視線をレッドへと戻す。
まだ意識は戻っていない様子であった。もし気絶しないまま隣人に声をかけられていたら、大変なことになっていたかもしれない。虎はほっとした様子で大きく息を吐く。レッドへの怒りはすっかり削がれてしまった。
だが、また爪を立てられても面倒だ。レッドの爪で掻き毟られた左腕の毛皮には、虎縞に混じって薄く血が滲んでいる。
彼は忌々しげに鼻を鳴らすと気絶したレッドを仰向けに寝かせ、万歳するような体勢でその両手を重ね合わさせる。足のときと同様だ。
右手に握ったままの杭をその手へと振り下ろす。激しい音は立たず、杭はさくりとレッドの両手を貫通して床に突き刺さった。
「――ッ」
細い体が小さく揺れる。失っていた意識は再び叩き起こされ、力なく開いた口から消え入りそうな吐息が漏れた。
もはや何も語ることの出来ぬ口がゆったりと動き、何かを話すような様子を見せる。
その言葉がどういったものだったか、本人にすらもう分かりはしなかった。最後の抵抗さえ失敗し、レッドは全てを諦めたかのように生気を欠いた瞳で、目の前の虎の顔を見上げる。
大きな手がレッドの肢体を這い、そのいやらしい動きへの嫌悪感に体が揺れるたび、虎が下品な笑みを浮かべる。
均整の取れた胴体を撫で、その体の所々に見える縫い傷を指先でなぞる。柔らかな毛皮の感触を手先で味わうたびに虎の股間が再び膨らんでゆく。
「ご開帳といくかぁ……」
ぎらぎらと目を血走らせ舌なめずりをしながら、虎はレッドの両太ももへと手を添える。腰を軽く浮かせるように持ち上げながら足を開くと、尻元の体毛の奥に初々しいピンク色の肛門が見つけられた。
本来の目的以外では一度も使われたことがないのだろう。キュッと締まっている可愛らしい穴を貫いたとき、レッドはどんな反応をするだろうか。
虎は鼻息を噴出しながら自分のズボンへと手をかける。汗が染みてわずかに湿ったズボンを下ろすと、一日かけてズボンの中で熟成された汗と恥垢の匂いが周囲に漂った。
そういった匂いを嗅ぐ機会は少なかったらしく、レッドがむせ返るように咳をした。鼻面が苦しげにヒクヒク動いている。
そんなに嫌がられては興奮が深まるばかりだと、虎は生唾を飲み込んだ。股間からは恥垢に塗れた赤黒い巨根がそそり立っている。
股間を隠すように丸め込まれた尻尾を掴み脇に逸らすと、レッドの腕ほどの大きさもあるそれを、ピンク色の秘肉へとあてがった。
「……」
そのまま腰を動かし、硬く閉じたその場所へと先端を強く押し付ける。すぐに痛みが発生することはなく、レッドは周囲に漂う強烈な雄の匂いに顔をしかめるばかりであった。
やがて、丸い亀頭が入り口をこじ開けその体内へと侵入を果たす。慣れないそこを強引に押し広げられる感覚に、レッドが大口を開けて荒い息を吐き出した。喉が潰れていなければ、さぞ大声で叫んでいたのだろう。
虎が腰を押し込み、より深くへと肉棒を挿入してゆくと、それに伴ってぶちぶちと嫌な音が伝わってくる。許容量以上に拡げられた肛門からは鮮血が溢れ、結合部から竿へと伝っている。
「……ッ!! ッ――!?」
「へへ、感じてるじゃねぇか」
涙を流しながら体をビクビクと痙攣させ、逃れようと腰をくねらせるレッドを見つめながら、彼は冗談めかしてそう言った。
味わったことのない痛みなので想像はつかなかったが、慣らしもしていない肛門へと異物を突き入れられるには、相当な苦痛を伴うようである。
レッドの股間で縮こまっているそれを片手で掴み、こねくり回すように扱うと、彼の体の痙攣がいっそう強くなる。どうやら力加減を間違えたらしいと虎が苦笑した。
「ん、ここまでか……」
肉棒を中ほどまで挿入した辺りで、虎はそう呟いて腰の動きを止める。どうやら今はそれ以上奥には入りそうにない。彼は軽く舌打ちをしながら腰を引く。
「よっ、……とぉっ」
「ッッッ!!」
そして小気味のよい掛け声とともに、再び腰をレッドの尻へと打ちつける。結合部から漏れる鮮血を撒き散らしながら、ピストンが始った。
これまで以上の痛みに、レッドが壊れたように口を動かしている。何かを拒否するときのジェスチャーのように顔を左右に振り、そのたびに涙と鼻水、そして血混じりの涎を振りまいた。
汗の染みたランニングに新たな染みを作りながら、虎は容赦なくピストンを続ける。激しい音を立てて腰が打ち付けられるたび、肉棒はより深くレッドの体内へと飲み込まれてゆく。
痛いほどに勃起した肉棒を、血に濡れた肛門がきつく締め上げる。血液に混じって腸内から分泌される粘液が、ぐちゅぐちゅと淫らな音を奏でた。その匂いを吸い込みながら、虎の興奮はより激しくなってゆく。
だがレッドからすれば、その行為は拷問以外の何者でもない。肉棒自身に宿る熱と肛門の裂傷で、まるで焼け火鉢を突き入れられたかのような感覚であった。
もはや己に降りかかった不条理を嘆く余裕も、目の前の男に憎悪を向ける気概さえなかった。ただひたすらに、潰れた喉で叫び続ける。
(痛いッ、痛い痛い痛い痛い痛い!!! もう噛まねぇし抵抗もしねぇ、だから、やめてくれぇ……ッ!)
だがその声は、もう二度と誰にも届くことはない。どんなに口を動かしても、相手はそこから意味を読み取ろうとする様子すらなく、ただ腰を揺するばかりだ。
ついに虎の肉棒は根元までレッドの体内へと収まり、臓物を圧迫するかのような存在感を放つ。勢い良く腰を打ち付けられるたびに、レッドの喉からは呻くような息遣いが漏れた。
(もう、やめてくれぇぇええ!! 頼むから、何でも言うとおりにするから!!! もう逆らわねぇ! いたっ、痛いぃい!!)
大きく開いた口からは息遣いだけがひゅぅひゅぅと虚しく漏れる。レッドの体へと突き刺された肉の杭は、内臓を蹂躙しつくそうとするかのように腸内で暴れまわる。
腸内から溢れる腸液も、突き入れられた肉棒の先端から漏れる先走りも、その圧倒的な対格差の前では気休めですらない。虎が快楽を貪り腰を揺するほどに、レッドは激しい苦痛に悶え続けた。
「チンコぶち込むたびに震えやがって、女とかわらねぇなぁ?」
随分と荒くなった息遣いを整えながら、レッドの耳元へと虎が話しかける。当然その言葉への返答はないが、元からそのつもりでかけた言葉であった。
背が低く体つきも華奢な彼がピストンのたびに悶える姿は、意味合いは違うながらもそれをイメージさせる。そして、そんなイメージと重なってしまうようなレッドの姿がどうしようもなく滑稽で、そしてたまらなく劣情を誘うのだ。
虎が鋭い牙を剥き出しにして笑みを浮かべる。激しいピストンを繰り返し、限界がすぐそこにまで近づいていた。
レッドの両太ももへと深く爪を立て、まるで殴りつけるかのような勢いで腰を打ち付ける。激しい音を立てて肉と肉がぶつかり合うたび、彼の爪は深く突き刺さりレッドの太ももの毛皮に血が滲む。
尻は痛みを通り越して、ジンジンと例えようもない熱だけが残っていた。腰を打ち付けられるたび骨の軋む感覚が背筋へと伝わってくる。尻の辺りの毛皮は猿のそれのように真っ赤に染まっていた。
(たすけて……)
「うおおおおっ……!!」
もはや泣き叫ぶ余力も失い虚ろな瞳を宙へと向けながら、レッドはもごもごと腰を動かした。その最後の言葉さえも踏みにじるかのように、虎は押し殺した声で叫ぶ。
――びゅるぅううううううううううっ!!
男のイチモツによってぐちゃぐちゃにかき回された腹の中へと、熱い液体が流れ込む。
男によって犯されあまつさえその精液を流し込まれてしまったという事実に対する嫌悪感は、もうなかった。
ただ、苦しみしか生まぬ行為にようやくの終了が訪れたと言う安堵に彼は大きく息を吐いた。全てを踏み躙られ、奪われ、彼は諦めるしかなかった。
(……)
随分と柔らかくなった肉棒が、血に塗れた肛門からずるりと引きずり出される。巨根で押し広げられめくれ上がった肛門から、血と精液の混じった淡い桃色の液体が漏れ出し、床に溜まった小さな血だまりへと垂れ落ちる。
レッドは気絶したかのように体を脱力させ、目蓋を閉じる。体中を痛みが包んでいたが、疲労はそれを上回り彼の感覚を鈍らせてゆく。虎の体が自分から離れたことさえ気づかぬほどに。
体は休息を求め、レッドの意識はまどろみの中へと吸い込まれてゆく。身を包む苦痛は雪のように溶けていた。出来ることなら、そのまま目を覚ましたくないのに……。
そんな全てを諦めてしまったかのような願いを残し、レッドはついに意識を途切れさせようとする。だが、どんな些細なものであろうとも、希望を持つことなど許されてはいなかった。
「――ふぅ、ッ!?」
半開きのまま真上に向けられていた口の中に、冷たい鉄で出来た異物がねじ込まれる。それが何であるか理解する前に、実演が行われていた。
虎の左手へと深く食い込ませていた上顎の牙を、鉄の塊ががっちりと挟み込み、そしてそのままねじるような動きで引っ張る。獣にとっての最後の武器であるそれは、意外なほどにあっさりと引き抜かれる。
(え……)
レッドはぽかんと口を開け、呆然とした様子で目の前の異物を眺める。虎の大きな手がペンチを掴んでいる。そしてそのペンチには、血の滴る牙が挟まれていた。
だいぶ活動の鈍ってしまった頭が、数秒かけてそれが何であるかを理解する。そしてレッドは、まるで生気を失ってしまった瞳で少しの間それを眺めた後、口の中に溜まった血を吐き出した。
「なんだ? 急に黙りやがってよ」
そのつまらない反応を見せ付けられ、虎が苛立ちを隠さぬ声で呟く。レッドの反応を確かめるようにその鼻面を殴りつけるが、淀んだ瞳が虚空を見上げるのみで、これといった反応は返らない。
虎はさらに苛立ちを強めた様子であったが、レッドがそうなるように仕向けたのもまた彼である。次々と希望を奪われ痛みで踏み躙られれるうちに、
絶望が彼の思考を満たしていた。
涙さえ枯れ果てた瞳はもう何も見てはおらず、怯えるように伏せられた耳はもう何も聞こうとはしていない。先ほどまでとはまるで違うその反応が理解できず、虎はレッドの口へと再びペンチをねじ込んだ。
今度は奥歯を強く挟み、牙と同様に力強く引き抜いた。レッドは一瞬だけ体を震わせるが、しかしもう先ほどまでのように泣き叫ぶことはない。何度試してもその反応は変わらなかった。
レッドはまばらに牙の残る口を半開きにして、歯茎から溢れる血を吐き出す。虎はその様子を見つめながら忌々しげに唸り、ペンチを足元へ投げ捨てた。
彼はそこまで頭が回る方ではない。難しい顔で暫く唸った後、レッドの変化に対して『この程度の痛めつけ方では慣れてしまったのだろう』と、結論をつけた。
そうなれば、やるべきことは一つである。再び意識を失いかけていたレッドを殴りつけ叩き起こすと、彼を強姦したときのように股を開かせる。
だが今度は先ほどのようにその華奢な体に覆いかぶさったりはしない。代わりに、巨根で掻き回され閉じきらぬまま精液を垂れ流す肛門へと、太い指をねじ込んだ。
「スカしてんのも今のうちだぞ?」
緩んだ肛門へと突き入れた人差し指と中指を、中の様子を確認するように動かす。腸内に残った精液をかき混ぜ、くちゅくちゅと音を鳴らす。
それだけの動きであれば対して痛みを伴うものではない。レッドは虚空を見つめたまま何の反応も示さなかった。だが、虎は一度指を引き抜くと、今度は5本の指を全て束ねるようにして、めくれ上がった肛門へと押し付ける。
その指先が少しねじ込まれるだけで、レッドの肛門はシワが一つも残らないほどに拡げられていた。限界まで張り詰めていることは誰の眼にも明らかである。これ以上奥へと押し込めばどうなるかも。
「――ッ」
ほとんど反応を失っていたレッドが、虎の手から逃れようとするかのように腰を動かした。ようやく帰ってきたまともな反応に下品な笑みを浮かべながら、彼はレッドの体を押さえ込み、さらに腕を押し付ける。
ブチブチと何かが切れる音が聞こえた。それでも虎は小さな穴へと自分の手を押し込もうとする。すでに5本の指の第一間接ほどまでが飲み込まれていた。
まるで太い縄を構成する糸が一本ずつ切れてゆくような手応えである。そしてその状態が続くほどに、レッドの顔に表情が戻ってゆく。
継続する激しい痛みは、鈍った彼の頭が処理できないほどにまでなろうとしていた。拒絶するように首を左右に振り、その目を再び涙に潤ませ、何かを懇願するように口が動く。
「なんだ、ちゃんとできるじゃねぇか」
牙もほとんど残らぬ口をぱくぱくと動かすレッドを見つめながら、虎が楽しげに言った。そして、肛門へと押し付ける手へとさらに力を込める。ある意味焦らすようにゆっくりと押し付けられていた手が、生々しい音を立ててレッドの肛門を裂いた。
(い……、たい……?)
何かがちぎれるような感触とともに、肛門からの抵抗が一気に失われる。レッドの太ももと同程度の大きさを持つ虎の腕が、完全に締め付けを失ったそこへと飲み込まれていた。
虎はレッドの腸内へと挿入した右手を握りこぶしにすると、その温かい肉の感触を味わうかのように左右へと腕をねじる。このまま少し力を込めれば、張り詰めた直腸を引き裂いて内臓を鷲掴みに出来そうだ。
だが、今はしない。しかし、そうまでしなくてはレッドが反応しなくなったときには……。虎はその瞬間へと思いを馳せ、再び肉棒をいきり立たせせる。
「――!! ッ!! ……ッ!」
レッドは再び体を苛み始めた激痛に悶え、この虎からの虐待が開始されたばかりのときのように涙を流し潰れた喉から悲鳴を上げる。
その反応を満足げに眺めながらひとしきり腸内の感触を味わうと、虎は乱暴な動作で右腕を引き抜いた。
完全に締まりを失い、ぽっかりと口を開ける肛門から、てらてらと光沢を放つ粘液をまとった紅い肉がはみ出る。それを指先でいじくりながら、虎はレッドの耳元へと口を近づけた。
「俺に逆らいたかったら逆らえよ。いくらでもいてぇ思いをさせてやるからよぉ?」
虎はこらえきれずに笑い声を漏らすと立ち上がり、いきり立った肉棒を見せ付けるかのようにレッドの顔を跨ぐ形で腰を下ろす。
レッドは涙を溜めた瞳でその赤黒い肉の杭を見つめた。己に残った一握りの尊厳を守り通したいのであれば、目の前に突きつけられたそれに対して何をすればいいのか分かっている。
「ぴちゃ……、ぺろ……」
だが、そうはしなかった。レッドは鼻腔を突く雄の匂いに耐えながら虎の肉棒へと舌を這わせ、表面に付着した精液の残りや恥垢を舐め取ってゆく。
吐き気を感じるほどに気持ち悪いが、地獄のような痛みよりはずっとマシだ。
レッドは両目から大粒の涙をこぼし肩を震わせ虎の顔色を伺いながら、拙い舌遣いで奉仕を続ける。胸の内で何かが壊れる音がした。失ったものは、きっともう二度と戻らない。
終
【グロ】レオシリーズ スライムに侵食される by 森谷
いつものようにSS書いていただいてます。
スライム姦 脳姦 達磨 悪堕ち グロ
性描写がほぼ無いので注意 だそうです。
written by もけ
四方を石造りの壁に覆われ、出口さえも存在せぬ部屋の中で、レオは透明の粘液の塊へと向けて、剣を構えていた。
液状の体をうねらせるその塊を、スライムとでも形容すべきであろうか。対峙するレオと同程度の大きさをもったそれは、液状の体から、その一部を触手のように伸ばして彼の体を絡め取ろうとする。
彼とて、自分に向けて伸ばされた触手を叩き切る程度の事は出来たが、相手は元が粘液だ。切り伏せ飛び散らせたところで、すぐに寄り集まって復元してしまう。
逃げ場の無い空間で、倒す事も適わぬ敵との戦うレオの表情には、肉体以上に精神面での疲れが浮かんでいた。効果すら確認できぬまま続く戦いは、確実に彼を消耗させている。
レオは、このいつ終わるとも知れぬ戦いにほとほと疲れ果てていた。スライムの体から伸び、自身へと向かってくる数本の触手を切り伏せ、後退りをしながら、彼の視線は自らを閉じ込める壁へと向いた。
いくら切り伏せても意味の無いスライムと違い、これなら切り崩す事も可能ではと、現状を打破する求めて、一瞬だけ考え込む。
すぐさま次の触手が伸びてくる。ゆっくりと考える余裕など無かった。レオは姿勢を低くして触手を避けると、伸びきったそれを切り上げ、その勢いのまま剣を壁へと叩き付けた。
鋭い斬撃で壁を切り崩す事が彼の考えであったが、その考えを実行するには、もう遅すぎたようであった。
――キィィンッ!
壁へと叩きつけられた剣は、その中ほどからぽっきりと折れて、刃は澄んだ金属音を発しながら宙を舞い、床へと落ちて、からんと音を立てた。
数多くの敵を切り伏せてきた剣が容易く破損したことに、レオは驚愕の表情を浮かべる。そうして出来た一瞬の隙を、やすやすと逃してくれる敵でもなかった。
「ぐっ、あぁ!?」
長く伸びた触手の先端が、レオの右足へと突き立てられた。鋭く硬化した先端がブーツを貫き、右足を貫通して床へと突き刺さっている。足を縫いとめられ身動きの出来ぬ彼へと、今度は触手ではなくスライムの本体が飛び掛かっていた。
自分と同等もある粘液の塊へと向けて、レオは折れた剣を振るうが、その刃はスライムの中に飲み込まれ、その体を両断する事もなく通過していた。
水を切り裂くような味気ない感触を覚えた後、スライムの体を通過した剣を見ると、その刀身が腐食したように崩れかけていた。石壁を切り崩すどころか、剣の方が折れてしまった理由はこれのようだ。スライムが伸ばす触手を切るうちに、刃が脆くなっていたらしい。
「くぅ……ッ」
剣をも溶かすようなスライムが体を包めば、どうなってしまうか考えたくも無い。なんとかして右足の拘束を解き、向かってくるスライムから避けなくては。
レオは次に、刀身の3分の2ほどを失い脆く腐食した剣を、自分の足を貫く触手へと振り下ろした。こちらなら両断する事は可能だ。
壊れた剣を振るうと、今度は思い通りに触手を断ち切る事が出来た。レオの考え通りに行かなかったのは、そこからである。傷ついた右足を引き摺り身を引こうとした瞬間、触手に貫かれた右足の甲から、冷たい感触が拡がった。
血管へと氷水を流し込まれたような感覚に、レオは身震いをする。なんとか身を引いてスライムの塊の突進を避けたが、右足が震えて尻餅をついていた。見れば、触手が形を変えて右の足先を包み、ブーツに開いた穴から流れ込む。
「なっ!?」
スライムに包まれたブーツが、シューシューと音を立てて溶けて行く。だが、それよりもレオは、露わになった自らの足を見て驚愕の声を上げていた。彼の右足は、まるで死体のそれのように青ざめている。レオの肌とは似ても似つかぬ色合いであった。
そして、それよりもレオを焦らせたのは、触手に貫かれた足の甲にぽっかりと空いた穴から、スライムが彼の足の内部へと流れ込んでいる事であった。それに伴い、氷水の感触が足首にまで上がってくる。体を侵食される恐怖を感じ、レオはすぐさま行動していた。
「ふんッ!」
壊れた剣を、迷う事無く自分の足へと振り下ろす。だが、もはや彼の剣には骨を断つほどの切れ味など残っていない。生々しい音を立てて肉を裂くが、刃は骨に当たって止まり、それ以上進まなかった
傷口から血が吹き出る。血管を侵食したスライムに追い出され、体外へと排出されているようでもあった。レオは狼狽した様子で獅子の面を引き攣らせる。立ち上がろうにも、スライムに侵された右足に力が入らず、それすら難しい。
そして立ち上がる事もままならぬ有様の彼を、敵が狙わないはずも無かった。スライムの塊が、レオへと向けて突進する。先ほどは間一髪避けることが出来たが、今回はそれも不可能だ。投げ出された両脚を粘液が包み込む。ついに彼は、その体を捕らえられてしまった。
「こ、やつ……! 我が身体を……!?」
スライムが足の表皮を突き破り、体内へと侵入してくるのを感じ、レオは戦慄したように呻いた。一瞬の激痛に身体を震わせると、程なくして両脚の感覚が失われ始める。その身を蝕まれ奪われてゆく恐怖は、彼を持ってしても耐え切れぬものがあった。
レオは恐怖から目を見開き、剣を杖のように使いながら、今だ完全に支配されていない左足で地面を蹴る。足を包み込むスライムを多少振り払えはしたが、彼の両脚は既に青ざめ、その侵食の度合いを物語っていた。事実、彼の脚はその挙動を最後に、動きを止めてしまう。
「脚が……ッ!?」
立ち尽くした状態で脚が動かなくなっていた。レオがどんなに意識しようが、もはや両脚には一切の感覚がなく、その場に立った状態で硬直したように動きを止めている。
脚の異変に彼が戸惑っていると、今度は顔へと向けて、スライムの本体から触手が伸びる。左手の盾でなんとか防ぐが、盾に激突し飛び散ったスライムは、彼の腕や肩へと降り注いだ。ひやりとした感触に、背筋がぞわりと震える。
「ぐっあぁ……!!」
触手が飛び掛るのは顔だけではない。今度は股間へとひやりとした感触を感じ、レオが呻く。腰へとへばりついた粘液が、尻や陰部を隠す腰布を溶かしていた。スライムは、露わになったレオの性器を包み込むと、その鈴口から彼の体内へと侵入を始める。
氷水が尿道から流れ込む感覚に、レオは震えながら声を上げた。動く事も無くなった足へと、再度スライムの本体がにじり寄り、侵食を再開する。
「くっ、この……程度……ッ」
苦しげにレオが言葉を吐く。しかし、もはやそれは強がりですらなかった。両脚どころか、今や下半身の感覚までが消え失せようとしている。冷たさも痛みも快楽も無く、ただ感覚の全てを消えさってゆく、言い知れぬ喪失感があった。
見れば、足を包み込むスライムの本体から再度触手が伸び、彼の肛門から体内へと流れ込んでいる。スライムに侵食された肛門は弛緩し、大口を開けて侵入を受け入れていた。
流れ込んでくるスライムが腹の内側で何をしているかは分らなかったが、腹の中で何かが弾けるような痛みと感触を覚えた後、下腹部がぷっくりと膨らみだす。
さらには尿道から流れ込んだスライムが、レオの玉袋を異常なほどに肥大化させている。まるで風船に水を流し込むかのように肥大化してゆく睾丸に、レオは吐き気さえ覚えた。
今にも千切れそうなほど重々しく股間から垂れ下がる玉袋を、脚に纏わりついていたスライムが優しく受け止め、両脚と同様に包み込む玉袋を這い登るスライムが、その表面にぷつぷつと穴を空け中に流れ込んでゆく。
レオは言葉を発する事も出来ぬまま、それを眺める事しか出来なかった。だが、侵食は何もそこからだけ行われているわけでもない。
「がっ!!?」
不意に強烈な痛みを感じてレオが悲鳴を上げる。盾にへばりついたスライムが、彼の指へと伸びていた。指と爪の隙間を抉じ開け、そこから彼の手の中へと侵食を始める。右の肩と二の腕に落ちた粘液も同様に、レオの肌に穴を空け、その内側へと潜り込んで行った。
最初の一瞬受ける激痛に悶えると、後はスライムに入り込まれた箇所から、徐々に青白く変色し、感覚が失われてゆく。レオは唯一動かす事の適う胴体をねじり、身体を激しく揺さぶってスライムから逃れようとするが、もはや体内へと侵入したものはどうしようもなかった。
失われてゆく四肢の感触に戦慄しながら、死体のように冷たく体温を失っていく身体を見る。いよいよ自分が助かるという希望を抱く事が出来なくなっていた。
目尻に涙を浮かべながら、レオは悔しげに呻く。もはや腕も脚も動かない。スライムに満たされた腹は膨らみ、臓器を圧迫され感覚に吐き気を覚え、何度も声を漏らした。
やがて、限界まで膨らまされた袋から、不穏な音が鳴り始めた。ミチミチと体組織を引き伸ばされる生々しい音である。そして、レオの不安は当たっていた。程なくしてレオの玉袋が弾け、いびつに肥大化した睾丸が露わになる。
肥大化した睾丸から生成された大量の精液がスライムへと降り注ぎ、スライムはその白濁色と混ざり合ってゆく。レオの情報を取り入れることで、知性すら無いアメーバーの如き生物に、何かの変化が起こっているようであった。
「ぐっ、なに……を……」
スライムの本体から四本の触手が延びる。次は何をするつもりなのかと、レオは獅子の丸い耳を伏せ、怯えを隠す事も出来ずにマズルへと皺を寄せていた。
触手はレオの四肢それぞれの付け根へと絡みつき、鋭く締め上げる。スライムは刃物のように鋭くレオの身体へと食い込んでいた。脚は既に感覚を失っており、痛みは無い。だが、両肩は今だ侵食されきっておらず、痛覚も残っていた。筋骨隆々たる両肩から血飛沫が吹き上がる。
「がっ、あぁああっ!!?」
両腕を切られると同時に、表面を焼かれるような熱を感じ、レオは悲鳴を上げながら目を見開く。だが、やがてその痛みも恍惚とした熱へと変わり、やがては一切の感覚を失われ、何も感じなくなってゆく。
恐怖と伴う強烈な喪失感に、レオがついに涙を零した。それと同時に、ついに四肢が完全に切断され、達磨と化したレオの身体が床へと投げ出される。手足を失った身体で受身を取れるはずも無く、鼻面を床に打ち付け、床と激突した反動で仰向けにひっくり返った。
ほとんど胸周りまでが変色し、四肢の断面は火傷のように爛れ、さらには破れた玉袋が歪な形に肥大化した睾丸に被さっていた。哀れとしか言えぬ有様のレオを見下ろしながら、スライムはレオから奪い取った四肢をとり入れ、レオの姿形を模していた。
レオは身動きすらも出来ないまま、スライムが自分の形を真似る様子を見せ付けられる。自らを信じてくれる国の民たちのために使うべき身体を、下衆なスライムに奪われたという事実が、何よりも屈辱であった。
やがてスライムは、大よそ人に似た形をとると、レオから奪った脚で地面を歩き、彼の傍へと歩み寄る。そして脚と同様に奪った右腕を彼の顔へと伸ばし、獅子の鬣を掴んで彼の体を持ち上げた。
「くっ……」
奪った四肢を己の物のように使う様子を眺め、レオは忌々しげに牙を剥き唸り声を上げた。だが、スライムが相手では表情すらも読み取る事が出来ない。頭の部分はレオと同じ獅子を模しているが、その透明な獅子の顔に表情などは無い。
レオから様々な物を奪ったそれは、更に次のものを求めて、体から一本の触手を伸ばす。今までレオの身体を攻撃してきたものと違い、随分と細く、またどこか生物的な肉感を放っていた。その触手はレオの顔へと絡みつき、そのマズルや額を這い回ると、やがて彼の右耳へと行き着いた。
強烈な不安感に襲われるが、もはや胴体の大部分も侵食され、動かせるのは顔程度であった。口を動かすが、腹部を膨らませているスライムに肺をはじめとした臓器が圧迫されているせいか、短い呻き声しか発する事が出来ない。
ぬめぬめとした触手は、丸い獅子の耳へとねっとり絡みつき、やがて細い先端が、その内部へと入り込む。耳から挿し込まれた触手は、まるで探索でもしているかのように、レオの頭の中を蠢いた。脳の表面を触手が這いずる。痛みも感触も無いが、ただひたすら激しい吐き気に襲われた。
「ぐッ……、あッ……、うぐっ……」
触手が頭蓋の表面へとまわり、そこを這いずる様子が、レオの額に浮かび上がる。顔を引き攣らせながら間の抜けた声を漏らし、口から涎を零す。まるで正気を失ったような表情だ。
レオの頭の中を這い回った触手は、やがて彼の右眼孔からその先端を表した。眼球を撫でるようにうねうねと動き続けると、少しずつレオの右目が青みを帯びてゆく。レオの身体をそうしたように、頭へも侵食が始まっていた。
右耳からするすると触手が引き抜かれ、頭の中を這いずり回るものはなくなるが、それでも彼は口をぽかんと開け涎を垂らしたまま、顔を引き攣らせていた。
ゆっくりと、しかし確実に、レオの脳は侵食され、同時にその首までが青白い死体の色へと変色する。不恰好に膨らんだ腹に溜まっていた粘液は、レオの胴体に行き渡り、その身体を完全に奪っていた。
もはや身体の感覚は完全に無くなり、思考すらも蝕まれ続けている。己の存在を感じることが出来なくなっていた。自分がこの世から跡形も無く消え去ってしまうような心地がして、耐え切れないような恐怖を感じる。
「あっ、ぎっ……、がっあぁ……ッ」
レオは顔を引き攣らせながら、意味も成さぬ呻き声を漏らす。既にその両眼は元とは別の色に染め上げられていた。後はそう長くも掛からないと、スライムの方もどこか感じ取ったらしく、レオを取り込むべく最後の仕上げに掛かっていた。
レオの鬣を掴みその身体を吊るしている、彼自身の右腕を、スライムが伝ってゆく。透明の粘液がレオの頭へと流れてゆき、その耳から、両眼を押し潰して眼孔から、鼻の穴から、レオの頭部へと流れ込んでいった。
レオの顔を薄くコーティングするかの様に透明の粘液が覆っていた。顔中のあらゆる穴から粘液が流れ込み、ついには頭の中までもそれに満たされてしまう。その容赦の無い侵食を受けながら、レオの脳裏には己の使命や悲願、そして国の民たちの声、自分のために犠牲になった者たちの姿が、走馬灯のように浮かんでいた。
果たす事の出来なかった誓いに、レオは絶望すら抱く。だが、その心までもが侵食されるてゆくほどに、激情は消え去り、頭の中までも静かになっていくのを感じた。心の奥に燃え滾る炎が、消火されてゆく。体と同様に、頭の感覚が消え失せていった。怒りも悲しみも希望も失くしてゆく。記憶を維持しながらも、一切の感情と言うものが失われていくのだ。
レオも最初はその感覚に戦慄したが、すぐに恐怖も頭の中から消えてしまった。そうして一つずつ感情を失ってゆき、ついにレオはその全身を完全に奪われてしまう。引き攣っていた顔には、もはや何の表情も浮かんでは居ない。
スライムはレオの両腕を使って、彼の体を抱くようにしながら、胴体と頭を自らの内に飲み込んでゆく。レオはスライムの身体に取り込まれながら、自分はどうなるのだろうかと、感情を失った頭で考える。
体感覚は無く、感情も存在せず、眼も見えなければ音も聞こえない。考えたところで何も解決しなかった。そして彼は、それに付いて何も思わなかった。考えるべき事も見当たらず、レオは――レオだった物は、思考を停止した。やがて意識が途切れる瞬間まで、彼は何も考える事無く、ただの物になっていた。
×××
途切れた意識が再開する。音が聞こえた。物を見ることも出来る。だが、それ以外の感覚は無い。彼は透明の四本の脚で、部屋の中をぐるりと歩き、自分が何をすべきなのか考えた。
部屋は、意識が途切れる以前とは別の場所らしかった。床に描かれた魔方陣や壁の紋様などを見れば、以前の記憶と照らし合わせて、そこが何か魔術的ことを行う場であると分かる。
遠くで合戦の音がした。彼は、かつて王として魔と戦ってきた頃の記憶を思い返し、自らの国が襲われたときと同様に、人々が脅かされていると理解した。
そう気付くと、彼は刻み付けられた本能へと忠実に従った。木製の扉を突き破って外へと出ると、音の方向を目指す。
人々の敵という化け物の本分を、彼は何の疑問も抱かず受け入れ、新しく与えられた使命を果たすべく駆けて行く。今の身体は、前よりも早く走る事が出来た。
かつてのレオから変質した姿であったが、もはや外見も中身も、以前とは完全に別のものである。液状の物質で形作られた獅子は、魔の本能に従い、全ての人々を相手に牙を剥いていた。
終
リクエスト アルゴ陵辱 by 森谷
【健全】獣人組織に潜入する人間の青年 by take
某所でお題を募集して書いた物です。エロ描写のないほのぼのものです。
***
「というわけで、朝の会議はこれまでにする!」
一際大きな声を放つ蒼色の鱗を持つ竜人の男。頭に生える一対の角には年季を思わせるひびが刻まれており、着ている服は非常にゆったりとしている着流し。そしてその竜人に注がれる幾多の視線。
視線を注ぐのは狼、虎、猪、熊、馬、ハイエナ、鳥、狐、狸……。その中に人間の姿はいない。
ここは、獣人だけによる集合組織。それも表沙汰になるようなことはありえない、秘密裏に結成された組織である。
上は還暦を迎える老人もいれば下は小学生程の年齢の少年もいるこの組織。皆どこから流れてやってきたかはわからないが、ボスである竜人に並々ならぬ敬意を持っているのは確かであった。
繁華街の地下にひっそりとアジトを作り、日々非人道的な活動をする組織で、殺人、麻薬売買、放火、身売りを生業とする。
──という噂であった。
会議が行われたのは広めのホールで、数十人による構成員の前には竜人が指揮を執っていた。竜人が会議の終わりを告げると皆、一様に敬礼をして散り散りになる。その中で、後方にいた1人の犬獣人の少年があっけらかんとしていた。
(なんだそりゃ……?)
会議が行われた様子を一から集中して聞いていたが、犬の少年は状況が理解できずにいた。彼よりも年上の構成員たちが後ろの扉へと駆け込み、今日も組織活動を行うために外へと出る。
「こら、走って転んではいけないぞ」
竜人が構成員たちに向かって大声で言う。それに反応して構成員たちはすいませんと言って1人、また1人ホールを抜ける。
その中で犬の少年はぽつんと取り残されていた。
「どうした?」
と、そこに一番前に立っていた竜人が犬の少年へと歩み寄る。犬の少年はびくんと肩を震わせる。
その表情は犬の少年に疑問を持っているようで、頭上には疑問符を浮かべている。
犬の少年は頭を振って、現在自分がどのような立場にいるかを思い出す。
「ご、ごめんなさい、すぐに行きます!」
そう言って犬の少年はくるりと竜人に背を向けて他の構成員と同じく扉の向こうへと走る。
竜人はぽりぽりと顎を掻いており、犬の少年を随分慌てん坊だな、とにこやかに見送った。
***
最初に獣人組織へのスパイ任務を任されたとき、犬の少年は大層肝が冷えた。
まず、厳密に彼は犬の少年──どころか、まず犬獣人ですらない。薬によって一時的に元の人間の姿から骨格を変え、体毛と尻尾を生やし、手足の先には肉球を持って犬獣人へとなったのだ。
しかも元々彼は少年ではなく、20歳を過ぎた青年である。本来彼はこの獣人組織の動向を探るべく、様々な手段を講じて調査していたのだが、上層部が痺れを切らして彼に潜入任務を任したのだ。
アジトは突き止めてはいるものの、地下にある組織ということで大人数は動かせず、また連絡も取れないということで単独任務を任されたのだ。
おまけに犬獣人へと変化する薬はまだ開発途上だったらしく、犬獣人へと変化したものの、体格は幼くなり、また声も変声期を迎える前のボーイソプラノになり、結果少年へとなったのだ。
だが、かえってこれなら相手も子供だから油断するだろう言う根拠のない上層部の判断から、そのままこの獣人組織へと送り込まれたのだ。
後で人事部に訴えてやる、と吐き捨てても任務は免れない。心細く、また武器も連絡手段も携帯できないで不安は募るばかりで潜入したのが数日前。
下水道を潜ってあっちへいったりこっちへいったりで道に迷った挙句、獣人組織の構成員に見つかったのだ。
適当に自分と似た犬獣人の少年と入れ替わろうとしていたのにあっさりと見つかって彼は死を覚悟したが、意外にも構成員の反応は不思議なものだった。
『こんなところに1人で……。良く頑張ったな』
思わずその言葉に目をぱちくりと瞬かせ、適当に相槌を打っているといつの間にか自分はアジトへと連れて行かれたのだ。
どうやらこの獣人組織は、人間たちによって迫害された者たちの集まりで、自分も人間に迫害されてここへ逃げてきたと勘違いされたらしい。
そうしてあの竜人の前に連れて行かれ、適当に両親と離れてしまって……と言ったところで、同じ場所に居合わせた構成員を含め、ボスである竜人も号泣。これには犬の少年が参ることになった。
そのまま流れで自分も構成員として加わり、今日も地上の人間たちに復讐を、と朝の会議が開かれたのだが、内容は驚くものであった。
「勝手にゴミ拾いを済ませて清掃業者の仕事を失くしてやろう!」
「学校帰りの小学生にお菓子を配って栄養を偏らせてしまえ!」
「家庭教師として勉強を教え、子供を受験戦争に巻き込んでしまえ!」
「困っている人がいたら助けて依存症を植えつけてやれ!」
その規模の小ささ、というか見方を変えればいいことをしているような気がしないでもない組織行動に犬の少年は頭を悩ませていた。
自分が人間のときは殺人組織だとか麻薬売買で幾人も廃人にさせただとか、黒い噂が絶えないもので恐怖を抱いていたのだが、実際はどうだ。
自分が構成員として加わって様々な種族の獣人と接触を試みたが、口調は優しく気遣いのあるもの達ばかりであった。
そうして犬の少年も気づいた。そういう噂があるものの、未だにこの組織から逮捕者は出ていない。つまり、勝手な思い過ごしなのだ。
仮想敵組織だと処理すれば対応が楽であるし、また勝手に敵を作り出せば統率力のない組織は一つにまとまる。
「人事部どころか上層部に訴えねーと……」
と、地上に出て人の目がないところで密かにゴミ拾いをし、また重い荷物を背負っている人の荷物を持ってあげたり、時には同じ年代の子供ということで小学生と遊んであげたり、悪の組織とは似ても似つかわしくない仕事をこなすのであった。
***
「意味わからん……マジでよく分からん……」
アジト内部にある大浴場の湯船に浸かりながら犬の少年は頭を抱えていた。それは夕食後の会議で、明日は休日だという報告がなされたからだ。
悪の組織に休日ってどういうことなんだよ、しかもその休日の理由が祝日だからってそれはどういうことなんだよ、と心の中でツッコミを入れまくってツッコミは最早苛々に変わりつつあった。
犬の少年はそうやってぶつくさ独り言を吐いて風呂に入り、気がつけば他の構成員は全て風呂から上がり彼だけが残されていた。
しかし元々人間だったためだろうか、身体に張り付く体毛がまるで服を着ているかのような感触でやはりなれない。
もう数日もすれば慣れるだろう、と思った直後、そろそろ薬の効果が切れることを思い出した。
一応薬はいくらか忍ばせており、量を考えれば後1ヶ月程度は犬獣人に変化を保つことが出来る。
いずれ自分の所属する組織に戻って報告をしなければならないのだが、この組織の居心地が良くて犬の少年は帰るのを躊躇ってしまう。
何より大人の知識を持ったまま子供に戻れるというのはなかなかにない体験であり、犬の少年はもう少しだけこの状況を楽しもうとしていた。
「おう、まだ入っていたか」
がらっと大浴場の扉が開けられ、そこには竜人がタオルで股間を隠して入ってきた。
「あ、は、はい!」
しまった、と犬の少年は思わず湯船から直立して敬礼をしていた。考え事、というかこの組織へのツッコミどころを模索していたらかなりの時間が経過していたらしい。
組織のトップと同じ湯に浸かる、それは組織の上下関係を考えれば自ずとまずいことだと分かる。
急いで犬の少年は浴槽のへりに置いたタオルを取って湯船から上がろうとするが、それよりも先に竜人がそれを制する。
「何、裸の付き合いもいいじゃろう」
竜人はそう言って犬の少年の手を掴む。犬の少年は出来れば避けたいところであったが、ここで逃げようとすれば怪しまれる。
「……分かりました」
仕方なく犬の少年は再び肩まで湯船に浸かる。竜人もタオルを浴槽のへりに置いて湯船に浸かる。比較的大柄な竜人が湯船に浸かると一気に湯が溢れる。
一体どういうつもりなのだと犬の少年は竜人の動向を探る。自分はまだここに入りたての新参。嫌な予感しか入らない。
既に自分が人間だということを気づいたのだろうか、例えば無意識のうちに人間しか行わない癖が出てそれを見抜かれたのか。
竜人の動向が一切分からない以上、相手からの言葉を待つしかない。犬の少年はちらりと視線を上に向け、竜人の顔を伺う。
と、竜人もちょうど自分を見やり、視線がぶつかる。一瞬犬の少年の心臓が強く鼓動を鳴らす。
だが驚くのはそれからであった。突如竜人の腕が犬の少年の首へと回され、竜人のほうへと引き寄せたのだ。
犬の少年が湯に浸かっていなければ全身の体毛が逆立っていただろう、今は湯に浸かって体毛がぺとりと張り付いていることを感謝する。
仮にも相手は組織のトップ、まさか、この場で自分を絞め殺そうというつもりなのだろうか。
そう思うと自分の首や肩に絡まる太い腕が凶器のようにも見える。今の自分は子供だ、体格差は十分なものでしかも相手は鱗を持つ竜人。腕に噛み付いたところで自分の幼い牙は鱗によって剥がれてしまうかもしれない。
むしろ、今まで善人ぶっていたこの組織は、自分がスパイだと気づいての演技なのでは、途端にこの組織への警戒心が高まる。
しかし、今更警戒心が高まったところで身体は竜人の手の中。万事休すか、と思ったところで竜人の口が開く。
「ここはなれたか?」
竜人は犬の少年を見下ろして言う。何故だかその言い方が優しいもので、少しだけ犬の少年はむず痒くなる。
ここは話をあわせるべきか、一瞬の思考の中で隙あらば逃げようと決意し、犬の少年は会話に応じる。
「はい。皆さんとてもいい人で助かります」
「そうか、ここにいるものは皆君と同じように心に傷を負っている。だから相手の気持ちも良く分かる」
ふと犬の少年の肩を掴む竜人の腕が、更に竜人の元へ犬の少年を抱き寄せる。濡れた体毛が鱗に張り付く。
「いずれはそうだな、この街を支配したいものじゃ」
世界じゃなくて1つの街とか小さすぎる規模だろ、と竜人には聞こえないほどの小さな声で呟く犬の少年。
しかしながら、竜人を慕うものは多い。それは事実であり、構成員の誰もが竜人のことを尊敬し、そして頼っていた。
これなら近いうち、この組織が地上に出てきて街を支配するのも時間の問題である。
「それと思ったんじゃが、君は今度からわしの……そうだな、右腕として活動してみないか?」
その言葉で犬の少年はぶっと吹き出す。予想だにしない言葉で頭が混乱する。
この竜人、いよいよボケが入ったのだろうか、入って間もない構成員を幹部クラスに置くとはどういうことか。
もう犬の少年はツッコミではなく、組織のボスとしてのあり方を説教しようとしていた。
こんな組織を今まで危険視してきた自分は何だったのだろうと思って肩の力がどっと抜ける。
「あの、お言葉は嬉しいですが……」
手を振って断る。と、竜人はがっくり肩を落とし項垂れ、ため息を吐く。
「そうか……孫みたいで可愛いと思って手元に置きたかったんじゃがのう……」
犬の少年の口元が釣り上がり、黒い鼻がぴくぴくと過剰なまでに動いていた。実力とかではなく可愛さで選ぶことにいい加減、犬の少年は堪忍袋の緒を切らしたかもしれない。
だが寸でのところで竜人の鱗の冷たさが頬に伝わり、冷静さを取り戻す。
が、竜人はまるで犬の少年を孫のように頭を撫でる。人の話を聞け、と言いたくなったが、頭を撫でられるのは何年ぶりだろうと懐かしむ。
少しごつごつとした鱗の手触りは元人間の犬の少年からすればなんとも不思議な感触である。その気持ちよさから、無意識に尻尾が湯の中で左右に揺れ動く。
実際この場所は居心地が悪いわけではない。組織のトップがこうであり、また構成員は誰1人として自分のことを疑ってはいない。
本来の目的を忘れ、こうして任務を忘れて人と触れ合うのも悪くはない。
「ここに再就職しよっかな……」
ぶくぶくと水泡を立てて言葉を濁し、竜人に聞こえないように本音を避ける。
薬の効果が消えるまで後1ヶ月。それまで悪の組織に身を沈めるのも悪くはないと思った。
***
「というわけで、朝の会議はこれまでにする!」
一際大きな声を放つ蒼色の鱗を持つ竜人の男。頭に生える一対の角には年季を思わせるひびが刻まれており、着ている服は非常にゆったりとしている着流し。そしてその竜人に注がれる幾多の視線。
視線を注ぐのは狼、虎、猪、熊、馬、ハイエナ、鳥、狐、狸……。その中に人間の姿はいない。
ここは、獣人だけによる集合組織。それも表沙汰になるようなことはありえない、秘密裏に結成された組織である。
上は還暦を迎える老人もいれば下は小学生程の年齢の少年もいるこの組織。皆どこから流れてやってきたかはわからないが、ボスである竜人に並々ならぬ敬意を持っているのは確かであった。
繁華街の地下にひっそりとアジトを作り、日々非人道的な活動をする組織で、殺人、麻薬売買、放火、身売りを生業とする。
──という噂であった。
会議が行われたのは広めのホールで、数十人による構成員の前には竜人が指揮を執っていた。竜人が会議の終わりを告げると皆、一様に敬礼をして散り散りになる。その中で、後方にいた1人の犬獣人の少年があっけらかんとしていた。
(なんだそりゃ……?)
会議が行われた様子を一から集中して聞いていたが、犬の少年は状況が理解できずにいた。彼よりも年上の構成員たちが後ろの扉へと駆け込み、今日も組織活動を行うために外へと出る。
「こら、走って転んではいけないぞ」
竜人が構成員たちに向かって大声で言う。それに反応して構成員たちはすいませんと言って1人、また1人ホールを抜ける。
その中で犬の少年はぽつんと取り残されていた。
「どうした?」
と、そこに一番前に立っていた竜人が犬の少年へと歩み寄る。犬の少年はびくんと肩を震わせる。
その表情は犬の少年に疑問を持っているようで、頭上には疑問符を浮かべている。
犬の少年は頭を振って、現在自分がどのような立場にいるかを思い出す。
「ご、ごめんなさい、すぐに行きます!」
そう言って犬の少年はくるりと竜人に背を向けて他の構成員と同じく扉の向こうへと走る。
竜人はぽりぽりと顎を掻いており、犬の少年を随分慌てん坊だな、とにこやかに見送った。
***
最初に獣人組織へのスパイ任務を任されたとき、犬の少年は大層肝が冷えた。
まず、厳密に彼は犬の少年──どころか、まず犬獣人ですらない。薬によって一時的に元の人間の姿から骨格を変え、体毛と尻尾を生やし、手足の先には肉球を持って犬獣人へとなったのだ。
しかも元々彼は少年ではなく、20歳を過ぎた青年である。本来彼はこの獣人組織の動向を探るべく、様々な手段を講じて調査していたのだが、上層部が痺れを切らして彼に潜入任務を任したのだ。
アジトは突き止めてはいるものの、地下にある組織ということで大人数は動かせず、また連絡も取れないということで単独任務を任されたのだ。
おまけに犬獣人へと変化する薬はまだ開発途上だったらしく、犬獣人へと変化したものの、体格は幼くなり、また声も変声期を迎える前のボーイソプラノになり、結果少年へとなったのだ。
だが、かえってこれなら相手も子供だから油断するだろう言う根拠のない上層部の判断から、そのままこの獣人組織へと送り込まれたのだ。
後で人事部に訴えてやる、と吐き捨てても任務は免れない。心細く、また武器も連絡手段も携帯できないで不安は募るばかりで潜入したのが数日前。
下水道を潜ってあっちへいったりこっちへいったりで道に迷った挙句、獣人組織の構成員に見つかったのだ。
適当に自分と似た犬獣人の少年と入れ替わろうとしていたのにあっさりと見つかって彼は死を覚悟したが、意外にも構成員の反応は不思議なものだった。
『こんなところに1人で……。良く頑張ったな』
思わずその言葉に目をぱちくりと瞬かせ、適当に相槌を打っているといつの間にか自分はアジトへと連れて行かれたのだ。
どうやらこの獣人組織は、人間たちによって迫害された者たちの集まりで、自分も人間に迫害されてここへ逃げてきたと勘違いされたらしい。
そうしてあの竜人の前に連れて行かれ、適当に両親と離れてしまって……と言ったところで、同じ場所に居合わせた構成員を含め、ボスである竜人も号泣。これには犬の少年が参ることになった。
そのまま流れで自分も構成員として加わり、今日も地上の人間たちに復讐を、と朝の会議が開かれたのだが、内容は驚くものであった。
「勝手にゴミ拾いを済ませて清掃業者の仕事を失くしてやろう!」
「学校帰りの小学生にお菓子を配って栄養を偏らせてしまえ!」
「家庭教師として勉強を教え、子供を受験戦争に巻き込んでしまえ!」
「困っている人がいたら助けて依存症を植えつけてやれ!」
その規模の小ささ、というか見方を変えればいいことをしているような気がしないでもない組織行動に犬の少年は頭を悩ませていた。
自分が人間のときは殺人組織だとか麻薬売買で幾人も廃人にさせただとか、黒い噂が絶えないもので恐怖を抱いていたのだが、実際はどうだ。
自分が構成員として加わって様々な種族の獣人と接触を試みたが、口調は優しく気遣いのあるもの達ばかりであった。
そうして犬の少年も気づいた。そういう噂があるものの、未だにこの組織から逮捕者は出ていない。つまり、勝手な思い過ごしなのだ。
仮想敵組織だと処理すれば対応が楽であるし、また勝手に敵を作り出せば統率力のない組織は一つにまとまる。
「人事部どころか上層部に訴えねーと……」
と、地上に出て人の目がないところで密かにゴミ拾いをし、また重い荷物を背負っている人の荷物を持ってあげたり、時には同じ年代の子供ということで小学生と遊んであげたり、悪の組織とは似ても似つかわしくない仕事をこなすのであった。
***
「意味わからん……マジでよく分からん……」
アジト内部にある大浴場の湯船に浸かりながら犬の少年は頭を抱えていた。それは夕食後の会議で、明日は休日だという報告がなされたからだ。
悪の組織に休日ってどういうことなんだよ、しかもその休日の理由が祝日だからってそれはどういうことなんだよ、と心の中でツッコミを入れまくってツッコミは最早苛々に変わりつつあった。
犬の少年はそうやってぶつくさ独り言を吐いて風呂に入り、気がつけば他の構成員は全て風呂から上がり彼だけが残されていた。
しかし元々人間だったためだろうか、身体に張り付く体毛がまるで服を着ているかのような感触でやはりなれない。
もう数日もすれば慣れるだろう、と思った直後、そろそろ薬の効果が切れることを思い出した。
一応薬はいくらか忍ばせており、量を考えれば後1ヶ月程度は犬獣人に変化を保つことが出来る。
いずれ自分の所属する組織に戻って報告をしなければならないのだが、この組織の居心地が良くて犬の少年は帰るのを躊躇ってしまう。
何より大人の知識を持ったまま子供に戻れるというのはなかなかにない体験であり、犬の少年はもう少しだけこの状況を楽しもうとしていた。
「おう、まだ入っていたか」
がらっと大浴場の扉が開けられ、そこには竜人がタオルで股間を隠して入ってきた。
「あ、は、はい!」
しまった、と犬の少年は思わず湯船から直立して敬礼をしていた。考え事、というかこの組織へのツッコミどころを模索していたらかなりの時間が経過していたらしい。
組織のトップと同じ湯に浸かる、それは組織の上下関係を考えれば自ずとまずいことだと分かる。
急いで犬の少年は浴槽のへりに置いたタオルを取って湯船から上がろうとするが、それよりも先に竜人がそれを制する。
「何、裸の付き合いもいいじゃろう」
竜人はそう言って犬の少年の手を掴む。犬の少年は出来れば避けたいところであったが、ここで逃げようとすれば怪しまれる。
「……分かりました」
仕方なく犬の少年は再び肩まで湯船に浸かる。竜人もタオルを浴槽のへりに置いて湯船に浸かる。比較的大柄な竜人が湯船に浸かると一気に湯が溢れる。
一体どういうつもりなのだと犬の少年は竜人の動向を探る。自分はまだここに入りたての新参。嫌な予感しか入らない。
既に自分が人間だということを気づいたのだろうか、例えば無意識のうちに人間しか行わない癖が出てそれを見抜かれたのか。
竜人の動向が一切分からない以上、相手からの言葉を待つしかない。犬の少年はちらりと視線を上に向け、竜人の顔を伺う。
と、竜人もちょうど自分を見やり、視線がぶつかる。一瞬犬の少年の心臓が強く鼓動を鳴らす。
だが驚くのはそれからであった。突如竜人の腕が犬の少年の首へと回され、竜人のほうへと引き寄せたのだ。
犬の少年が湯に浸かっていなければ全身の体毛が逆立っていただろう、今は湯に浸かって体毛がぺとりと張り付いていることを感謝する。
仮にも相手は組織のトップ、まさか、この場で自分を絞め殺そうというつもりなのだろうか。
そう思うと自分の首や肩に絡まる太い腕が凶器のようにも見える。今の自分は子供だ、体格差は十分なものでしかも相手は鱗を持つ竜人。腕に噛み付いたところで自分の幼い牙は鱗によって剥がれてしまうかもしれない。
むしろ、今まで善人ぶっていたこの組織は、自分がスパイだと気づいての演技なのでは、途端にこの組織への警戒心が高まる。
しかし、今更警戒心が高まったところで身体は竜人の手の中。万事休すか、と思ったところで竜人の口が開く。
「ここはなれたか?」
竜人は犬の少年を見下ろして言う。何故だかその言い方が優しいもので、少しだけ犬の少年はむず痒くなる。
ここは話をあわせるべきか、一瞬の思考の中で隙あらば逃げようと決意し、犬の少年は会話に応じる。
「はい。皆さんとてもいい人で助かります」
「そうか、ここにいるものは皆君と同じように心に傷を負っている。だから相手の気持ちも良く分かる」
ふと犬の少年の肩を掴む竜人の腕が、更に竜人の元へ犬の少年を抱き寄せる。濡れた体毛が鱗に張り付く。
「いずれはそうだな、この街を支配したいものじゃ」
世界じゃなくて1つの街とか小さすぎる規模だろ、と竜人には聞こえないほどの小さな声で呟く犬の少年。
しかしながら、竜人を慕うものは多い。それは事実であり、構成員の誰もが竜人のことを尊敬し、そして頼っていた。
これなら近いうち、この組織が地上に出てきて街を支配するのも時間の問題である。
「それと思ったんじゃが、君は今度からわしの……そうだな、右腕として活動してみないか?」
その言葉で犬の少年はぶっと吹き出す。予想だにしない言葉で頭が混乱する。
この竜人、いよいよボケが入ったのだろうか、入って間もない構成員を幹部クラスに置くとはどういうことか。
もう犬の少年はツッコミではなく、組織のボスとしてのあり方を説教しようとしていた。
こんな組織を今まで危険視してきた自分は何だったのだろうと思って肩の力がどっと抜ける。
「あの、お言葉は嬉しいですが……」
手を振って断る。と、竜人はがっくり肩を落とし項垂れ、ため息を吐く。
「そうか……孫みたいで可愛いと思って手元に置きたかったんじゃがのう……」
犬の少年の口元が釣り上がり、黒い鼻がぴくぴくと過剰なまでに動いていた。実力とかではなく可愛さで選ぶことにいい加減、犬の少年は堪忍袋の緒を切らしたかもしれない。
だが寸でのところで竜人の鱗の冷たさが頬に伝わり、冷静さを取り戻す。
が、竜人はまるで犬の少年を孫のように頭を撫でる。人の話を聞け、と言いたくなったが、頭を撫でられるのは何年ぶりだろうと懐かしむ。
少しごつごつとした鱗の手触りは元人間の犬の少年からすればなんとも不思議な感触である。その気持ちよさから、無意識に尻尾が湯の中で左右に揺れ動く。
実際この場所は居心地が悪いわけではない。組織のトップがこうであり、また構成員は誰1人として自分のことを疑ってはいない。
本来の目的を忘れ、こうして任務を忘れて人と触れ合うのも悪くはない。
「ここに再就職しよっかな……」
ぶくぶくと水泡を立てて言葉を濁し、竜人に聞こえないように本音を避ける。
薬の効果が消えるまで後1ヶ月。それまで悪の組織に身を沈めるのも悪くはないと思った。
【グロ】レオシリーズ 虫姦 苗床・脳姦される王様 by森谷
1枚目の絵に、もけ氏がSSを書いてくれたので、2枚目と3枚目が出来上がった。……と思う。
※挿絵3枚です。「挿絵表示」をクリックしてください。
※グロテスクな表現を含みます(幼虫・皮下侵食・脳姦・流血)。ご注意ください。
written by もけ
日はどっぷりと沈み、月明かりも届かぬ森の中は暗闇に包まれている。レオはその闇の中、木の幹に背中を預けて座り込み、しばしの休息をとっていた。
この森に入ってから既に数日が経っている。
そこは、亜熱帯のような蒸し暑さに包まれ、獣の如き大きさを持ちグロテスクな外見をした蟲たちが潜む森であった。世界を包む悪しき異変の一環であろうか、まるで異世界にでも来たように、彼の知る森とは違った景色ばかりが目に映る。
「くぅ……」
レオは苦々しげに声を漏らした。一刻も早く呪いの元凶を打ち破るための旅だと言うのに、この森の中で何日時間を費やしたか分からない。また、全身を包むじっとりとした暑さも、酷く不快であった。
体中から汗が噴き出し、獅子の顔を覆う毛皮も僅かに湿っている。タテガミが暑苦しくて、今すぐ自らの剣で剃り上げてしまいたくなってしまう。腰布もそうだ。汗で湿り、股間が蒸れて仕方が無い。
襲い掛かる異形の蟲を切り伏せる事は出来ても、環境による不快感はどうしようもなかった。レオは剣と盾を傍に置き、しばらくの間そうして休息を取っていたが、やがて我慢できなくなったらしい。
もぞもぞと腰を浮かして、腰布に手をかける。ベルトから布を外し、するすると脱ぐ。ブーツの方も同様に脱ぎ捨てた。
「む……」
レオは僅かに顔を顰め、眉間とマズルに皺を寄せる。蒸れた股間や足から発せられる臭いは、当然であるが良い香りとは言えないものであった。
旅の中、自らの体臭が気に掛かる場面は多いが、四六時中絶えず噴き出す汗に悩まされるこの森では、それもなおさらである。雨でも降ってくれれば良いのだが、木々の間に覗く空は、半分に割れた月を覗かせたままである。今は晴れているらしい。
レオは小さく溜息を吐くと、股を開き、露わになったペニスと玉袋を外気に晒す。性器を撫でてゆく湿った風は、決して涼しくなどなかったが、湿った腰布に包まれて蒸れているよりも、幾らかは快適であった。
これでようやく休息をとった気になれる。木の幹に身を預け、覚醒とも睡眠ともつかぬ状態を維持して体を休める。いつ襲われるかも分からないのだから、完全に眠ってしまう事は出来なかった。
慎重に、頭の半分を眠らせながら、獣の感性を研ぎ澄ます。それは皮肉にも、呪いを受け半獣の体になったからこそ出来る技であった。
その状態のまま時間が過ぎ、空が僅かに明るみを取り戻してきた頃、レオは不意に瞼を開き、傍らに置いた剣を握ると、すぐさまそれを構える。
茂みを揺らし、地面に落ちた枯葉を踏みしめて、何かが動く音が聞こえた。近い。
獅子の頭から生えた丸い耳がピクピクと動き、その音へと意識を傾ける。
「奴か……ッ」
聞き覚えのある足音に、レオは剣を構えながら呟いた。地面に置いたままの腰布と盾をちらりと見るが、それを身に着けている余裕はなさそうである。
足音は、真っ直ぐ彼の方を目指していた。全身から噴き出す汗で濃くなった体臭は、時折り肉食の蟲を呼び寄せた。今近づいている足音も、そのうちの一つである。
――ガサッ
目の前の茂みが揺れた。1メートルを越える体長を持った甲虫が、真っ直ぐ彼へと突き進んでくる。蟲らしからぬ巨体を持ちながら、かさかさと素早く動いた。黒光りする甲殻を揺らし、肉食の蟲らしい強靭な顎をカチカチと鳴らしている。
この森に入ってから、何度か出くわしている蟲であった。硬い甲殻を持つが、甲殻の継ぎ目を狙えば意外なほどあっさりと両断する事が出来る。
「仕方あるまい……!」
レオは盾と腰布を捨て置くと、自分へと向けて飛び掛ってくる虫へと剣を向けた。素早く動き、隙あらば肉を噛み千切ろうと、強靭な顎を向けてくる甲虫を、剣の一振りで鋭く薙ぎ払う。
刃が甲殻に受け止められる硬い音が響く。甲虫は数メートルも弾き飛ばされるが、その甲殻には薄く傷がついた程度である。やはり継ぎ目を狙わねば切り裂く事は出来ないようだと、レオが苦々しげな表情を浮かべた。
体勢を立て直した甲虫は、間を置かないまま再びレオへと突進する。今度は慎重に狙いを定め、甲虫の突進を紙一重に避けながら頭と体の甲殻の継ぎ目へと剣を振り下ろす。
ずん、と先ほどとは違っ手応えを感じ、甲虫の頭が宙を舞い、体の方は痙攣を繰り返しながらひっくり返り、やがては動きを止めた。レオは安心した様子で小さく息を吐く。だが、気を取り直して盾や衣服を身に着ける時間は無かった。
彼の聴覚は、また新しい足音が近づくのを感じ取っていた。今倒したものと同じ甲虫である。ここもそろそろ危ないようだ。充分に体を休める事は出来たのだし、そろそろ潮時だろう。
次の甲虫を倒したら、体液の臭いに惹かれて他の蟲が集まらぬうちに逃げなくてはならない。レオは足音へと向けて剣を構えながら、そう考えた。本当に苦労の絶えない森だ。
「来る……ッ」
木々の間を掻き分けて進む甲虫を見つけ、レオは呟く。先ほどのものよりも二回りほど大きかった。力も強そうではあるが、さっきの甲虫と同じように自分へと突進してくる姿を見て、レオはホッとしたような仕草を見せた。
体は大きくとも行動が単純で読みやすい。これならば、一度に数匹が来たとしても倒す事は出来そうだ。目前へと迫った甲虫を、やはりレオは軽々と避けてみせる。
「はぁっ!!」
通り過ぎてゆく甲虫の足を狙い剣を振るうと、節ばった蟲の脚が数本千切れ飛び、足を失った甲虫は動きを止め、地面の上でもがいていた。レオは動きを止めた甲虫へと歩み寄り、最初のものと同様に、その頭を刎ねる。
甲虫はしばらく痙攣を続けたあと、残った脚を丸めて動きを止めた。他の足音も聞こえない。ひとまずはこれで大丈夫な筈だろう。
いつまでも裸同然の姿でいるのもどうかと考え、木の根元に置いたままの腰布とブーツを取りに足を踏み出す。だが――
「なっ……?」
膝の力が抜け、レオはその場に尻餅をついた。地面に転がる枝の破片が、尻をチクチクと刺激する。
この暑さの中、連日に亘って歩き続けていた疲れが今さらになって出てきたのかと、レオは少し焦ったような表情を作った。だとすれば、さっきのような甲虫がまた襲ってきたとして、上手く退ける事が出来る保障も無い。
そう考えると、蒸し暑い森の中にいるはずが、背筋にひやりとした寒気を感じずにはいられなかった。しかし、状況は彼が予想したものよりも、さらに悪かったらしい。
レオは地面に剣を突き刺し、杖のようにして体を支えながら起き上がろうとするが、足が小さく震え、上手く力を入れることが出来ない。レオの表情には、より一層の焦燥感が表れていた。
これほどの症状を疲れの一言で片付けることは、流石に出来ない。いったい何があったのかと、レオはきょろきょろと視線を動かすと、自らの足首にへばりついた何かが、うねうねと蠢いているのを見つけた。
「これは……?」
紺色をした大きなナマコのような生き物である。大きさもそれぐらいであろうか。レオの足首にぴたりと吸い付いたまま、その体を小さく動かしている。レオはその小蟲へと手を伸ばし、自分の足から引き剥がそうとするが、強く吸い付いているらしく、中々剥がれない。
それでも強く引っ張り続けると、やがて幼虫の体が、ブチッと音を立てて千切れ、その体から赤い鮮血が噴き出す。
血を吸われていた。それも相当の量だ。これだけ血を吸った蟲が足首にぶら下がっていたのに、それに気が付かなかったという事実も、レオを焦らせた。
こういった類の、生物の血を吸う蟲は、吸血の前に自らの体液を流し込み、相手の感覚を麻痺させるという。脚から力が抜け立っていられなくなったのも、この蟲の毒によってであろうと、レオは考えた。
だが、それにしても強力すぎる作用だと、彼は忌々しげに牙を剥く。
体感覚どころか、体を動かす事にまで支障が出ている。これではすぐに気付かれてしまうではないか。現にレオは足首に吸い付いていた蟲を握りつぶした。
では、なぜこうして動きを封じたのか。……獲物を逃がさないために決まっている。レオは、険しい表情で剣を手に取り、周囲を眺めた。さっき潰したのと同じ蟲が数匹、地面を這っている。それを目で辿ると、レオが首を刎ねた、あの甲虫の亡骸が見えた。
どうやら宿主の命が尽きた事で、より新鮮な獲物を求めて表に這い出てきたらしい。
襲い掛かる巨大な甲虫たちよりも、小さな蟲を相手に脅威を感じる事になるとは、思ってもみなかった。レオは、足元ににじり寄る蟲へと、睨みつけ、剣を持ち上げようとする。
だが、すでに上半身の方にまで痺れが回ったのか、剣が酷く重たく感じられ、持ち上げる事が出来なくなっていた。レオは、焦りを隠すことが出来ずに唸り声を出す。マズルと眉間に皺をよせ、獣が威嚇するような咆哮を上げた。
だが、知能すら持たぬ蟲が、それで竦むはずもない。紺色の蟲が足へと這い上がってくるのを、レオは何の抵抗も出来ずに眺めるしかなかった。
今度は右の脛辺りで、蟲がレオの肌に吸い付いた。粘液にぬめった蟲が脚を這う感触も、皮膚を突き破られる痛みも無かったが、そうやって血が吸われていくのを何も出来ずに見ているのが、堪らなく不快であった。
「くっ……!」
忌々しげな表情を作りながらも、レオは震える腕を蟲へと向けて伸ばす。剣を振ることも出来ないのなら、せめて先ほどのように引き千切ってでも蟲を取り払わなければ。
数匹の蟲が、彼の体へと向けて今も地面を這い進んでいる。これ以上体に吸い付かれれば、それこそ身動きすら取れなくなる可能性もあった。一匹に噛まれただけで、全身の力が抜けてまともに動けなくなってしまうのだ。
脱力しそうになる体へと必死に力を込め、足に吸い付く蟲を引き剥がそうと手を伸ばす。だが、やはりその動作は緩慢だった。彼がもう少しで蟲を掴めそうなほどに手を伸ばしたとき、地面を這っていた虫たちは、すでに彼の両脚へとよじ登っていた。
腰布もブーツも身につけぬ今、体を守る物は腰のベルト程度である。うねうねと嫌悪感を抱かせる動きで、蟲は彼の太股へと這い上がり、ついには股間をも目指そうとしている。
その表面からは、まるで薄めた精液のような粘液が滲み出し、這った跡を濡らしていた。蟲たちは、筋肉で張り詰めたレオの太股や脚に辿り着くと、その口を大きく開ける。
地面を這っているときは、まるでナマコのような形状であるが、血を吸うために吸盤のような口を開くと、その内側にぶつぶつと肉色の隆起が見て取れた。数匹もの蟲たちは、一斉にレオの脚へと吸い付こうとする。寸前のところで、そのうちの一匹を右手で掴み取ることは出来たが、残りの蟲はどうにも出来なかった。
右手に掴んだ蟲は、その体を握り締められながら、「キィキィ」と奇妙な声を上げ、そして他の蟲たちは、一斉にレオの脚へピタリと張り付く。
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「がっ、はぁ……ッ!?」
血を吸い上げられる直前、さらに蟲の体液を注入され、レオが小さく震えて体を強張らせた。重ねて体液を流し込まれ、体に現れる効果が変化しているらしい。感覚を失い何も感じぬようになっていた足に、むずむずとした刺激が走る。
皮膚の上を指先でなぞられるようなむず痒い感触に、レオは小さく背筋を震わせた。だが、流し込まれた体液が体中へと行き渡るほど、その些細な刺激が、より強くなってゆく。痛みだけを遮断しながら、体感覚が際限なく敏感になってゆくようであった。
「いっ、ぎぃ、あぁあっ……!?」
蟲が両足に吸い付いて血液を吸い上げる感触が、性感帯を指先で撫でられるような、甘い感触へと変化してゆく。ついには、湿った空気が胸を撫でる感触に、体が反応してしまう。震える体を支えることができず、彼は仰向けに倒れた。
地面に落ちている枯葉や木の枝が背や尻を刺激して、レオは体を弓なりにしならせながら、再び悲鳴をあげる。体中が、これ以上無いほどに敏感な性感帯となっている。ちょっとした刺激が、耐えることのできぬ快感となって頭を焦がした。
気付けば、股間の男性器はこれ以上無いほどに勃起し、先走りを吹き出している。異形の蟲に血を吸われながら、そうして体が反応を示してしまうのが、よほど屈辱だったのか、レオはその表情をより引き攣らせ、マズルに険しく皺を寄せた。
思考さえもできなくなるほどの刺激に悶えながら、レオはそれでもなんとか耐え続ける。屈辱に顔を歪ませながら、なんとかこの責め苦から抜けだそうと、緩慢な動きでもがく。だが、体は脱力したかと思えば、逆に快感の刺激に強張っての繰り返しであった。麻痺した体はレオの意志で動かすことも出来ず、体を襲う刺激に反応するばかりだ。まるで蟲たちのマリオネットになったかのような、堪らなく情けない気分にさせられる。
だが、レオを襲う蟲は、まだそれだけではないらしかった。快感に悶え意識を飛ばしかけながらも、何かが地面に落ちる「ぼとり」と言う音を、敏感な獅子の耳が拾う。レオが目だけをそちらに向けると、そこにあったのはレオによって倒されたもう一匹の甲虫であった。
頭を刎ねられ、胴体にできた断面から、レオの血を吸っているものと同様の蟲が数匹這い出て、そして地面へと落ちていた。汗の匂いに釣られて、蟲たちはゆっくりとレオのもとへと這い寄る。すでに移動することさえできぬレオにとってみれば、それだけでも十分に脅威であるが、それよりも彼に焦燥を与えるものがあった。
「な……っ!?」
レオが掠れた声を漏らす。その目には、甲虫の腹が萎んでゆく様子が映されていた。そしてそれと同時に、彼の体に群がる蟲たちのよりも遥かに大きな芋虫のようなものが、甲虫の体液を滴らせながら、その死体から這い出る。
身動きできぬこの状況で、その巨大な芋虫を見れば、命の危険を感じずにはいられなかった。恐怖を隠すことができぬ様子で、レオの表情が引き攣る。多数の小蟲を引き連れながら、親玉のような芋虫の化物が、レオの体へと向けてにじり寄っていた。
巨大な芋虫は、緩慢な動きでレオへと近づき、付き従うように引き連れられていた数匹の蟲は、先にレオの体へと這い上がった。レオの体から放たれる強烈な雄の臭気に惹かれ、その汗ばんだ体へと吸い付く。
中でも、レオの股間近くを這い上がっていた蟲は、痛いほどに勃起したペニスから溢れる先走りの匂いに惹きつけられたらしい。その口を開き、レオのペニスを頭からズブズブと飲み込んでゆく。
「ひっ、ふっ、うぁっあぁ……!?」
レオが体をびくびくと痙攣させた。虫の体内には、無数のぶつぶつとした肉の突起が広がっており、まるで女性器のようにレオのペニスを包み込み、その上で吸い上げる。ただでさえ体の感度を極限まで高められ、過剰な快感にのたうっていたレオは、それこそ生娘のように声をあげるしかできなかった。
皮膚に吸い付き血を吸い出すような蟲が、ペニスを覆っているのだから、当然恐怖も強かったが、その恐怖を麻痺させるほどに凄まじい快感が、レオの背筋を走っていた。体を襲うちょっとした刺激にさえ耐えられぬというのに、性感帯への直接の刺激は、それこそレオの精神をも砕こうとするかのような強烈な衝撃である。
――びゅるうううっ
「ぎっ、ひぁ……ッ、あぁっ!?」
レオはその刺激に晒され、これまで感じたことも無いほどの快感を伴ない射精していた。ペニスを包む蟲は、溢れ出る精液を余さず吸い上げようとしているようであったが、蟲たちの体液の効果であろうか、普段では考えられない量の精液が、レオのペニスから溢れ出していた。
小蟲の大きさでは処理出来ぬ精液がちろちろとその口から溢れでて、レオの玉袋へと伝っていた。それでもペニスは萎えることなく、むしろより硬さを増して、絶えず続く快感に打ち震えている。
レオはもはや、口から漏れ出る声を抑えることも出来ず、体へと吸い付く蟲たちの刺激に、甲高い嬌声を上げて悶え続ける。目を見開き大口を開けて叫ぶ獅子の面には、恐怖の色も焦燥の色もなく、ただただ途方もない衝撃への驚愕ばかりが読み取れた。
身を包む強烈な刺激だけで頭がいっぱいになり、周囲の様子を気にする余裕すら、もう残ってはいない。レオの傍にまでやってきた巨大な芋虫が、その口と思しき部分を開き、一本の触手をするすると伸ばすが、それすら見えていないようであった。
その先端が肛門へと押し当てられたところで、レオは新たな刺激に体を大きく震わせ、異変に気づく。大芋虫の口から伸ばされた触手は、その先端がイソギンチャクのような形状をしており、小さな無数の触手と、小蟲たちのそれに似た口を携えていた。
先端から無数に生える細い触手が、固く閉じたレオの肛門へと滑り込み、粘液を馴染ませながら、そこを少しずつ緩ませてゆく。
「なっ、にを……!? ひぃっ、ひゃっ、がぁッ!?」
新たに加えられる刺激に、レオの体がまた震えていた。今まで排泄以外の目的で使ったこともなく、到底開発などされていないのであるが、感度を高められた今の状態では、そこも気持ち良くて堪らないようであった。
クチュクチュと小さな触手が入り口を解きほぐし、それと同時に、肛門へと押し当てられる力が強くなってゆく。触手から分泌される粘液の量も増えてゆき、やがて、レオの肛門は突然にその侵入を受け入れた。
「がぁっ!!?」
ずにゅりと触手が侵入すると同時に、レオが上ずった声で叫び、再度の射精を行ってしまう。やはり小蟲には呑みきれぬ量らしく、ペニスを包み込む蟲の口から、再度精液が漏れて玉袋を濡らした。
だが、挿入されただけでは触手の動きは止まらない。イソギンチャクのそれと似た細かい触手が、レオの腸内を掻き回し、その肉壁に粘液をすり込んでゆく。乾いていた腸内は、触手の粘液によってすっかり濡れそぼり、次のものを受け入れる準備を完了していた。
「……ッ!?」
異質な感触に、レオが声もなくうめく。腸内へと挿入された触手が不意に膨れ上がったように感じ、また別種の刺激に体が悶える。自分の尻がどうなっているのか見ようとするが、仰向けのまま起き上がることが出来ない。不安ばかりが募るが、それも強烈な快楽によってすぐに消し飛んだ。
大芋虫は、その口から伸ばす触手によって、レオの腸内へと卵を産み付けていた。無数の卵が触手にその形を浮かび上がらせながら、レオの腸内へと送られてゆく。おおよそレオの理解の範疇を超えた行為である。人を相手に卵を産み付ける巨大な蟲など、彼の頭の中の常識では想像もつかなかったし、そもそも思考を働かせられる状態でもなかった。
ごぷ、ごぷ、と音を立てながら、卵は次々にレオの腸内へと産み付けられてゆく。敏感になった腸内を卵が通過する感触に、レオはまた射精していた。もはやペニスは、蛇口の壊れた水道管のように、ちょっとした刺激で精液を放っている。肛門へと挿し込まれた触手から分泌される粘液により、レオの体はさらに感度を増しているようであった。
体中から汗が噴出し、辺りに漂う生臭い蟲たちの匂い以上に、自身の雄の匂いがレオの鼻をついた。もう何回射精したかもわからず、玉袋は精液で濡れている。その匂いは血の香以上に、蟲たちにとっての食欲を誘うものだったのだろうか、左の太ももに吸い付いていた一匹が、不意にレオの皮膚から口を離し、精液に濡れた玉袋へと這ってゆく。
「――ッ! ……ッ!」
玉袋へと食らいつかれるが、その衝撃に声をあげる余力も、今のレオには残っていないようであった。精液に濡れた玉袋へと小蟲が口をつけ、ペニスと同様に飲み込んでゆく。玉袋をゆっくりと覆ってゆく感触に、レオはひたすら体を痙攣させ、虚ろな目を宙へと向けていた。
蟲は玉袋を覆うと、そこに詰まった精液を吸い上げるまえに、やはり他と同じように体液を流し込む。玉袋の中の睾丸までもが、蟲の体液に直接晒され、異常な快感がレオの精神を削っていた。開いたままの口からヨダレが零れ落ちるのも、白痴のように間の抜けた喘ぎ声が漏れるのも止めることが出来ない。
卵は止まることなくレオの腸内へと送られ、腹筋の綺麗に割れた筋肉質な腹は、内側からの膨らみによって、どこか不恰好な肥満体のようになっている。腰に嵌められた鉄のベルトが、膨らんだ腹に食い込んでいた。
それでも大芋虫は産卵を続けていた。甲虫の体から這い出て来たときよりも、その体は一回り縮んでいるが、まだ大量の卵を体内に抱えているようであった。それをすべてレオの体内へと産み付けるまで、この行為は続く。
最初は僅かに肥満した程度にしか見えなかった腹は、卵を産み付けられるうちに膨らみ続け、腹筋の割れ目は完全に消え失せ、もはや妊婦としか思えぬ大きさにまで膨らんでいた。鉄のベルトはさらにレオの腰を締め付け、血流が止まり、ベルトの周りが青く腫れ上がっている。
もはや身動きすら取れず、浅い呼吸を繰り返すのがやっとというほどにレオを消耗させ、ようやく産卵は終わる。大きく膨らんだ腹を抱え、レオは朦朧とした意識のまま荒い息を繰り返していた。
腹の中を大量の卵で埋め尽くされ、相当量の血を吸われ、もはや死んでもおかしくないと思えてしまうほどの様子であったが、鍛え上げられたレオの体も、鋼の意志も、今だ壊れる気配を見せていない。
だが、壊れはしなくとも、もはや抵抗の余力は完全に奪われていた。自らの意思では指一本とて動かせぬレオから、大芋虫が触手を引き抜く。拡がりきった肛門から、卵が一つこぼれ落ちた。
触手はするすると芋虫の体内へと戻ってゆき、最初の半分ほどの大きさになったその体へ収納される。そして、触手の引っ込められた口の中から、今度はさらに別のものが這い出した。粘液を滴らせながら、レオの肛門へと向けて這うそれは、真っ白い蛆虫のような外見を持つ幼虫であった。
レオの体に吸い付く小蟲たちよりも一回り小さく、先端が細く大きな口もついていない。それはレオの体へとよじ登り、開いた肛門へと次々に潜り込んでゆく。レオの体内のさらに奥へと向かい、その深くで体液を吐き出して絶命する。
肛門に入りきらなかったものは、レオの体へと這い登り、穴を探してはそこへと潜り込もうとする。へその穴に群がり、さらにはレオの口にまで数匹の大蛆が侵入した。喉の奥へと進みながら、レオの口内で大蛆が弾け、体液を撒き散らす。その匂いには、レオも覚えがあった。
朦朧とする意識の中で、強烈な生臭さと青臭さが構内に拡がり、恍惚とした刺激に包まれていた彼の体へ、吐き気を催すような嫌悪感を与える。
彼が知るものより遥かに醜悪で、かつ悪臭を放っていたが、それは精液であった。
もはや体力も限界に達し、意識を失う間際であったレオは、ようやく自分が生殖の苗床として使われているのではと、うっすら感じた。だが、すべてはもう遅い。レオは体を包む刺激に悶えながら、ついにその意識を途切れさせた。
×××
レオは、うっすらとまぶたを開けた。仰向けに倒れたまま空を見上げる。木々の間に見える空は、分厚い雨雲に覆われ、激しいスコールがレオの体を打っていた。半開きのまま浅い呼吸を繰り返す口へと、雨水が流れ込んでくる。
むせ返りそうになるが、レオは舌を小さく動かし、口内へと流れ込んでくる雨水を飲み込んでゆく。相当量の血を吸われた挙句に、この蒸し暑い森の中、気を失った状態で長時間放置された体は、脱水症状に陥っていた。
「あぁ……」
低く掠れた声で、小さな呻き声を上げた。肺が圧迫されるような気分の悪さを覚え、声が上手く出ない。全身を激しい疲労感が包むと同時に、恍惚とした心地良さも同時に感じる。奇妙な感覚であった。
自分が何をしていたのか思い出そうとするが、思考にぼんやりとした霞がかかり、上手くいかない。レオはただ、口へと流れ込む雨水を味わい、喉を潤していた。やがて、いくらか回復した体は、強烈な眠気へと襲われ、彼の意識は再び深い眠りへと落ちていった。
×××
再度意識を取り戻したとき、雲は晴れ、木々の隙間からは日差しが降り注いでいた。だが、レオの意識を覚醒させたのは、照りつける光ではなく強烈な違和感であった。
体内で何か異質な存在が蠢くような、酷く不安で気持ち悪い感触が、彼の意識を叩き起こす。
「あ――、あ……?」
思うように声を放つことが出来ず、レオは戸惑うような声色で、小さな声を発した。少々記憶が混乱していたらしく、自分がなぜこうなっているのか、それを思い出すのに時間がかかってしまった。
彼はしばらくの間、混乱した表情を隠せずにいたが、やがてなんとか動かせるようになった首を上げ、自らの身体の異変をその目で確かめる。大きく膨らんだ腹や、太ももや胸に吸付いたまま、彼の皮膚と一体化している異形の蟲たちを見つめ、獅子の顔が嫌悪に歪んだ。身動きも取れぬまま卵を産み付けられ、快楽に呑まれながら気を失ったあの出来事が、鮮明に思い出される。
「これ……はっ!?」
レオは焦燥と恐怖に獅子の顔を歪ませながら、震える声を放つ。腹は、気を失う前よりもさらに膨らみ、体内を圧迫されるような異物感に、吐き気がしてたまらない。体と癒着した小蟲は、その毒々しい紺色の体とレオの肌を結合させ、まるで歪な腫瘍のように彼の体と地続きになっていた。
震える手をそれに伸ばし、引きちぎろうと掴むが、やはり思うように力が入らず、まるで女性の乳房を掴んで愛撫するかのように、軽く揉むような事しか出来ない。
体は重たく、まるで動かすことは出来ない。ある程度弱まってはいるが、それでも小蟲に注がれた毒の効果は続いているようだ。というよりも、レオの体と癒着した小蟲たちが、彼の体へと体液を循環させているらしかった。
手足を動かそうとすると、僅かばかりぴくぴくと指先が反応してみせるが、腕を持ち上げるにも相当の時間と忍耐を要する有様であった。こんな状態では、体と一体化した蟲を引き剥がすことも出来ない。
意識を覚醒させたものの、自らの身体の異変に対して打つ手もなく、レオはただ、その表情に焦燥を募らせることしかできなかった。時間ばかりが無為に流れ、やがて再度あの胎動が体を襲う。
「――あ?」
腹の中でまた何かが蠢いた。レオは間の抜けた声を上げ、その奇妙な感覚に体を震わせる。まるで妊婦を襲う陣痛のように、断続的にその感触を覚え、レオはより不安を強めていった。
卵を産み付けられたあの時から、一体どれだけの時間がかかったか、彼にもまるで検討がつかなかった。いくらか細くなった腕や、雨風に晒されて薄汚れた自身の体を見ると、そう短い時間でないことだけは分かった。
こういったとき、人とは最も最悪の事態を想定してしまうものである。レオもその例には漏れなかった。体内へ産み付けられた卵が、一斉に孵化しようとしているのではと推測し、冷たい汗が背中に流れる。
あんな怪物のような芋虫の卵が体内で孵化すればどうなるか、想像したくも無い事態である。レオはさらに焦りを強めた様子で、なんとかこの状況を打破する方法はないかと、思考を巡らせる。
しかし、いかに類まれな精神力を持つ彼とて、この状況で冷静な思考などできない。名案など浮かんでくるはずもなく、やはり時間ばかりが過ぎてゆく。腹の中から響く胎動が、まるで秒針のように時を刻んでいた。
やがて彼が導き出した答えは、結局入れられた穴から出すしかないというものであった。そもそも、これほどまでに膨らんだ腹の内容物を全て排泄できるはずもなかったが、焦燥と疲労で霞のかかった頭では、その程度の結論しか導き出すことはできなかった。
「ふっ……ッ、ん……ッ」
仰向けのまま、レオは獅子の顔を強ばらせ尻に力を込める。蟲たちの体液でろくに力も入らぬ体では、それすらも難しかったが、まるで便秘に苦しむ男が必死でそうするように、滑稽な姿を晒していた。
だが、彼がどんなに力を込め、腹の中の卵を排泄しようとしても、肛門を卵が通過する感触も、肛門が開く感触さえない。
「――ハァッ、はぁ……ッ」
強張った体に血管が浮かぶほどに、レオは力を込めてみせるが、その効果は何もない。ついにはそれも限界に達し、レオは大きく息を吐いた。何かがおかしいと、彼の頭も違和感を感じていた。
緩慢な動作で腰を浮かせながら、彼はそろりそろりと、右手を自らの尻へと伸ばす。指でこじ開けることができれば、なんとか卵を排泄できるかもしれないと言う望みもあったが、肛門の違和感の正体を確かめるという意味の方が強かった。
右手はゆっくりと彼自身の臀部へと伸ばされ、尻の割れ目に指先を潜り込ませ、肛門のあたりを人差し指で撫でる。
「なっ……」
指先の感触に、レオは目を見開いて驚愕を露にする。どんなに手を動かしても、彼の指先は肛門を確認することができなかった。代わりに感じたのは、肛門を覆い隠すような肉の隆起だけである。
彼の体と癒着し張り付いている蟲たちと同じように、彼の肛門は肉同士が癒着して歪な形状に盛り上がり、二度と開くことはなくなっていた。
これで、肛門から卵を排泄しようと言う望みは断たれた。他にはなんの考えも思い至っていなかった彼は、完全に追い詰められた様子で、全身から冷や汗を噴出し、その瞳には、これまでどんな目に遭おうと見えることのなかった、絶望の感情が垣間見えた。
――だが、彼がどんな手を考えついていようが、全てはもう手遅れのようである。レオの膨らんだ腹が、傍目からも分かるほどに、大きく震えた。
「ぐっ、あぁ……!?」
その不快感に、レオは掠れた声を上げ身震いをした。まるで示し合わせたかのように、腹の中で何かが一斉に動き出していた。痛みを感じることはないが、肉が引き伸ばされ今にも千切れそうになる生々しい感触が腹の中から伝わってくる。それが限界へと近づいていることが、彼にも分かった。
膨らんだ腹が、断続的に震えていた。そして、ついに彼の腹の中で、何かが弾ける。
「がぁっ!?」
奇妙な感覚に、レオは体をびくびくと痙攣させながら、上ずった悲鳴をあげる。どろりと、腹の中で何かが拡散してゆき、おぞましい寒気を感じながら、レオは自らの腹へと目を向ける。
へその辺りを内側から押されるような、慣れない感触を覚え、そこを凝視していると、蠢く何かが、彼のへそから頭を出す。細長い蛭のような外見の幼虫であった。それがニュルニュルとレオのへそから這い出している。
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自分の腹の中で育っていた卵の正体を知り、レオはその顔に浮かぶ焦燥を、より一層強めた。あれだけ大量に卵を産み付けられたあとだ。どれだけの数の幼虫が彼の体内で孵化したのか、想像することもできない。
そして、次なる異変が彼へと訪れる。幼虫はへそを通じてレオの体外に這い出すばかりではない。彼の頭を目指して、その体を這い登っていた。皮下を這い頭を目指す幼虫たちの姿が、レオの腹や胸に浮き上がっている。
痛みを感じない今の状態では、皮下で幼虫が蠢こうと、こそばゆい感触を受けるだけであるが、それは痛みに邪魔されることもなく、幼虫たちが自分の頭を目指して這い登る様子を感じなければならないということである。
「ぐっ、がぁあっ……!」
ぎこちない動きで自らの首や胸に手を伸ばし、体を這い登る幼虫たちを、皮膚の上から掻き毟ろうとするのだが、やはり頭からの命令が上手く体へ伝わらない。指先に力が入らず、表面をカリカリと爪で引っ掻くが、出血すらもなかった。
彼が虚しい抵抗を続ける内に、幼虫たちは胸を通り過ぎ、ついにレオの首まで辿り着いていた。そこからは人の皮膚よりも強靭な毛皮に包まれ、今の彼ではひっかき傷すらつけることができない。
「や、やめ……ろ……ッ」
何を事欠いたか、レオは知性すらも無い蟲たちに対して、そうして制止の声を放っていた。いよいよ極限まで追い詰められ、その表情を恐怖と絶望ばかりが覆い尽くしていた。当然であるが、彼の叫びが幼虫たちの動きに何かの影響を及ぼす事は無かった。
今や、その獅子の顔にも皮下で幼虫が蠢き、耳や眼孔、そして口からニュルニュルと這い出していた。そうして体外に排出される幼虫がいる一方で、頭まで辿り着いたものの多くは、無防備なレオの脳を目指していた。
生物の体へと指令を与え操っている部位がどこか、幼虫たちの本能に刻まれているようだ。それらは迷うことなくレオの脳髄の奥深くへと潜り込んでゆく。
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「ぎぃっ、ひがぁっ!? ひゃぁっ、ひぃぁあっ!?」
脳の中までもを幼虫たちに這いずり回られ、レオはその身を激しく痙攣させながら、とぎれとぎれの悲鳴を上げていた。まるで力など入らなかったはずの体は、脳内を掻き回されながら激しくのたうち、振り回される手は、地面に叩きつけられる。
だが、レオには力強く動く自分の体に気づく余裕すらも無い。脳への直接的な刺激に、何も考えることができず、吐き気を伴う途方もない衝撃に、ひたすら悲鳴を上げ続けるばかりである。
壊れたように何度も奇声を発しながら、のたうつように体を暴れさせる。それが一体どれだけの時間続いたのか、脳への刺激が収まった頃、レオはタテガミまでべっとりと濡らすほどの汗に塗れ、うつ伏せに横たわっていた。
膨らんだ腹もいくらか萎み、今も膨らんでいるのは確かであるが、臨月の妊婦という程ではない。
彼は疲弊しきった表情で地面に伏し、その口からは涎と一緒に無数の幼虫を吐き出していた。地面には彼の吐き出した虫たちが、うねうねと動いている。レオは無言のまま、その幼虫を見つめた。
不思議なことに、気が付けばその幼虫への嫌悪感がまるでなくなっていた。自らの身体を蝕もうとする蟲に対し、恐怖と嫌悪を感じていたはずが、今や悪感情など微塵も感じない。
レオは認識の変化を不思議がるような表情を浮かべていたが、やがて不意にその体を起こす。いつの間にか体が動くようになっていた。疲労による動きの鈍りはあるが、それでも不自由するほどではない。
自由に動かせるようになった腕を、彼は迷うことなく地面で蠢く幼虫へと伸ばした。彼が吐き出したそれを、土ごとすくい取ると、迷うことなく口へと運ぶ。牙で潰してしまわぬように気をつけながら、なんの躊躇すらもなく飲み込んでいた。口内には勝手に唾液が溢れ、幼虫たちは苦もなくレオの喉へと流れ込んでゆく。
へそから排出された幼虫も同じように手ですくいながら、レオはようやく自分の行動に対して疑問を抱く。何故自分はわざわざ幼虫をすくい上げて再度体内へと飲み込んでいるのだろうかと首を傾げるが、そんな思考とは別に体は勝手に動き続ける。精神と体が噛み合わぬ違和感に、レオは怪訝な表情を浮かべていた。
地面に落ちた幼虫を飲み込み終えると、レオはゆっくりと立ち上がり、獣の鼻を鳴らし、森の中に漂う匂いを嗅ぎとる。なぜだか分からないが、酷く懐かしい匂いを感じる。その匂いの源へ向かわねばならぬという、強迫観念とも言えるような想いが頭の中で大きくなっていく。
何故そんなことを思うのか。流石におかしくはないだろうか。レオは疑問を抱くが、やはり彼の脚は意思と関係なく歩き始めていた。意味も知らず歩き続けるうちに、やがて頭の中をその命令に満たされ、疑問さえも忘れてゆく。
衣服も盾も、身を守る武器である剣さえも拾うことなく、レオはふらふらと森の中を歩いてゆく。その表情は、まるで何かに陶酔したかのようにぼんやりとして、焦点の合わさらぬ瞳で宙を見上げていた。
歩きながら、時折その体が何かに抵抗するようにビクンと震える。発作のようにその瞬間が訪れるたび、レオは一瞬だけその目に正気を取り戻すが、すぐにその顔はぼんやりと宙を見上げる、白痴のそれに戻ってしまう。
脳までもあの幼虫たちに支配された今、レオはその命令に忠実に従うことしかできなかった。
そして、レオは辿り着く。森の中、地面に埋め込まれるように洞窟の入口があった。その中から、まるで自らの故郷であるかのような、懐かしい匂いがしてくるのだ。洞窟の入り口前には、小蟲たちに襲われる直前に仕留めたのと同じ甲虫が数匹いる。
武器も持たぬ今、その数を相手に勝てるはずが無い。だが、レオは無防備にそこへと歩いていった。レオの体から発散される強い汗の匂いが甲虫たちへと届いたのか、数匹のそれは一斉にレオの方へと向き直る。
そして、鳴いた。
甲高い虫の鳴き声が辺りに響く。そしてそれが合図なのか、両手でも数え切れぬ数の甲虫たちが、巣穴である洞窟からわらわらと這い出してきた。レオの視界に、黒い甲殻と赤い目の巨虫が広がってゆく。
これほどの数、たとえ剣を携えていても相手にするのは厳しいはずである。だが、レオは脚を止めることは無かった。恐怖すらも感じない。幼虫たちは、レオの脳を刺激して行動を操るだけでなく、すでにその一部を喰らい、彼から生への執着を取り去っていた。
甲虫たちがレオへと向けて距離を詰める。彼らは、レオを餌として認識したようであった。こうなれば、もはや逃げることすらも不可能であるが、脳髄に蠢く幼虫たちは、最後の仕上げを行った。
「――ひっ……」
レオは小さく息を漏らすと、脚を震わせてその場に尻餅をついた。そのまま彼は仰向けにひっくり返り、小さな呼吸を何度も漏らしながら、体を痙攣させる。脳の残った部分すら、幼虫たちが喰い荒らしてゆく。
まるで最後の抵抗をするかのように、レオは体を痙攣させ、首を激しく振って涙と鼻水と涎を撒き散らす。脳を喰い荒らされ、まだ絶命こそしていなかったが、もはやその頭から理性は失われていた。
そして、そうやって目の前でのたうつ活きの良い餌へと、甲虫たちが群がる。がさがさと音を立てながら走り、レオの体へと喰らいついた。
まず、その方や脚を強靭な顎で捕まえられる。そのまま体をあちこちから引っ張られていた。頭の中もかなり喰われてしまったようで、レオは呆けた表情のまま、ミチミチと組織の引き千切れる音を発する、自分の腹を見た。
見れば、膨らんだ腹にベルトが食い込み、そこはもう壊死しかけていた。ただでさえ腐りかけた部位へと力をかけられ、レオの体は腹に食い込むベルトを境に、二つに引き裂かれる。
「あ……」
下半身が自分から遠ざかって行くのを見つめながら、レオは間の抜けた声を漏らす。もはや自我を保っているかも怪しい様子であった。
引き裂かれた上半身と下半身の間には、小腸やその他の臓器が溢れ出る。そしてそれと同時に、大量の幼虫たちがどろりとレオの腹から流れ落ちた。臓器はその中身までをも幼虫たちに埋め尽くされている。
腕や脚を噛み切っても、そこからは幼虫が零れ落ちた。すでにレオの全身へと幼虫が行き渡っているらしく、甲虫たちは獲物の肉ごと、その幼虫を飲み込んでゆく。
二つに別れた体は、さらに甲虫たちの顎でバラバラに裁断されてゆく。腹の中に顔を突っ込んで内臓を引きずり出され、頭蓋を噛み砕かれながら、レオはついにその命を散らしていた。
引き千切られたそれぞれの肉片へと、甲虫たちは我先にと群がり、その肉体を食い尽くしてゆく。
破片となった肉体から溢れる鮮血の匂いすらも、甲虫たちの放つ生臭い臭気に掻き消されていた。どれだけの時間、甲虫たちがレオの肉を貪っていたが、やがてその数は減り、次々に巣穴へと帰ってゆく。
あとには、肉片すらほとんど残らぬ、白い骨ばかりが散乱していた。
その中で唯一頭部だけは、食い漁る部分が少なかったからか、砕けた頭蓋から脳髄を喰い荒らされ、下顎を引き千切られた程度の状態で、地面の上に転がっていた。
その表面には、甲虫たちの体内へと寄生し損ねた幼虫たちが這いずり、光を失った瞳には、代わり映えのしない映っている。だが、その肉片も眼球も、やがては腐り、土の一部として朽ちていった。
世界の異変へと立ち向かうための旅は、終わってしまったのだ。
終
リザードカクテルバー byさいと~
・あらすじ
リザードカクテルバー。
竜系の雄がスリットで客に酒を飲ませるいかがわしい店。
そこに務めることになったミドリ君のお話。
「はぁ・・・」
目の前の建物を見上げ、何度目のため息だろう。
とある事情で多額の借金を背負ってしまった僕が、大学の友人に相談したところ、蜥蜴人ならと薦められたのがここだったのだ。
給与の良さに藁にもすがる思いで連絡をしてみたのはいいものの、やはり不安なものは不安だ。
腕時計に目をやると、かなり早めに来ていたにもかかわらず、もう約束した時間になろうとしていた。
でもこんなところで逡巡していても何にもならない。僕にはどうしてもお金が必要なのだ。
勇気を振り絞り、店に足を踏み入れる。
「ん?ああ、すみませんお客様。当店は会員制となって――」
「あっ、あのっ、今日連絡させていただいたものなんですけどっ!」
緊張から相手の発言を遮って、場違いな大声を出してしまった。獅子の青年が目を丸くして固まっている。
「――ああ、今朝連絡してきた子かな。とりあえず店内に入ってくれるかい?」
獅子に促されるままに、店内に案内された。
道すがら好奇心と少しでも不安を紛らわせるためにきょろきょろと回りを見回してしまう。だが、見れば見るほど自分なんか場違いではないのかという思いがムクムクと湧き上がり、さらに不安をあおっただけだった。早鐘のような鼓動とカラカラになった口内がやけに気になった。
小部屋に着くと、獅子が椅子に腰を下ろし、こちらにも椅子を勧めてくる。
「?」
とりあえず薦められた椅子に座るも、彼が何者か分からなかったので首を傾げていると、相手もようやく思い至ったようだ。
「あ、ごめんよ。言ってなかったけど、僕がこの店のオーナーね。さっそくだけど電話で言ってたものだしてくれるかな?」
「はっ、はいっ」
思っていたよりも若い事に驚きつつも、あわてて鞄から履歴書やその他のものを取り出し見せる。
オーナーは黙って履歴書を見つめていたが、時折こちらを見つめる鋭い眼差しにだんだんと居心地の悪くなってくる。
「もういっこ確認するけど、お酒は飲めるんだよね?」
「はいっ」
いきなり声をかけられて吃驚したが、さらに驚く事になるのはこの後だった。
「おーけー。じゃあ採用で」
「えっ」
「採用で。若いし、顔も悪くないし、酒も飲める。十分だよ」
……あまり面接の経験が豊富な方ではないが、これが異常な事くらい分かる。本当に大丈夫なのだろうかこのお店、と改めて不安に思っていると店内に誰かが入ってくる音、そして遅れて挨拶が低く店内に響いた。
「おはようございます」
「あ、丁度よかった。新人君の指導任せるから、いろいろ教えてあげて」
オーナーは僕の背後に目をむけ、それだけ言うと席を立ちどこかへ行ってしまった。
オーナーのあまりのいいかげんさと軽さに呆れていると、視界に影が差し、背後に誰かが立ったのが分かる。
「よ、よろしくお願いします」
振り返りつつ挨拶するとそこには、黒い鱗に身を包んだ竜種の中年がいた。かなりの強面だ。
「ん、よろしく」
一言だけそう返されると、身振りでついてこいと案内されたのはロッカールームだった。
「改めてよろしくお願いします。僕―」
口元に指を当て、静かにというジェスチャーで遮られた。
「名前はいい。君がいいならいいけど、あんまり自分の事を言いたがらない人も多いからな。ある程度仲良くなるまではそういうことはしない方がいい」
自己紹介を遮られるとは思わなかったが、やはりワケアリの人が多いのだろうか?
「さて……、オーナーからはどこまで聞いたか分からないから、まぁ最初から言うぞ?」
まさかまったく何も聞いてないなどとは言えず、黙ってうなずく。
「この店は、まぁ俺ら鱗族のスリットを使ってお客さんにお酒を飲んでもらうサービスをする店だ、それはいいか?」
「……は、い」
分かってはいたが改めて口に出されると、自らの体を切り売りするという事実に気分が沈む。
「給与は基本的には歩合制だな。注文が入ってないときは、ウェイターとして動く。んで、お客さんに振舞った自前の酒の料金が、まぁ経費とかもろもろさっぴかれた後、俺らの懐に入る。指名料だけは例外でこれは俺たちが全部もらえる、って感じだ。だいたいはな」
全く経験のない僕がきちんとお金が稼げるのか不安になっていると、態度に出ていたのだろう。竜人が紛らわすように言葉を続けた。
「まぁ新入りの間はなんだかんだ言っても、珍しがって指名されるからそんなに心配しなくていい。問題は慣れた後だが……これは今心配するような事じゃないからな」
そういって彼はこちらに笑いかけてくれた。第一印象では無愛想なイメージだったが、意外と面倒見はいいのかもしれない。
「じゃあいろいろ測るから脱いでくれ」
「測る、んですか?」
彼は僕の質問に答えながらロッカーからいくつかの道具を取り出している。
「うん。ああ、等級は新入りは例外なく二級だからいいんだが、スリットと、その、……マドラーの大きさを測らないといけないんだ。お前だって化け物みたいなものつっこまれて怪我するのはやだろ?」
何となく察する事は出来たが、言いよどんだところを見ると、意外と生真面目で純情な人なのかもしれない。そんな人が何でこんなところで働いてるのか気にはなったが、先ほど彼に言われた事もある。口にするのは諦めた。大体僕だって事情を聞かれても答えられないのだ。
そんな事を考えながら素直に服を脱ぐ。鱗族の人はペニスも収納されてるため下着を履いていない者も多く、同族相手なら裸体でもあまり羞恥したりはしない。僕だって例外じゃない、けど。
「じゃあ勃たせてくれないか」
さすがにそういわれると恥ずかしい。だって他人に自分のペニスを見せる事なんて今まで一度もなかったのだ。でもここで恥ずかしがっても店ではもっと恥ずかしい事をしなくちゃいけない。
気持ちを奮い立たせ、スリットからペニスを取り出し普段やっているように片方を手で刺激する。他人に見られながらの行為はひどく羞恥と興奮を煽るものだったが、やはり、不安と緊張があるからだろうか?なかなか勃起しないペニスに焦りがつのる。
「……しかたないな」
竜人が困ったように笑い、必死でペニスを擦っていた僕の手をつかんで椅子に座らせると、おもむろに膝をつき、僕のペニスを両方とも口にくわえた。
「うっ!?」
まさかいきなり口に含まれるなんて、しかも両方とも。僕の上げた驚きとも快感ともつかない声にも意を介さず、黒い竜人は冷静に舌を使って僕のペニスを刺激していく。その質実剛健そのものとも言える外見と、じゅぶじゅぶと音をさせて他人のペニスをしゃぶっているという淫らな行いのギャップに、僕のペニスは直ぐに硬くなった。
「これでいっぱいか?」
頬張っていたペニスを口から出し、垂れる涎を手の甲でぬぐいながら聞いてきた。……そうだった。あまりにも気持ちよくて忘れてしまっていたけど趣旨は勃起させる事だったっけ。少しフェラされただけでそんな事も忘れてしまうほど理性が飛んでしまっていた事が恥ずかしくて答える声が少し小さくなった。
「……そうです」
「よし」
彼は手際よく上、下、両方のサイズを測り、何かのボードに記入していく。
「よし、じゃあ次はスリットの方だ。すまんが、えーっとまぁ、そいつを仕舞ってスリットを目一杯広げてくれ」
「……これでいいですか?」
目一杯。あまりの恥ずかしさにクラクラしつつも、こうなったら自棄だとばかりに思いっきりスリットを広げる。自然とM字開脚のようなポーズになり、顔から火が出そうになるが、蜥蜴人の表情なんて同族でもなければ読み取ってはくれない、だろう。
そんな気持ちを知ってか知らずか、彼はロッカーから出していた他の道具を手に取り、有無を言わせずスリットに取り付けていった。テレビの外科手術か何かで見たことがあるような形だ。
そしてスリットの下側に透明なストッパーを嵌め、先ほどの器具と固定した状態で竜人が手を止めた。どうやら取り付けは完了したらしい。
器具で無理やり広げられた隙間に空気が入ってスースーする。
「もう手は離していい。今は違和感があると思うが、すぐに慣れるからな。上から水入れるから一杯になったら言うんだぞ」
そういって竜人は水差しを手にし、スリットの上部から水を注ぎ込む。
普段は温い粘液しか触れることのないそこに水が流れ込んで来た。火照ったペニスに冷たい水が触れ心地いい。
上からは透明なストッパーを通してスリットの内側が赤くゆらめいているのが見える。そこに彼が顔を近づけて水を注ぎ込んでいるのだ。自分でも見たことのないような部位、それを奥までまじまじと見られているのを意識しだすと気になって仕方がなかった。
真剣な表情で水を注いでいる彼の表情を見ているうちに先ほど、一生懸命、僕のペニスをしゃぶっていた彼の表情が重なる。その瞬間、その時の感触と今ジョロジョロと緩くスリットの中を叩く水の刺激にゾワリと背筋が逆立った。
「……っ!?」
……逝ってしまった。咄嗟に手で股間を覆ったが、彼は目の前で見ていたのだ。水が白く濁ったのを見逃したりはしなかっただろう。
あまりの恥ずかしさと情けなさに、涙が出てきた。このまま消えてしまえればどんなに楽だろう……。
「大丈夫、大丈夫だから。とりあえずあっちにシャワールームがあるから行ってきなさい。俺もあとから行くから」
まるで子供をあやすかのような口調に情けなくなりながらも、今だけその言葉に甘えさせてもらう事にした。
シャワールームにつくと、想像したような小さいものではなく、かなり大きく複数人で入るのを想定している広さだった。そういえばこのお店の施設はどれもこれもいいものだったような気がする。意外と繁盛しているのかもしれない。
シャワーを顔に浴び涙を洗い流すが、気分は晴れないままだ。暗い気分も一緒に洗い流してくれればどれだけよかっただろう。
そういえば股間にぶらぶらと、器具をつけたままだった。はずし方がよく分からないけど、それほど複雑なものじゃないはずだ。はずしてしまおう。
「いてててて」
先ほどとは違う種類の涙が瞳から出てきた。友人がジッパーにモノを挟んだ時、確かこんな動作をしてた気がする。その時の友人に心の中で謝りながら、挟まった肉を丁寧に取り、白濁した水を洗い流す。
「そこはよーく洗っておけよ」
「うっひゃぁ」
いつのまにか背後に居た黒竜に吃驚して変な声を上げてしまった。
「悪い、驚かせたか?」
そこには大柄で筋肉質な体に、うすく脂肪の乗った見栄えのする、といっていいのだろうかとにかくとてもかっこいい裸体を晒した黒竜が居た。
いや、ここはシャワールームなんだから全裸でも当然なんだけど、体が動くたびに湯気で軽く湿った鱗がぬらぬらとなまめかしく、正直に言って目の毒だった。
「いえ、大丈夫です」
これ以上見てたら、いろいろまずい。それにジロジロ見ると失礼かもしれないし。それでも気になってチラチラと横目で見てしまうのを止める事は出来なかった。
そんな気持ちを知ってか知らずか、黒竜はシャワーを手に取り、鼻歌を歌いながらゴシゴシと石鹸で泡を立てて体を洗っている。
言われたとおり、スリットの中を丁寧に洗っていると、隣の黒竜もそこを洗い出した。
竜種は蜥蜴と違ってスリットの上部に陰毛が生えていた。まだ泡がついたそれを片手でかき分けてスリットを開きそこにシャワーを当てている。
しばらくそうしていたかと思うとスリットの中に手をいれ、一本のペニスを取り出すとシャワーを固定し、両手で洗い出した。
自慰もあんな風にするのだろうか?ドキドキしながら見ていると突然、黒竜が堪えきれないといった様子で笑い出した。
「若いなぁ」
黒竜の視線を辿ると、僕のスリットの中から露出していたペニスがギンギンに勃起していた。
「いやー、さっぱりした」
タオルで体を拭いながらそう言う黒竜はかなり機嫌がよさそうだ。やはり水浴びは鱗族なら誰でも好きなんだろうか。
それでも最低限の礼儀として、一応謝っておくべきだろう。
「すみません、つき合わせてしまって」
「いやいや、どちらにしろ出勤前に風呂に入る規則になってるからな。あっ、そうだ。体拭き終わったらこれ張っとけ」
なにやら半透明のテープを取り出し、そんな事を言い出した。何に使うのだろうか?彼はそのテープを自分のスリットの上からペッタリと張りつけた。
「えーっと、何の意味があるんですか?」
「その日まだ使ってません、って事らしい。まぁ便所とかそういう不便はあるが、何もないならつけといた方が特だな」
そういってロッカーから二着、黒い制服を取り出してきた。
「これが君の、いやミドリ君の制服」
結構高級そうな生地のウェイターの衣装が渡される。そこには名札がついており、ミドリ・二Mと書いてあった。先輩の名札に目をやると、クロ・特XLとなっている。
「ありがとうございます、クロ先輩」
しかし、下に着るシャツや、あのエプロンみたいなものはないのだろうか?
「えっと、すみません先輩。他はどうすればいいんでしょう?」
「無い」
驚愕の事実。確かに裸でもあまり恥ずかしくないとは言っても同族相手限定だし、一応の社会常識はある。少し震える声で先輩に問いただす。
「い、いいんですか?」
「注文されるたびにいちいち脱ぐのは面倒くさいだろ?俺らに付き合わされて、下脱がないといけないマドラー専門のやつらの方が恥ずかしそうだったぞ。まぁそういう毛皮連中は、剃られるまでは裸じゃない!なんて強がってたけどな」
「そ、そうですか」
そういうもんなのかな。もはや僕には何が常識か分からなくなりつつあった。
その後、店の用語や、法度、休憩室等、店内の配置を教えてもらっていると時間はあっという間に過ぎていった。
ある程度の基本を教授され、いよいよお店に出る事になった。
今は開店時間をすこし過ぎ、いわゆる一番お客が入る時間らしい。
ドアをくぐるとお客同士が話しているだけなので思ったより静かなのだが、視界の中でどこもかしこもモゾモゾとうごめいていて少し不気味だ。
カウンターでは山羊のバーテンダーが、先ほどの器具をつけた蜥蜴人を背後から貫き、胸をいじりながら喘がせている。
他の席では犬につきこまれ、声を漏らしている蜥蜴人や豚人のお客さんに、スリットの中にまで鼻をつきこまれ、舐められているものもいた。
見たこともないような刺激的な光景に、今まで自分が生きてきた世界と全く違う事が、いやでも分かる。容赦のない現実に怖くなり体が震えだす。
不意に後ろから肩を叩かれて体が跳ねる。声が漏れなかったのは僥倖だった……。見るとクロ先輩がそこにいる。
「大丈夫だ。挨拶だけはちゃんとしておけばそうひどい事にはならないよ。失敗しても俺らがフォローするから、とりあえずやってみなさい」
そう言って、尻尾をゆらゆらとゆらして行ってしまった。
先輩の言うとおりやる前から怖がっても仕方が無い。とりあえず、やってみよう。
しばらく教えられた通りウェイターをやってると、最初の不安はかなり緩和され、お客さんとスムーズに挨拶を交わす程度の余裕が出てきた。親切に対応してくれたのはこちらが新人だったからかもしれない。
しかしそうやっていると最初の不安とは別種の不安が頭をもたげてくる。注文はしてもらえるのだろうか?
「クロさん指名!とりあえず直飲みだけで頼むわ!」
その思考を遮ったのは虎のお客さんの元気な注文の声だった。
「……ミドリ、酒持ち頼むわ」
「わわっ」
またしてもいつのまにか背後に来ていたクロ先輩にささやくように言われた。……お酒持ってなくて良かった。
「ご指名、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
クロ先輩に教えられた通り挨拶する。お客さんは虎の四十代のおじさんだった。一人客で好色そうな目をクロ先輩に向けている。
クロ先輩は気にせずに中央の専用台に仰向けにごろりと寝転がると、スリットがお客の目に見えるように足を開いた。スリットには前張りがついたままだ。
「こちらで剥がしましょうか?」
「いや、自分でやる」
鼻息荒くそういうと、ベリッと勢いよく剥がし、それを嗅いで楽しんでいる。
少し唖然としたが、気を取り直し、先輩のスリットに酒を注いでゆく。……どんどん入る。マスターが瓶ごと手渡してくれた意味がようやく分かった。
なみなみ注ぐと、鼻息が荒くお客さんがクロ先輩の股間にむしゃぶりついた。鼻息で先輩の陰毛がそよいだのは気のせいじゃないと思う。
無遠慮に舌を差し入れ、スリットからこぼれた酒も啜っている。猫族特有のざらざらした舌でスリットを舐められ先輩の顔がゆがんだ。その顔を流れた汗が照明を反射して光る。
お酒を入れた後、直ぐに業務に戻るのがマニュアルなのだがあまりに扇情的な光景に目を奪われていたらしい。客が声をかけてきた。
「おっ、お前新入りか。丁度いい。マドラーやってくれ」
「えっ、僕ですか?」
ボーっとしていた意識をお客さんの声でひきもどされた。怒られなかったのは幸運だと思う。
「おう、お前のでかき混ぜてやってくれ。濁りはナシでな」
初めては怖かったが、クロ先輩となら大丈夫。とりあえず僕も前張りを剥がし先輩の前に立つと、ペニスを取り出した。先ほどの光景で既に準備は出来ている。
「……まずはゆっくりといれて、それから全体にこすり付けるようにまわすんだ。焦らずやれば大丈夫だから」
こちらを気遣って、小声でクロ先輩が指示を出してくれた。
先輩の言ったとおりにゆっくりと先輩のスリットにペニスを挿れていく。酒で火照った先輩のスリットが僕のペニスに絡みついてきて気持ちがよかった。
それだけで、先ほどのお客を笑えないくらい興奮し鼻息が荒くなる。とりあえず指示通り、かき混ぜるように腰を動かしていたがやはり見ていて物足りなかったのだろうか。客が野次を飛ばしてきた。
「じれってぇ、もう一本挿れちまえ」
「かしこまりっ、ました」
客の要望なら仕方がない。荒い息を付きながら両方とも入れる。先輩のスリットはかなり広いものだったが流石に二本とも入れるときつい。
自然と僕のペニスで先輩のペニスを挟むような形になり、どう動かしても擦れて気持ちがいい。気付けば先輩からの指示が途絶えていた。不安になりそちらを見ると、先輩の顔は大きく歪み、ペニスを動かすたびに声にならない息をもらしていた。
それを見ると自慰では感じた事のないような興奮が体を支配し、腰が止められくなる。初めてで舞い上がった僕は法度も忘れ、逝ってしまった。
「……もうしわけ、ありません。直ちに……作り、直します」
「もうしわけありません」
先輩は息も絶え絶え、という様子でお客に謝り、お酒を作り直す事になった。虎のお客はそれを見てニヤニヤといやらしい笑みを浮かべている。今度の視線には僕に対するものも含まれていた。
結局その後もう一度作るのに失敗し、注文にこたえられたのは三回目になった。
その後、流石に三回連続で酒を供した先輩と僕は休憩を取る事にした。
「す、すみません」
休憩室に入った瞬間に、先輩に詫びる。先輩の注意を忘れ、先輩に負担をかけてしまったのだ。
先輩の手が僕の頭に伸びた。てっきり殴られるのかと思ったが、そうではなく、優しく頭の上に手を置かれただけだった。
「最初ならあんなもんだ、次から気をつければいい」
「で、でも法度に……」
「あの客の悪い癖なんだ。新入りが居ると濁り抜きで注文して失敗させて楽しんでるんだ」
……なんて意地悪な客なんだろう。問題ないのだろうか?
「……悪い客じゃないんだ。新入りの宣伝にもなってるからな。多分ミドリの指名もこれから増えると思う」
「でも……、すみませんでした」
「本当に謝らなくていい。その……一回目は俺も逝ってたからな」
クロ先輩は紅潮した顔をそらす。酒のせいではないと思いたいのは僕のわがままだろうか?
「それでも、です。……僕はマドラー役だったのでもう戻ります。先輩はもうしばらく休憩していて下さい」
「分かった。……がんばれよ」
迷惑をかけた先輩に励まされ、元気が出てきた。先ほどまでは怒られるのが怖くて萎縮していたのに現金なものだと自分でも思う。
「はいっ」
これ以上先輩には迷惑はかけられない。急いで仕事に戻ろうとすると、後ろから先輩に呼び止められた。
先輩はちょっといいにくそうにしていたが意を決したように息を整えると口を開いた。
「……そういえば自己紹介がまだだったからな――」
リザードカクテルバー。
竜系の雄がスリットで客に酒を飲ませるいかがわしい店。
そこに務めることになったミドリ君のお話。
「はぁ・・・」
目の前の建物を見上げ、何度目のため息だろう。
とある事情で多額の借金を背負ってしまった僕が、大学の友人に相談したところ、蜥蜴人ならと薦められたのがここだったのだ。
給与の良さに藁にもすがる思いで連絡をしてみたのはいいものの、やはり不安なものは不安だ。
腕時計に目をやると、かなり早めに来ていたにもかかわらず、もう約束した時間になろうとしていた。
でもこんなところで逡巡していても何にもならない。僕にはどうしてもお金が必要なのだ。
勇気を振り絞り、店に足を踏み入れる。
「ん?ああ、すみませんお客様。当店は会員制となって――」
「あっ、あのっ、今日連絡させていただいたものなんですけどっ!」
緊張から相手の発言を遮って、場違いな大声を出してしまった。獅子の青年が目を丸くして固まっている。
「――ああ、今朝連絡してきた子かな。とりあえず店内に入ってくれるかい?」
獅子に促されるままに、店内に案内された。
道すがら好奇心と少しでも不安を紛らわせるためにきょろきょろと回りを見回してしまう。だが、見れば見るほど自分なんか場違いではないのかという思いがムクムクと湧き上がり、さらに不安をあおっただけだった。早鐘のような鼓動とカラカラになった口内がやけに気になった。
小部屋に着くと、獅子が椅子に腰を下ろし、こちらにも椅子を勧めてくる。
「?」
とりあえず薦められた椅子に座るも、彼が何者か分からなかったので首を傾げていると、相手もようやく思い至ったようだ。
「あ、ごめんよ。言ってなかったけど、僕がこの店のオーナーね。さっそくだけど電話で言ってたものだしてくれるかな?」
「はっ、はいっ」
思っていたよりも若い事に驚きつつも、あわてて鞄から履歴書やその他のものを取り出し見せる。
オーナーは黙って履歴書を見つめていたが、時折こちらを見つめる鋭い眼差しにだんだんと居心地の悪くなってくる。
「もういっこ確認するけど、お酒は飲めるんだよね?」
「はいっ」
いきなり声をかけられて吃驚したが、さらに驚く事になるのはこの後だった。
「おーけー。じゃあ採用で」
「えっ」
「採用で。若いし、顔も悪くないし、酒も飲める。十分だよ」
……あまり面接の経験が豊富な方ではないが、これが異常な事くらい分かる。本当に大丈夫なのだろうかこのお店、と改めて不安に思っていると店内に誰かが入ってくる音、そして遅れて挨拶が低く店内に響いた。
「おはようございます」
「あ、丁度よかった。新人君の指導任せるから、いろいろ教えてあげて」
オーナーは僕の背後に目をむけ、それだけ言うと席を立ちどこかへ行ってしまった。
オーナーのあまりのいいかげんさと軽さに呆れていると、視界に影が差し、背後に誰かが立ったのが分かる。
「よ、よろしくお願いします」
振り返りつつ挨拶するとそこには、黒い鱗に身を包んだ竜種の中年がいた。かなりの強面だ。
「ん、よろしく」
一言だけそう返されると、身振りでついてこいと案内されたのはロッカールームだった。
「改めてよろしくお願いします。僕―」
口元に指を当て、静かにというジェスチャーで遮られた。
「名前はいい。君がいいならいいけど、あんまり自分の事を言いたがらない人も多いからな。ある程度仲良くなるまではそういうことはしない方がいい」
自己紹介を遮られるとは思わなかったが、やはりワケアリの人が多いのだろうか?
「さて……、オーナーからはどこまで聞いたか分からないから、まぁ最初から言うぞ?」
まさかまったく何も聞いてないなどとは言えず、黙ってうなずく。
「この店は、まぁ俺ら鱗族のスリットを使ってお客さんにお酒を飲んでもらうサービスをする店だ、それはいいか?」
「……は、い」
分かってはいたが改めて口に出されると、自らの体を切り売りするという事実に気分が沈む。
「給与は基本的には歩合制だな。注文が入ってないときは、ウェイターとして動く。んで、お客さんに振舞った自前の酒の料金が、まぁ経費とかもろもろさっぴかれた後、俺らの懐に入る。指名料だけは例外でこれは俺たちが全部もらえる、って感じだ。だいたいはな」
全く経験のない僕がきちんとお金が稼げるのか不安になっていると、態度に出ていたのだろう。竜人が紛らわすように言葉を続けた。
「まぁ新入りの間はなんだかんだ言っても、珍しがって指名されるからそんなに心配しなくていい。問題は慣れた後だが……これは今心配するような事じゃないからな」
そういって彼はこちらに笑いかけてくれた。第一印象では無愛想なイメージだったが、意外と面倒見はいいのかもしれない。
「じゃあいろいろ測るから脱いでくれ」
「測る、んですか?」
彼は僕の質問に答えながらロッカーからいくつかの道具を取り出している。
「うん。ああ、等級は新入りは例外なく二級だからいいんだが、スリットと、その、……マドラーの大きさを測らないといけないんだ。お前だって化け物みたいなものつっこまれて怪我するのはやだろ?」
何となく察する事は出来たが、言いよどんだところを見ると、意外と生真面目で純情な人なのかもしれない。そんな人が何でこんなところで働いてるのか気にはなったが、先ほど彼に言われた事もある。口にするのは諦めた。大体僕だって事情を聞かれても答えられないのだ。
そんな事を考えながら素直に服を脱ぐ。鱗族の人はペニスも収納されてるため下着を履いていない者も多く、同族相手なら裸体でもあまり羞恥したりはしない。僕だって例外じゃない、けど。
「じゃあ勃たせてくれないか」
さすがにそういわれると恥ずかしい。だって他人に自分のペニスを見せる事なんて今まで一度もなかったのだ。でもここで恥ずかしがっても店ではもっと恥ずかしい事をしなくちゃいけない。
気持ちを奮い立たせ、スリットからペニスを取り出し普段やっているように片方を手で刺激する。他人に見られながらの行為はひどく羞恥と興奮を煽るものだったが、やはり、不安と緊張があるからだろうか?なかなか勃起しないペニスに焦りがつのる。
「……しかたないな」
竜人が困ったように笑い、必死でペニスを擦っていた僕の手をつかんで椅子に座らせると、おもむろに膝をつき、僕のペニスを両方とも口にくわえた。
「うっ!?」
まさかいきなり口に含まれるなんて、しかも両方とも。僕の上げた驚きとも快感ともつかない声にも意を介さず、黒い竜人は冷静に舌を使って僕のペニスを刺激していく。その質実剛健そのものとも言える外見と、じゅぶじゅぶと音をさせて他人のペニスをしゃぶっているという淫らな行いのギャップに、僕のペニスは直ぐに硬くなった。
「これでいっぱいか?」
頬張っていたペニスを口から出し、垂れる涎を手の甲でぬぐいながら聞いてきた。……そうだった。あまりにも気持ちよくて忘れてしまっていたけど趣旨は勃起させる事だったっけ。少しフェラされただけでそんな事も忘れてしまうほど理性が飛んでしまっていた事が恥ずかしくて答える声が少し小さくなった。
「……そうです」
「よし」
彼は手際よく上、下、両方のサイズを測り、何かのボードに記入していく。
「よし、じゃあ次はスリットの方だ。すまんが、えーっとまぁ、そいつを仕舞ってスリットを目一杯広げてくれ」
「……これでいいですか?」
目一杯。あまりの恥ずかしさにクラクラしつつも、こうなったら自棄だとばかりに思いっきりスリットを広げる。自然とM字開脚のようなポーズになり、顔から火が出そうになるが、蜥蜴人の表情なんて同族でもなければ読み取ってはくれない、だろう。
そんな気持ちを知ってか知らずか、彼はロッカーから出していた他の道具を手に取り、有無を言わせずスリットに取り付けていった。テレビの外科手術か何かで見たことがあるような形だ。
そしてスリットの下側に透明なストッパーを嵌め、先ほどの器具と固定した状態で竜人が手を止めた。どうやら取り付けは完了したらしい。
器具で無理やり広げられた隙間に空気が入ってスースーする。
「もう手は離していい。今は違和感があると思うが、すぐに慣れるからな。上から水入れるから一杯になったら言うんだぞ」
そういって竜人は水差しを手にし、スリットの上部から水を注ぎ込む。
普段は温い粘液しか触れることのないそこに水が流れ込んで来た。火照ったペニスに冷たい水が触れ心地いい。
上からは透明なストッパーを通してスリットの内側が赤くゆらめいているのが見える。そこに彼が顔を近づけて水を注ぎ込んでいるのだ。自分でも見たことのないような部位、それを奥までまじまじと見られているのを意識しだすと気になって仕方がなかった。
真剣な表情で水を注いでいる彼の表情を見ているうちに先ほど、一生懸命、僕のペニスをしゃぶっていた彼の表情が重なる。その瞬間、その時の感触と今ジョロジョロと緩くスリットの中を叩く水の刺激にゾワリと背筋が逆立った。
「……っ!?」
……逝ってしまった。咄嗟に手で股間を覆ったが、彼は目の前で見ていたのだ。水が白く濁ったのを見逃したりはしなかっただろう。
あまりの恥ずかしさと情けなさに、涙が出てきた。このまま消えてしまえればどんなに楽だろう……。
「大丈夫、大丈夫だから。とりあえずあっちにシャワールームがあるから行ってきなさい。俺もあとから行くから」
まるで子供をあやすかのような口調に情けなくなりながらも、今だけその言葉に甘えさせてもらう事にした。
シャワールームにつくと、想像したような小さいものではなく、かなり大きく複数人で入るのを想定している広さだった。そういえばこのお店の施設はどれもこれもいいものだったような気がする。意外と繁盛しているのかもしれない。
シャワーを顔に浴び涙を洗い流すが、気分は晴れないままだ。暗い気分も一緒に洗い流してくれればどれだけよかっただろう。
そういえば股間にぶらぶらと、器具をつけたままだった。はずし方がよく分からないけど、それほど複雑なものじゃないはずだ。はずしてしまおう。
「いてててて」
先ほどとは違う種類の涙が瞳から出てきた。友人がジッパーにモノを挟んだ時、確かこんな動作をしてた気がする。その時の友人に心の中で謝りながら、挟まった肉を丁寧に取り、白濁した水を洗い流す。
「そこはよーく洗っておけよ」
「うっひゃぁ」
いつのまにか背後に居た黒竜に吃驚して変な声を上げてしまった。
「悪い、驚かせたか?」
そこには大柄で筋肉質な体に、うすく脂肪の乗った見栄えのする、といっていいのだろうかとにかくとてもかっこいい裸体を晒した黒竜が居た。
いや、ここはシャワールームなんだから全裸でも当然なんだけど、体が動くたびに湯気で軽く湿った鱗がぬらぬらとなまめかしく、正直に言って目の毒だった。
「いえ、大丈夫です」
これ以上見てたら、いろいろまずい。それにジロジロ見ると失礼かもしれないし。それでも気になってチラチラと横目で見てしまうのを止める事は出来なかった。
そんな気持ちを知ってか知らずか、黒竜はシャワーを手に取り、鼻歌を歌いながらゴシゴシと石鹸で泡を立てて体を洗っている。
言われたとおり、スリットの中を丁寧に洗っていると、隣の黒竜もそこを洗い出した。
竜種は蜥蜴と違ってスリットの上部に陰毛が生えていた。まだ泡がついたそれを片手でかき分けてスリットを開きそこにシャワーを当てている。
しばらくそうしていたかと思うとスリットの中に手をいれ、一本のペニスを取り出すとシャワーを固定し、両手で洗い出した。
自慰もあんな風にするのだろうか?ドキドキしながら見ていると突然、黒竜が堪えきれないといった様子で笑い出した。
「若いなぁ」
黒竜の視線を辿ると、僕のスリットの中から露出していたペニスがギンギンに勃起していた。
「いやー、さっぱりした」
タオルで体を拭いながらそう言う黒竜はかなり機嫌がよさそうだ。やはり水浴びは鱗族なら誰でも好きなんだろうか。
それでも最低限の礼儀として、一応謝っておくべきだろう。
「すみません、つき合わせてしまって」
「いやいや、どちらにしろ出勤前に風呂に入る規則になってるからな。あっ、そうだ。体拭き終わったらこれ張っとけ」
なにやら半透明のテープを取り出し、そんな事を言い出した。何に使うのだろうか?彼はそのテープを自分のスリットの上からペッタリと張りつけた。
「えーっと、何の意味があるんですか?」
「その日まだ使ってません、って事らしい。まぁ便所とかそういう不便はあるが、何もないならつけといた方が特だな」
そういってロッカーから二着、黒い制服を取り出してきた。
「これが君の、いやミドリ君の制服」
結構高級そうな生地のウェイターの衣装が渡される。そこには名札がついており、ミドリ・二Mと書いてあった。先輩の名札に目をやると、クロ・特XLとなっている。
「ありがとうございます、クロ先輩」
しかし、下に着るシャツや、あのエプロンみたいなものはないのだろうか?
「えっと、すみません先輩。他はどうすればいいんでしょう?」
「無い」
驚愕の事実。確かに裸でもあまり恥ずかしくないとは言っても同族相手限定だし、一応の社会常識はある。少し震える声で先輩に問いただす。
「い、いいんですか?」
「注文されるたびにいちいち脱ぐのは面倒くさいだろ?俺らに付き合わされて、下脱がないといけないマドラー専門のやつらの方が恥ずかしそうだったぞ。まぁそういう毛皮連中は、剃られるまでは裸じゃない!なんて強がってたけどな」
「そ、そうですか」
そういうもんなのかな。もはや僕には何が常識か分からなくなりつつあった。
その後、店の用語や、法度、休憩室等、店内の配置を教えてもらっていると時間はあっという間に過ぎていった。
ある程度の基本を教授され、いよいよお店に出る事になった。
今は開店時間をすこし過ぎ、いわゆる一番お客が入る時間らしい。
ドアをくぐるとお客同士が話しているだけなので思ったより静かなのだが、視界の中でどこもかしこもモゾモゾとうごめいていて少し不気味だ。
カウンターでは山羊のバーテンダーが、先ほどの器具をつけた蜥蜴人を背後から貫き、胸をいじりながら喘がせている。
他の席では犬につきこまれ、声を漏らしている蜥蜴人や豚人のお客さんに、スリットの中にまで鼻をつきこまれ、舐められているものもいた。
見たこともないような刺激的な光景に、今まで自分が生きてきた世界と全く違う事が、いやでも分かる。容赦のない現実に怖くなり体が震えだす。
不意に後ろから肩を叩かれて体が跳ねる。声が漏れなかったのは僥倖だった……。見るとクロ先輩がそこにいる。
「大丈夫だ。挨拶だけはちゃんとしておけばそうひどい事にはならないよ。失敗しても俺らがフォローするから、とりあえずやってみなさい」
そう言って、尻尾をゆらゆらとゆらして行ってしまった。
先輩の言うとおりやる前から怖がっても仕方が無い。とりあえず、やってみよう。
しばらく教えられた通りウェイターをやってると、最初の不安はかなり緩和され、お客さんとスムーズに挨拶を交わす程度の余裕が出てきた。親切に対応してくれたのはこちらが新人だったからかもしれない。
しかしそうやっていると最初の不安とは別種の不安が頭をもたげてくる。注文はしてもらえるのだろうか?
「クロさん指名!とりあえず直飲みだけで頼むわ!」
その思考を遮ったのは虎のお客さんの元気な注文の声だった。
「……ミドリ、酒持ち頼むわ」
「わわっ」
またしてもいつのまにか背後に来ていたクロ先輩にささやくように言われた。……お酒持ってなくて良かった。
「ご指名、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
クロ先輩に教えられた通り挨拶する。お客さんは虎の四十代のおじさんだった。一人客で好色そうな目をクロ先輩に向けている。
クロ先輩は気にせずに中央の専用台に仰向けにごろりと寝転がると、スリットがお客の目に見えるように足を開いた。スリットには前張りがついたままだ。
「こちらで剥がしましょうか?」
「いや、自分でやる」
鼻息荒くそういうと、ベリッと勢いよく剥がし、それを嗅いで楽しんでいる。
少し唖然としたが、気を取り直し、先輩のスリットに酒を注いでゆく。……どんどん入る。マスターが瓶ごと手渡してくれた意味がようやく分かった。
なみなみ注ぐと、鼻息が荒くお客さんがクロ先輩の股間にむしゃぶりついた。鼻息で先輩の陰毛がそよいだのは気のせいじゃないと思う。
無遠慮に舌を差し入れ、スリットからこぼれた酒も啜っている。猫族特有のざらざらした舌でスリットを舐められ先輩の顔がゆがんだ。その顔を流れた汗が照明を反射して光る。
お酒を入れた後、直ぐに業務に戻るのがマニュアルなのだがあまりに扇情的な光景に目を奪われていたらしい。客が声をかけてきた。
「おっ、お前新入りか。丁度いい。マドラーやってくれ」
「えっ、僕ですか?」
ボーっとしていた意識をお客さんの声でひきもどされた。怒られなかったのは幸運だと思う。
「おう、お前のでかき混ぜてやってくれ。濁りはナシでな」
初めては怖かったが、クロ先輩となら大丈夫。とりあえず僕も前張りを剥がし先輩の前に立つと、ペニスを取り出した。先ほどの光景で既に準備は出来ている。
「……まずはゆっくりといれて、それから全体にこすり付けるようにまわすんだ。焦らずやれば大丈夫だから」
こちらを気遣って、小声でクロ先輩が指示を出してくれた。
先輩の言ったとおりにゆっくりと先輩のスリットにペニスを挿れていく。酒で火照った先輩のスリットが僕のペニスに絡みついてきて気持ちがよかった。
それだけで、先ほどのお客を笑えないくらい興奮し鼻息が荒くなる。とりあえず指示通り、かき混ぜるように腰を動かしていたがやはり見ていて物足りなかったのだろうか。客が野次を飛ばしてきた。
「じれってぇ、もう一本挿れちまえ」
「かしこまりっ、ました」
客の要望なら仕方がない。荒い息を付きながら両方とも入れる。先輩のスリットはかなり広いものだったが流石に二本とも入れるときつい。
自然と僕のペニスで先輩のペニスを挟むような形になり、どう動かしても擦れて気持ちがいい。気付けば先輩からの指示が途絶えていた。不安になりそちらを見ると、先輩の顔は大きく歪み、ペニスを動かすたびに声にならない息をもらしていた。
それを見ると自慰では感じた事のないような興奮が体を支配し、腰が止められくなる。初めてで舞い上がった僕は法度も忘れ、逝ってしまった。
「……もうしわけ、ありません。直ちに……作り、直します」
「もうしわけありません」
先輩は息も絶え絶え、という様子でお客に謝り、お酒を作り直す事になった。虎のお客はそれを見てニヤニヤといやらしい笑みを浮かべている。今度の視線には僕に対するものも含まれていた。
結局その後もう一度作るのに失敗し、注文にこたえられたのは三回目になった。
その後、流石に三回連続で酒を供した先輩と僕は休憩を取る事にした。
「す、すみません」
休憩室に入った瞬間に、先輩に詫びる。先輩の注意を忘れ、先輩に負担をかけてしまったのだ。
先輩の手が僕の頭に伸びた。てっきり殴られるのかと思ったが、そうではなく、優しく頭の上に手を置かれただけだった。
「最初ならあんなもんだ、次から気をつければいい」
「で、でも法度に……」
「あの客の悪い癖なんだ。新入りが居ると濁り抜きで注文して失敗させて楽しんでるんだ」
……なんて意地悪な客なんだろう。問題ないのだろうか?
「……悪い客じゃないんだ。新入りの宣伝にもなってるからな。多分ミドリの指名もこれから増えると思う」
「でも……、すみませんでした」
「本当に謝らなくていい。その……一回目は俺も逝ってたからな」
クロ先輩は紅潮した顔をそらす。酒のせいではないと思いたいのは僕のわがままだろうか?
「それでも、です。……僕はマドラー役だったのでもう戻ります。先輩はもうしばらく休憩していて下さい」
「分かった。……がんばれよ」
迷惑をかけた先輩に励まされ、元気が出てきた。先ほどまでは怒られるのが怖くて萎縮していたのに現金なものだと自分でも思う。
「はいっ」
これ以上先輩には迷惑はかけられない。急いで仕事に戻ろうとすると、後ろから先輩に呼び止められた。
先輩はちょっといいにくそうにしていたが意を決したように息を整えると口を開いた。
「……そういえば自己紹介がまだだったからな――」
無実の罪を着せられる猪の戦士 by take
ピンク色の照明で彩られる広間。窓が1つもなく、地下に設けられているため埃っぽい空気ではあるが広間にいる者たちはそんなことを気にする様子もない。
その広間はステージと観客席に区切られ、地下に設けられた劇場、或いは舞台とも言うべき場所であった。
観客たちはがやがやと騒いでおり、皆一様にステージに視線を注いでいる。今日は何かしらのイベントがあるらしく、観客たちは皆総立ちで興奮を抑えきれない様子である。
すると、ステージ奥の厚手のカーテンが開かれ、そこから3人の男が現れる。
1人は豚獣人の男。身なりは派手なローブを纏い、重金属のネックレスを首に掛けている。恰幅が良く、ゆったりとしたローブを着ているにも関わらずほどよく肥えた腹が突き出ている。背が低いためか厚底のブーツを履いている。
歳は中年に差し掛かったほどで、薄桃色の肌に白色の体毛が生えている。堂々とした立ち振る舞いで、彼がこの広間の持ち主である。
この広間は彼の趣味のために設けられたもので、彼の住む屋敷の地下に設けたものである。
そして豚の後ろに続くのは虎の男。兜と鎧を纏い、小手と具足から覗く腕や足は丸太のように太い。
彼は豚の屋敷を警護する衛兵である。豚よりも若々しく、筋肉が張った、背の高い彼ならば衛兵にぴったりだろう。
虎は表情を一つ変えず、その手には縄を持っている。その縄の先には猪の男がいた。
体格は腹の肉が弛んではいるものの、手足の筋肉はしっかりと整っており、ちょうど豚と虎の中間の脂肪と筋肉を持ち合わせていた。
虎の持った縄は、猪の両腕を前に伸ばす形で縛っていた。また、両腕を縛られた猪はマズルを動かすことが出来ない上下の口を縛られた猿轡も施されていた。
格好は豚や虎と違い、上半身は何も身に着けず、下半身はボロボロのズボンを履いているだけ。そのズボンも今では黒ずみ、不潔であることを表している。
更に猪に近づけばむわっと酷く臭いにおいが漂っている。何日もシャワーどころか水浴びすら浴びていない獣臭さが染み付いている。ステージと観客席の間はいくらか離れてはいるが、観客の中には鼻をつまんで不快感を露にするものもいた。
豚が先導し、観客席から良く見える中央の位置で足を止め、同じように虎が足を止めると猪も歩みを止める。
「本日は皆さん、よく集まり頂きました。これが、我が屋敷に立ち入った盗人です」
豚がそう言って、手を猪へと向ける。猪は豚のその言葉に怒りを露にし、額に皺を寄せ、ぶるるっと鼻息を荒くする。
すると、虎は腰に持っていた短剣を抜き、その切っ先を猪の喉元へと当てる。すると猪は勢いが潰え、しゅんとする。
「こやつは屋敷に侵入しただけではなく、またその罪を認めない不届き者です。そこで、私の手でこやつを罰しようと思いましてな。どうか皆様、心行くまでお楽しみください」
さぞ満足気に豚が言い放つと、豚はくぐもった声を上げる。本来ならばそこで抗議の声を上げようとしたのだが、猿轡が施され、くぐもった声しか上げられない。
次いで猪は豚を目掛けて縛られた両腕で殴ろうと駆け出そうとしたが、それよりも早く虎が縄を上に縛り上げ、豚の眼前でその動きを止める。
そしてこれ以上豚に反抗できないように猪の後頭部を掴み、床へと仰向けの姿勢で叩きつける。
猪は平たい鼻から叩きつけられ、鼻から空気が抜け、豚を見上げ肩を震わせる。受身も取れずに「うう」と痛みから情けない声を上げる。
豚はそんな反抗心を剥き出しにする猪を見下し、目つきを細めて下品な表情に変わる。
実際、猪は豚の屋敷に盗みに入ってはいない。豚は豪邸を構える貴族で、猪と全く関係がない。
猪は1人で当てもない旅をしている戦士で、その日暮らしの生活をしていた。豚の屋敷に近づいたのは全くの偶然で、金に困ってはいるものの人の家に盗みに入るほど落ちぶれてはいない。
すると、豚は自分の屋敷をうろつく猪の姿を目撃したのだ。それからすぐに衛兵の虎に連絡し、猪を捕らえた。
猪は腕の立つ戦士であったが、装備も戦闘技術にも上回る虎に不意打ちを食らい、あっという間に気絶してしまった。
目が覚めれば豚の屋敷の中にある牢獄に幽閉され、謂れの無い罪を被ることになったのだ。
無論、何度も豚に無実だと掛け合ったが、豚は取り合おうともせず、猪を一週間幽閉した。そして今、猪は牢から出されたものの、わけも分からずこんな場所に連れて来られ、事態を把握できない。
警察にも引き渡さず、自分は一介の冒険者だというのに豚の意図が読めない。
「どれ、ちょっと立たせろ」
豚は虎に命令すると、虎は猪の首根っこを掴み、無理やり膝立ちにさせる。虎が立て、とドスの聞いた声で言い放ち、猪は立ち上がる。
それから豚は虎の傍に近づき、何かを囁くと猪と虎から離れる。
虎は豚を見送った後、短剣を猪の腹へと切っ先を向ける。猪はぎょっと目を見開き、視線をナイフへと向ける。
猪はこのまま刺されるのだろうか、と不安を抱えるが、しかし虎は猪の履いている異臭の漂うズボンへと切っ先をあてがい、猪のズボンを引き裂く。
ボロボロだったズボンはすぐに布切れとなって床に落ち、ズボンを失った猪の股間には金属製の何かが取り付けられていた。
観客たちの目にもそれが映る。ちょうど下着のように股間周りを覆う金属製の下着、とでも言うべきもの。
それはいわゆる貞操帯と呼ばれるものであった。猪は投獄されると同時に、履いていた下着を貞操帯と取り替えられたのだ。
投獄されたときには手枷も施されており、運ばれてきた食事は家畜のように直接皿に口をつけて食べることが出来たが、排泄はそうもいかない。
猪は恥を忍んで豚にそのことを申し出たが、これが以外にも豚は虎に命令をして貞操帯の鍵を外し、排泄を許した。
無論用が済むとすぐに貞操帯を取り付けられたのだが、しかし猪は貞操帯をつけられた意味が今も分からないでいた。
そして、貞操帯だけを覆う猪に、虎は鍵を取り出し、貞操帯を外させた。がらんと貞操帯はばらばらになって落ちて、猪の一糸纏わぬ姿を観客たちに見せることになる。
その猪の股間を見た観客たちは一斉に大笑いをした。そこで猪は、初めて大勢の人々に自身の性器を見られているということを意識し、顔を赤らめ両手を股間で覆う。
猪のペニスは子供のものかと思うほどに小さく、先端まですっぽりと皮を被っていた。それだけでなく、かなり皮が余っているようで先端に皺が寄ってドリルのような形をしていた。
両足が太い分、ペニスの小ささが引き立ち、それを見た観客たちは笑いを堪えようともせず、口々にからかう。
こんなことをさせるために自分を捕まえたというのか。猪は恥じらいと同時に悔しさがこみ上げる。
と、それだけではなかった。虎は持っていたナイフを更に猪の両手を縛る縄へとあてがい、縄を切ったのだ。
猪は虎の行動に呆気に取られる。両手で股間を隠すのも忘れ、虎にその手を向ける。
助けてもらえるのだろうか、と猪は思ったのもつかの間、虎は猪に冷たく次の一言を言い放つ。
「自慰をしろ」
「……っ!?」
猪は目を瞬かせ、虎を見る。すると、猪の後ろに待機していた豚が煽る様に言う。
「皆様、今よりこやつは自慰を公開してくれるそうです。一週間も溜まったままで気持ちが昂ぶっているのでしょう」
豚の言葉に猪は固まる。今すぐにでもその突き出た腹に拳をのめり込ませてやろうかと寸での思いで踏み止まる。
自分を無実の罪で捕らえたのも、わざわざ貞操帯をつけたのも、これだけのために。猪は猿轡で縛られたマズルをわなわなと震わせる。
両手が自由に利く今なら猿轡を外し、豚に殴りかかるのも容易ではない。しかし、当然その猪の考えに虎は既に対処している。
猪の首を掴み、「余計なことをしたら殺す」とだけ言って脅す。背中にナイフの先端を突きたて、ひんやりとしたナイフの感触を与える。
それだけで猪は無力化し、観客たちにその全身を晒さなければならなかった。猪は既に虎に気絶させられ、戦いでは勝てないと身体が覚えているからだ。
周りの観客たちは大声で猪のことを煽る。観客たちの中には猪の獣人もおり、同じ種族の者がいるというのに対するステージ上にいる猪はまるで見世物のようであった。
猪はごくりと唾を飲み込み、拙い手つきで右手を股間へと添える。これまで何度も行ってきた自慰をするだけ。それだけなのに、大勢の前で行うとなるとわけが違う。
観客たちは服を着ている。その中で全裸なのは自分だけ。それだけでも羞恥を煽る要素があるというのに、そこで自慰を強要される。恥ずかしくて消え入りそうになる。
また、猪の不幸が重なったのは1人旅であるという点。仲間がいれば猪のことを捜索してくれたかもしれないが、見ず知らずの街で猪が消えたとしても人々にとっては何ら日常に変化を及ぼさない。
ひたすらに無心になって猪はペニスを弄くる。先端まで包皮に覆われている包茎を摘み、ぐにぐにと親指と人差し指で刺激を与えていく。
指で弄くるとそれだけでペニスは隠され、観客席からは見えなくなる。するとそれに野次が飛ぶ。股を開け、よく見せろ、と。
猪は観客席を睨み、その野次には応対しない。せめてもの反抗である。
が、虎が観客の声に応え、言われたとおりにしろ、と言う。流石の猪もナイフを持った虎に抵抗できるわけがない。
渋々、足を開き股間を良く見せる。短小包茎である猪のペニスはそれでもまだ良く目を凝らさなければ見えないものであった。
包皮を摘み、ペニスの根元まで剥いていく。しかし猪の包皮は常人の包茎と違い勃起しなければ亀頭を僅かに覗かせるだけで剥けることがない。
当然観客たちはそれを見て苦笑をする。ダサい、子供ちんこ、豆粒、猪に対して様々なからかいが飛び、猪の顔は蒸気が発せられるかと思うほど熱く、そして赤くなっていた。
大勢の人々に見られている状況なのか、猪のペニスは中々勃起しないでいた。短小包茎という刺激に弱いペニスなのだが、やはり人々の目線が気になって性欲を呼び起こすことは出来ない。
一週間も自慰を出来なかったのだからその証としてペニスの下に垂れ下がる陰嚢はぷっくりと膨らんでいる。しかしそれでも先走り汁すら出ない。
僅かに開いたマズルの横からは掠れた息が音を立てる。後どれくらいこうしていればいいのか、猪は見当もつかない。
と、猪のペニスが勃起してもいないのに観客席の方からざわついた声が上がる。一体何があったというのか。
猪のペニスを弄くる所作も止まる。それでも観客席の喧騒は鳴り止まない。
観客たちの視線は猪ではなく、その後ろに向かっていた。猪も一体何があったのだろうかと思って後ろを向くと──。
「んぃっ!?」
猪の全身に痛みが走り、がっと開きそうになった猪のマズルを猿轡がぎちぎちと締め付ける。
全身の体毛がぞわりと逆立ち、力が抜けて膝から崩れ落ちる。だが、尚も猪の全身には痛みが走り両目を見開く。
猪の腕はあの豚の腕によって掴まれていた。猪よりも脂肪がつき、動くだけで肉が波打つ肥満体型の豚。
その豚が、厚手のローブとブーツを脱ぎ、猪の肌に密着し、怒涛したペニスを猪の肛門に愛撫もなしに挿入していた。
今まで肛門に異物を挿入されたことのない猪の全身が硬直し、指先がびくびくと震える。
両腕を掴まれ、何かの上に乗せられる。人肌の温かみがあり、弾力のあるそれは豚の膝の上であった。
一体何が起きているのか、猪はペニスを挿入された痛みで混乱しかけたが、同時に豚の趣向を理解した。
こいつは、自分の身体目当てのためにここまでしたのだ、と。自分を犯すためだけに。
無理やり人前で素裸に剥いたのも、自慰を強要したのも、そしてペニスを突っ込んだのも。
猪は顎をせり上げて唸り声を上げる。豚のペニスは猪のものと違い、包皮が剥けきり、また太さと長さも猪のものと違い逞しい大人のペニスであった。
カリが腸内をなぞり、ごりごりと腸の奥まで硬い亀頭がぶつかる。猪の両目に溜まっていた涙があっという間に漏れ、頬を濡らしていく。
平たく大きな豚鼻からは鼻水がどろりと垂れ、なんとも情けない顔になっていた。
「おい、あいつ漏らしてんぞ」
観客の1人がそう言うと、猪の股間からは先走り汁が漏れていた。豚のペニスが猪の前立腺と膀胱を突き、それが性刺激へと繋がったのだろう。
しかし痛みがあるのも事実で、猪のペニスは先走り汁を流していても変わらず皮を被り萎縮した状態である。
「男に突かれて喜んでいるのか、なぁ?」
豚が猪の耳元で囁く。猪は首を振って答えようとしたが、豚は一気に腰を突き出し、猪の全身は痙攣を起こしたかのように震える。
猪は目を瞑るしかなかった。視界を開けばまるで女のように弄ばれている自分を物珍しい物を見るかのような視線が耐えられない。
だが、それでも観客たちの声は耳に入る。笑い声を上げてからかうものもいれば、罵倒するものもいる。
くちゅりと淫猥な水音を立たせ、猪の肛門からは腸液が漏れる。豚のペニスを押し出そうという防衛本能が働いたのだが、しかしそれは豚のペニスに潤滑油を与え、挿入をなだらかにするものでしかなかった。
また、腸壁は豚のペニスに絡みつき、排泄しようとするが、弾力もあり熱もある猪の腸内は豚にとってはペニスを圧迫し、心地良い刺激を与えるだけでしかなかった。
「んっんぅ……!!!」
猪の全身から汗が噴き出る。体毛を濡らし、皮膚に密着して、また豚の体毛を絡み合う。
「しっかり飲み込め、いいか」
豚が猪に言い、豚はぱちんと猪の臀部に股間を打ちつける。すると猪の腹に温かいものが注ぎ込まれる。
どろりと粘着性のある豚の精液が腹に流れ込み、猪は尻に力を入れて排泄することも、肛門を閉じて拒むことも出来ずにどぷんと腹に注がれる。
するとまたも観客席からは猪を指差して声が上がる。猪が勃起していないのに射精してからである。
溜まりに溜まっていた精液を溢れさせたもので、また尿道の刺激は弱かった分精液はなだらかに噴出すことはなく、どろどろと猪の竿を伝って零れ落ちる。
「さて、気持ちよくなっているところ悪いが、お前はこの後どうなると思う?」
射精を終え、少し声が上ずっている豚が猪に問う。猪も気づかないうちに射精を迎え、ピストン運動が止まり少しずつその頭に冷静さが戻る。
猪は豚の問いに答えることなく項垂れるが、しかし虎がぐいっと猪の顎を持ち、観客席へとその視線を向けさせる。
肩を震わせ、拙い呼吸をしつつ猪は薄っすらとしている視界を動かす。周りにいるのは自分を見世物として楽しんでいる観客。
観客の中には煌びやかな服飾に身を包む豚と同じような貴族もいれば、猪のような平民もいる。
皆が自分のことを見て気持ち悪いだの粗末なペニスだの罵声を浴びせてはいるが、良く見ると観客の多くは息を乱れさせ自分を食い入るように見ている。
しかも、不思議なことに観客たちは股間をきつく張り詰めさせ、まるで自分のあられもない姿を性の対象として見ているかのようで──。
「んむ、んんっ……!!」
猪の全身の体毛が再びぞわりと逆立つ。観客の中には女の姿が見当たらない。男のストリップや性行為を公開するということなのだから自分のことを笑いものをにするためにきていると思っていた。しかし観客たちの多く、いや、観客全員が股間をきつくして今にも飛び掛ってきそうであった。
それが何を意味するか、猪は理解してしまった。猪は余程の暇人の集まりだとは思っていたが、観客たちはこのショーを見て帰る、という猪の希望的観測は打ち砕かれた。
猪は猿轡を外そうとマズルに力を込め、頭を振るが猿轡はそう簡単に外れず、両腕は未だ豚に掴まれたままであり逃げ出すことが出来ない。
そして、豚から衝撃の一言が観客たちに向けられる。
「今よりこいつを犯したい者は存分に犯していいぞ。とことん罰を与えてやれ!」
そして、豚は猪の肛門からペニスを引き抜き、猪の背中を観客たちに向けて蹴飛ばす。猪は受身も取れず、うつ伏せに倒れ、すぐに顔を上げる。
猿轡は嵌められたままだが、両手足が自由になって逃げ出そうとしたが、時既に遅し。猪の身体はうつ伏せから仰向けに体勢が変えられ、嫌でも自分のことを見下ろす観客たちが目に付く。当然、ズボンを下ろし怒涛した一物もその視界に入る。
「犯罪者にゃあ罰を与えてねぇとな」
「俺のチンポもしゃぶれよ、おい」
「ケツが裂ける位犯してやろうぜ」
両手足が観客たちの手によって拘束される。あっという間に猪の四方八方は囲まれ、最早逃げ出すことは出来ない。
猪は怖くなり、短小だったペニスが股間に潜り込むように縮こまる。びくびくと震え、そして猿轡が強引に外される。
「うっぐぅむぅううう!!!!」
一言、許してくれと叫ぼうとしたがそれすらも叶わず、ペニスが口に捻じ込まれる。雄臭く硬くそそり立ったペニスが口内を犯し、猪は散々流した涙がまたも溢れ頬を濡らす。
更には無理やり両足を開かせられ、今も豚が吐き出した精液が漏れる肛門にペニスが挿入される。
「んんんっ……ぁあああああっ!!!」
豚よりも明らかに太いペニスが挿入され豚は悲鳴を上げる。肛門が裂けてしまいそうになり豚は咥えさせられていたペニスを離してしまう。が、ペニスを離すとすぐにまた口に捻じ込まれる。
涙で視界がぼやけ、腸内を抉られる痛みで猪は一体誰が自分のことを犯しているのか見えない。何十人にも及ぶ観客たちによる責め苦はまだまだ終わらない。
猪が叫ぶその様子を豚はほくそえんでいた。あれは玩具にしてはなかなか良いものを手に入れた、と。
この乱交騒ぎが終わった後、猪を自分専用の夜伽相手にするのも悪くはない。豚は静かにことが終わるのを待つ。
「やめ、やめろぉおおおっ!!!」
観客たちによって囲まれ、猪がどのように犯されているかは分からなかったが、それでも泣き叫ぶその声で再び豚は股間を熱く滾らせる。
豚は、猪が自分の物になる姿を想像し、下品な表情で舌なめずりをする。猪の人生の転落はまだ始まったばかりである。
レオシリーズ 劣情で悪化する獣化の呪い by森谷
レオシリーズ。
全行程スティッカム配信。
スティッカム中で「前立腺刺激の触手ボール入れられて劣情で悪化する獣化の呪いを回避するために排泄しようとするが排泄することで気持ちよくなって余計獣化してさらに20個といわれて絶望するレオのSSが読みたい」と言ったら書いてもらえちゃえました。…なにこれすごい。どうもありがとうございます。
written byもけ
「ぐぅううぁあっ……!」
鉄格子の向こうに設置された松明の灯りにその身を照らされたレオは、低い唸り声を上げ背筋を跳ね上げながら、内から吹き出る汗を散らした。
彼は、剣も盾も奪われ、身に着けているものと言えば、申し訳程度に股間や尻を隠す布程度という裸同然の姿で、身を震わせ何かに耐えていた。
獅子の唸り声がじめじめとした牢獄の中に響き、それと呼応するように床に描かれた魔方陣が鈍い光を放つ。
その光を忌々しげに見つめながら、彼は腹の底から漏れ出る声を噛み殺すように歯を食いしばった。
腹の中で何かが蠢くのを感じる。必死でその刺激に耐えようとするほどに、身体は震え、堪えきれぬ声が獣の咆哮となって放たれた。
「はぁっ、はぁ……ッ」
かつて感じたことの無いほどの刺激に、レオが息を荒げる。股間を覆う布には勃起したペニスの形が浮き上がり、先端に先走りが滲んでいた。
敵に捕まり、手足を拘束され、抵抗も出来ぬままに肛門からごく小さな球体を無数に注がれたのを覚えている。
だが、今自分の腸内で蠢いているものの感触は、無数の細い指先で内側から引っ掻き回されるようなものだ。
何がどうなっているのか、とめどなく押し寄せる快楽に半ば呑まれかけ、辛うじて自己を保っている彼の頭では、想像する事すら出来なかった。
だが、そうやっていつまでも刺激に悶え続けている訳にも行かない。レオは自分を取り囲む魔方陣を、再度見回した。
腸内の刺激に彼の興奮が強まり、抗えぬ劣情が募っていくほどに、その魔方陣はより強い光を放つ。
最初、腸内に小さな違和感を感じて首を傾げていたときは、ただの紋様として地面に刻まれているだけであったが、やがて強くなる刺激に甘い吐息が漏れ、ペニスが僅かに勃起し始めたとき、非常に薄っすらとだが光を放つようになっていた。
そして今や、魔方陣は松明の如くレオの身体を照らすほどに光を放ち、当然ながらその効果もレオの身体を蝕んでいた。
「ぐうぅうっ!」
毛皮に覆われた右手を見て、レオが唸り声を上げた。本来彼は、不完全に解けた呪いによって、獅子の頭と人の身体を持つ獣人の姿である。
だが、レオの劣情と比例して光を強める魔方陣の効果により、その体が少しずつ獣へと近づいているのだ。
「負ける……ッ、訳には……ッ!!」
レオは自らに言い聞かせるように宣言し、腸内を掻き回す異物を排出しようと、尻に力を込めた。
103人もの犠牲によって救い出された筈が、自らの劣情に呑まれて再度その身を獣へやつすなど、何があろうとも許される事ではない。
自らを救うために犠牲にしてしまった者たちの死を無に帰すなど、あってはならないことである。
戦いに敗れ、剣を奪われ、惨めに牢屋へと放り込まれて屈辱的な攻めを受けながら、犠牲になった者たちへの想いと王としての誇りだけが、折れそうになる心を支えた。
「くぅ、ぐぅ……ッ」
レオは体勢を変え、排泄のときのようにしゃがむと、再度体内の異物をひり出そうと力を込める。
異物は抵抗するように体内でもがき、その刺激に足が震えて体がふらついた。
腰布を突き破らんばかりに勃起したペニスがビクビクと震え、先端から射精のような勢いで先走りを吐き出す。
戦いの日々の中、色を忘れかけていた彼の身体に、その快楽を刻み付けながら、腸内の異物はさらに激しく動き出す。
器具によって強引に肛門を開かれ、直腸へと入れられたときは、ただの小さな球体のはずだったというのに、今やその球体は大きさを増し、グネグネと動く短い触手を生やし、それ自体が意思を持つかのように的確な動きでレオの劣情を募らせた。
「くっ、これでは……、駄目か……ッ」
レオはついに身体を支えきれなくなり、床へと両手を突いた。すでに右肩までが獅子の毛皮に覆われ、左腕も肘までが同じ状況になっている。
足も同様だ。指からは獣のような爪が生え、膝下までを毛皮に覆われていた。時間はあまり残されていないようだ。
レオは呻き声を上げながら、右手を自らの尻へと伸ばし、腰布をずらして肛門を露出すると、きつく閉じたそこを指で撫でた。
閉じたままでは、異物を排出する事が出来ない。レオは深い呼吸を数度行うと、意を決したように歯を食いしばり、きつく締まった穴へと強引に人差し指を突き入れた。
「ぐっ、くぅぅっ……!」
器具を使って肛門を抉じ開けられたときと似た痛みに襲われる。戦いの中に身をおき、痛みに慣れていた筈だというのに、その痛みには脂汗をかいた。
「そこ……かっ……!」
すでに異物はレオの肛門間際まで押し出されていたようで、指先に弾力のある触手の感触が触れた。腸内に溢れる粘液が、抉じ開けられた肛門から溢れて、すべりをよくする。
レオは指の本数を増やし、クチュクチュと自ら肛門を弄るようにしながら、異物を引っ張り出そうと指を動かす。
異物は表面から出る触手をうねらせながら、レオの指をかいくぐるように逃げ惑う。それを追って指を動かすが、自ら尻を掻き回すほどに獅子の毛皮がレオの身体を包んでいく。
尾てい骨の辺りに疼くような熱を感じ、息を荒げながらそこを見れば、獅子の尻尾が生え、ゆらゆらと誘うような動きをしていた。
「くうぅっ!」
気付けば自ら尻を掻き回すことに快楽を感じていた。レオは叩きつけられた現実に忌々しげに唸りながらも、正気を取り戻す。
すでに体中が獅子の毛皮に覆われようとしている。異物からの刺激で淫乱と化した身体を刺激してしまうのは、得策とは言えないようだ。
レオは肛門からゆっくりと指を引き抜いた。その手の形はすでに人のものではなく、獣と人の中間の形状をして、掌には肉球までついていた。
このままでは、ほどなく完全な獣になってしまう。その恐怖が、湧き上がる劣情を僅かながら抑え、彼の体の変化が一旦止まった。
だが、レオ自身はがそのことに気付く余裕もなく、焦燥感に満ちた表情を浮かべ、四つん這いの状態から立ち直れもせぬまま、尻に力を込める。
先ほどの指の動きで、肛門は濡れそぼり緩みきっている。今ならば、この異物を体外へ排泄する事も可能なはずであった。
「ふっ、ぐぬぅぅ……ッ」
レオは野生の獣がそうするように、四つん這いの姿勢で力み、異物をひり出そうと唸った。
彼が尻に力を込め唸るたび、蠢く異物が肛門へと押し出されていく。抵抗するように表面の短い触手を動かし、レオの腸内へと潜り込もうとするが、歯を食いしばってその快楽に耐え、力み続ける。
レオの口元からは涎が盛れ、瞳は快楽と誇りの狭間で揺れていた。
それでも今は、押し寄せる劣情に辛うじて彼の意志の力が勝っていたらしい。肛門を押し広げながら、ついに異物がその姿を現す。
卵ほどもある球体の表面から、幅一センチ弱ほどの短い触手が生えている。無機物と有機物が合わさったような、奇妙な外観の球体であった。
指より遥かに太いその球体が肛門を通過しているのだから、痛みを伴って当然の筈であるが、今や異物の刺激には快楽しか感じる事が出来ない。ペニスがビクビクと震えながら先走りを撒き散らす。
球体はその触手を今までで最も激しく動かし、最後の抵抗をするようにレオを攻め立てた。だが、レオもあと少しでその攻めから開放されるのだ。
「がぁああああああっ」
――びゅるううっ!
きゅぽん、と肛門から球体が弾き出て、レオの足元に落ちる。それと同時に、ついに限界へと達した刺激によって、レオは射精していた。
腰布の内側で精液が爆ぜ、布を濡らし、染み出して床に垂れ落ちる。
「ふっ、ふぁ……あ……」
異物を追い出したという安堵も束の間、絶頂を迎えたレオの身体を獅子の毛皮が包んでいく。その全身が毛皮に包まれてしまった。
レオは床に突っ伏したまま、荒い息を整えていたが、やがて自らの体が毛皮に包まれているという事に気付き、鉄格子の向こう側を見つめた。
看守用の古ぼけた椅子の上に、フード付きのローブを着込み、顔すらも見えぬ男が座っていた。
この魔方陣を描き、彼の直腸へと異物を侵入させた相手である。彼は言っていた。劣情を抱くほどレオの獣化は進むが、責め苦に打ち勝ってしまえば魔方陣は効力を失い、レオは獅子頭人身の姿に戻り、効果は術者に跳ね返ると。
だが、レオの身体は未だに毛皮に包まれ、獣へと近づいた姿のままであるし、相手にも変化は見られない。彼はその疑問を口にしようとした。
「ぐるるぅ……ッ」
だが、彼の口から放たれたのは獣の唸りである。口元を押さえ、驚愕に目を丸くする。鉄格子の向こう側の男が、鼻で笑ったような気がした。
レオが唸りながら彼を睨みつけると、小さく笑いながら疑問の答えを口にした。
「責め苦はまだ終わってなどいないぞ」
男はそう話しながら指を鳴らした。レオの足元に転がっている触手の生えた球体が縮み、パチンコ玉ほどの大きさになってしまう。
レオがそれを見たのを確認すると、男は再度指を鳴らした。
「がぁあぁっ!?」
その瞬間、激しい苦痛に襲われたかと思うと、レオの腹が内側から押されるように膨らんでいた。
男が含み笑いを浮かべながら、面白そうに言い放つ。
「あと20個排泄できれば、お前の勝ちだな」
レオの腹の中に入れられていた異物の媒体が、男の指示によっていっせいに発芽する。
そして、先ほどの異物と同じ動きで、彼の腸内を掻き乱し狂おしい刺激を与えた。
「がぁ、ぁぅ……ッ」
驚愕に見開かれていたレオの瞳に、薄っすらと涙が滲んだ。一つを排泄するために、彼は全身を毛皮に包み、言葉を失うほど獣へと近づいた。
あといくつ耐えられるだろうか。どれだけ奮闘しようとも、20個は無理に決まっている。
誇りを糧に劣情へと打ち勝った事すら、茶番でしかなかったのだ。
体内で複数の異物が一度に蠢き、先ほど以上の刺激をレオへと与える。レオは獣の唸り声を上げながら、ついにその瞳から大粒の涙を零した。
いつの間にか人とは違った形状になっていたペニスから、勢い良く精液が吹き出る。思考さえも獣に近づき、誇りの意味さえも忘れそうになる。
快楽に身を震わせ咆哮を上げながら、レオの瞳は絶望に染まっていた。
終
【グロ】狼 ダルマ (Sticam配信) by森谷
全行程スティッカム配信の1枚。
ようやくグロブログの本領発揮?
いーやまだまだ。こんなのライトな方ですよね。
そして塗りの最終で「チンコを描き忘れている」という
屈辱的なミスを指摘された思ひ出になってしまった一枚。
私の「萌ポイントを描き忘れる病」はいつ根治するだろうか。
クロコダイン スライム風呂 (ネタ反応) by森谷
レオシリーズ 卵を産み付けられる。 by森谷
レオシリーズ。
卵なのか触手なのか、入れられてるのか引っ張り出されてるのか。
その辺をすべて想像に任せる形でいろいろと考えて描いた1枚目。
某所への投稿の最初でもあります。結構気合入れているつもり。
SS師3人がSSを描いてくださり、そのうち1つのSSを漫画化した方もいらっしゃって
私としては眼福でありとにかく嬉しかったです。
SSを執筆していただきましたもけさんに転載許可をいただきました。
もけさんのサイトには他にもSS多数です。是非!
written by もけ
「はっ、ひぃ…ん…ッ!」
ぬめぬめとした触手に体を弄ばれながら、レオは国王の威厳などまるで残っていない、獣のような嬌声を上げる。
百獣の王たる獅子の顔は、許容量を超えて体へと刻まれる快楽に、苦悶の表情さえ浮かべ、鍛え上げられ引き締まった体も、初めて男と寝床に入る処女のようにブルブルと震えていた。
もう何時間この行為が続けられたのか、彼の判断力を完全に失った頭では、思い返すことも出来ない。
ただ、触手がうねりながら乳首や玉袋をなぞって這いずり、その触手の先端が、彼の股間で反り返るイチモツに喰らいついて、精を吸い上げる感触に狂い、体に与える命令は、快感に体を震わせ、嬌声を上げろという命令だけだ。
「がっ、うがぁ…ッ」
ひたすら嬌声を上げ続ける口へ、触手が捻じ込まれる。レオはそれを認識すると、ざらざらとした猫科の舌で、ペニスにも似た形状を持つ触手の先端を舐め始める。
触手に捕まってからと言うもの、もう幾度となく飲まされ、その噎せ返るような臭いには吐き気さえも覚えた。
だが、彼の頭には抵抗の意思など残っていない。口に入れられた触手を噛み切ろうとしたこともあった。
だが、ゴムのような歯応えで獅子の牙さえも食い込まず、抵抗を見せれば喉の奥まで挿入するピストン運動が開始され、息さえもろくに出来ないまま、大変な苦しみを味わう事になる。
恐怖と苦痛を前にして、彼は躾けられていた。逆らう事もなく、抗う事もなく、誇りも知性も完全に失った姿で、なすがままにされるただの玩具に。
――ごぷっ、どぴゅる!
「んんがっ、んむ…ごく、…ッ、ゴホッ!」
彼の奉仕によって、口の中の触手から精液が放たれる。汚臭が彼の口内へ広がり、金色の瞳からとめどなく涙が溢れた。
レオは口内へ放たれる精液を、余さず飲み干そうと喉を動かすが、既に胃袋は精液で満杯にされている。
許容量を超えた精液に噎せ返り咳をしながら精液を吐くと、触手たちは不快感を覚えたのか、彼へのお仕置きを開始した。
「んひっ、ひぃがあああっ!」
一本の触手が彼の肛門をまさぐり、突き入れられたかと思うと、直後には激しいピストンが始まっていた。
直腸を突き上げられるたびに、綺麗に割れた腹筋がボコボコと動く。
さらには悲鳴を上げるために口がいっぱいに開けられたのをいいことに、口内の触手は喉の奥まで進入を果たし、食道へと直接精液を発射する。
――ごぽり
その音を皮切りに、レオの肛門から放水されるように精液があふれ出した。入り切らない内容物が排出される、当然の事だが、彼の食道から直腸まで、全てが触手の精液で満たされていると言う、異常な事態でもある。
だが、それでも彼は意識を失うことも、完全に正気を失う事も出来ない。王としての誇り、鍛錬に裏打ちされた精神力、それらが苦しみを継続させる。
触手を振り払い、逃れる体力など残っておらず、だが体の中に注がれた精液のお陰で、飢えも渇きも感じない。
まるで、故意に生かされているようだった。この知能が存在するかも怪しい触手によって、自分の体が作り変えられていくようで、レオは激しい恐怖を感じた。
そして、それは間違っていない。緩んだ肛門に、レオの中を満たす精液、体の方は完成している。後は頭。彼の精神が完全に破壊された時、苗床は完成するのだ。
彼の頭を這う触手が、ゆっくりと耳元ににじり寄っていく。同時に、ペニスを覆う触手の口の中から、細い管が尿道を通ってレオの体内に侵入した。
「んぐっ、ぐぁあぁああっ!!」
もはや全ての性的快楽を味わいつくしたと思っていた体に、なおも与えられる激しい刺激。今度こそ気が狂わんばかりの快楽だった。
おとこのもっとも敏感な部分を内側から刺激され、さらにその奥へと進んでいく。激しい痛みとそれを超える快楽に、レオは白目を剥いて咆哮を上げるばかりだった。
やがて管は尿道を突き進み、分岐点をこじ開けて精巣へと向かう。瞬間、快楽を痛みが上回った。レオの体が強張るが、管は侵入をやめず、ついには玉袋の内側へと到達する。
睾丸を直に小突き、玉袋に溜まった精液を吸い上げる。形容の仕様がない、苦痛や快楽を超えた感覚だった。
それは彼の精神を壊すに十分な刺激だったろうが、追い討ちをかけるように、触手が彼の耳から頭の中へと侵入する。
「ひッ……!」
寒気が走った。頭の中に異物が入り込んでいる。三半規管を破壊しながら触手は脳へと向かい、丸いライオンの耳から、つーっと血液が伝った。
頭蓋の内側に侵入した触手は、粘液を滲ませながら、ピンク色の脳髄を撫ぜる。疲弊しきっていた筈のレオの筋肉がビクンと反応を示した。
「あがっ、ひ……、ひゃ……ッ!」
奇声を上げながら、レオの体が狂ったように震える。頭の中の触手は、脳の表面を這いずり回りながら、前頭部へと進む。
そしてレオの体を激しく痙攣させながらその場所に到達し、軟い前頭葉を破壊した。レオに痛みはない。脳に痛覚など存在はしないのだ。
頭の中の出来事だが、見た目にもすぐ変化は見て取れた。反抗の意思を失わず、いつまでも険しい光を湛えていた獅子の瞳が、色を失う。
痙攣を繰り返していた体は人形のように力をなくし、人としての思考も終わりを迎えた。
耳に突っ込まれた触手が、目的を終えてするすると出てくる。表面には多量の血が付着していた。
正気を失ったレオは、濁った目を宙に向け、「うー、あー……」と声を上げる。
獲物は完全に壊れた。触手たちは下準備の完了を感じ取る。
レオの肛門からペニスの形状をした触手が引き抜かれると、代わりに幾分か細い触手が差し込まれた。
先端こそ細いが、根元へ行くとレオの顔ほどもある巨大な袋状になっており、丸い物体が大量に詰まっているらしく、表面の形状は凹凸だ。
その球体が、触手を通ってレオの肛門へと運ばれていく。獲物に卵を産みつけて苗床にする。自然界にはありふれた光景だった。
――ぐぽっ
緩みきった肛門は、難なく卵を受け入れる。触手を通って卵はレオの直腸のさらに奥へと運ばれていく。
――ぐぽっ
また一つ。
―ぐぽっ
さらに一つ。すぐにレオの腹は妊婦のように膨れ上がり、ついには直腸が卵で埋め尽くされ、それ以上は入らないと言う状態になってしまう。
産卵は終了だ。レオの肢体へと巻きついていた触手は緩み、離れ、彼を捕らえるものはなくなった。
だが、その場から動く事は出来ない。「ぐへ、ぐへ」と下品な息遣いで倒れこみ、膨らんだ腹を抱えて、濁った目で宙を見上げる。
誇り高い獅子王の冒険は、今ここに終了した。
終
レオシリーズ 乳首吸引 by森谷
レオシリーズ。
…ん?こんなに大きい画像いけるのか?
なぜだか画像サイズが大きいといわれてアップロード
できなかったんだけどこれぐらいはいいのか。
サイズは余裕で500KB以下だし…よくわかりません。
漫画を載せたくてもサイズではねられて載せられませんでした。
Pixivの方にアップしました。
レオシリーズ 事後 by森谷