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黒豹 義理親子 イチャラブ by 森谷
【健全】獣人組織に潜入する人間の青年 by take
某所でお題を募集して書いた物です。エロ描写のないほのぼのものです。
***
「というわけで、朝の会議はこれまでにする!」
一際大きな声を放つ蒼色の鱗を持つ竜人の男。頭に生える一対の角には年季を思わせるひびが刻まれており、着ている服は非常にゆったりとしている着流し。そしてその竜人に注がれる幾多の視線。
視線を注ぐのは狼、虎、猪、熊、馬、ハイエナ、鳥、狐、狸……。その中に人間の姿はいない。
ここは、獣人だけによる集合組織。それも表沙汰になるようなことはありえない、秘密裏に結成された組織である。
上は還暦を迎える老人もいれば下は小学生程の年齢の少年もいるこの組織。皆どこから流れてやってきたかはわからないが、ボスである竜人に並々ならぬ敬意を持っているのは確かであった。
繁華街の地下にひっそりとアジトを作り、日々非人道的な活動をする組織で、殺人、麻薬売買、放火、身売りを生業とする。
──という噂であった。
会議が行われたのは広めのホールで、数十人による構成員の前には竜人が指揮を執っていた。竜人が会議の終わりを告げると皆、一様に敬礼をして散り散りになる。その中で、後方にいた1人の犬獣人の少年があっけらかんとしていた。
(なんだそりゃ……?)
会議が行われた様子を一から集中して聞いていたが、犬の少年は状況が理解できずにいた。彼よりも年上の構成員たちが後ろの扉へと駆け込み、今日も組織活動を行うために外へと出る。
「こら、走って転んではいけないぞ」
竜人が構成員たちに向かって大声で言う。それに反応して構成員たちはすいませんと言って1人、また1人ホールを抜ける。
その中で犬の少年はぽつんと取り残されていた。
「どうした?」
と、そこに一番前に立っていた竜人が犬の少年へと歩み寄る。犬の少年はびくんと肩を震わせる。
その表情は犬の少年に疑問を持っているようで、頭上には疑問符を浮かべている。
犬の少年は頭を振って、現在自分がどのような立場にいるかを思い出す。
「ご、ごめんなさい、すぐに行きます!」
そう言って犬の少年はくるりと竜人に背を向けて他の構成員と同じく扉の向こうへと走る。
竜人はぽりぽりと顎を掻いており、犬の少年を随分慌てん坊だな、とにこやかに見送った。
***
最初に獣人組織へのスパイ任務を任されたとき、犬の少年は大層肝が冷えた。
まず、厳密に彼は犬の少年──どころか、まず犬獣人ですらない。薬によって一時的に元の人間の姿から骨格を変え、体毛と尻尾を生やし、手足の先には肉球を持って犬獣人へとなったのだ。
しかも元々彼は少年ではなく、20歳を過ぎた青年である。本来彼はこの獣人組織の動向を探るべく、様々な手段を講じて調査していたのだが、上層部が痺れを切らして彼に潜入任務を任したのだ。
アジトは突き止めてはいるものの、地下にある組織ということで大人数は動かせず、また連絡も取れないということで単独任務を任されたのだ。
おまけに犬獣人へと変化する薬はまだ開発途上だったらしく、犬獣人へと変化したものの、体格は幼くなり、また声も変声期を迎える前のボーイソプラノになり、結果少年へとなったのだ。
だが、かえってこれなら相手も子供だから油断するだろう言う根拠のない上層部の判断から、そのままこの獣人組織へと送り込まれたのだ。
後で人事部に訴えてやる、と吐き捨てても任務は免れない。心細く、また武器も連絡手段も携帯できないで不安は募るばかりで潜入したのが数日前。
下水道を潜ってあっちへいったりこっちへいったりで道に迷った挙句、獣人組織の構成員に見つかったのだ。
適当に自分と似た犬獣人の少年と入れ替わろうとしていたのにあっさりと見つかって彼は死を覚悟したが、意外にも構成員の反応は不思議なものだった。
『こんなところに1人で……。良く頑張ったな』
思わずその言葉に目をぱちくりと瞬かせ、適当に相槌を打っているといつの間にか自分はアジトへと連れて行かれたのだ。
どうやらこの獣人組織は、人間たちによって迫害された者たちの集まりで、自分も人間に迫害されてここへ逃げてきたと勘違いされたらしい。
そうしてあの竜人の前に連れて行かれ、適当に両親と離れてしまって……と言ったところで、同じ場所に居合わせた構成員を含め、ボスである竜人も号泣。これには犬の少年が参ることになった。
そのまま流れで自分も構成員として加わり、今日も地上の人間たちに復讐を、と朝の会議が開かれたのだが、内容は驚くものであった。
「勝手にゴミ拾いを済ませて清掃業者の仕事を失くしてやろう!」
「学校帰りの小学生にお菓子を配って栄養を偏らせてしまえ!」
「家庭教師として勉強を教え、子供を受験戦争に巻き込んでしまえ!」
「困っている人がいたら助けて依存症を植えつけてやれ!」
その規模の小ささ、というか見方を変えればいいことをしているような気がしないでもない組織行動に犬の少年は頭を悩ませていた。
自分が人間のときは殺人組織だとか麻薬売買で幾人も廃人にさせただとか、黒い噂が絶えないもので恐怖を抱いていたのだが、実際はどうだ。
自分が構成員として加わって様々な種族の獣人と接触を試みたが、口調は優しく気遣いのあるもの達ばかりであった。
そうして犬の少年も気づいた。そういう噂があるものの、未だにこの組織から逮捕者は出ていない。つまり、勝手な思い過ごしなのだ。
仮想敵組織だと処理すれば対応が楽であるし、また勝手に敵を作り出せば統率力のない組織は一つにまとまる。
「人事部どころか上層部に訴えねーと……」
と、地上に出て人の目がないところで密かにゴミ拾いをし、また重い荷物を背負っている人の荷物を持ってあげたり、時には同じ年代の子供ということで小学生と遊んであげたり、悪の組織とは似ても似つかわしくない仕事をこなすのであった。
***
「意味わからん……マジでよく分からん……」
アジト内部にある大浴場の湯船に浸かりながら犬の少年は頭を抱えていた。それは夕食後の会議で、明日は休日だという報告がなされたからだ。
悪の組織に休日ってどういうことなんだよ、しかもその休日の理由が祝日だからってそれはどういうことなんだよ、と心の中でツッコミを入れまくってツッコミは最早苛々に変わりつつあった。
犬の少年はそうやってぶつくさ独り言を吐いて風呂に入り、気がつけば他の構成員は全て風呂から上がり彼だけが残されていた。
しかし元々人間だったためだろうか、身体に張り付く体毛がまるで服を着ているかのような感触でやはりなれない。
もう数日もすれば慣れるだろう、と思った直後、そろそろ薬の効果が切れることを思い出した。
一応薬はいくらか忍ばせており、量を考えれば後1ヶ月程度は犬獣人に変化を保つことが出来る。
いずれ自分の所属する組織に戻って報告をしなければならないのだが、この組織の居心地が良くて犬の少年は帰るのを躊躇ってしまう。
何より大人の知識を持ったまま子供に戻れるというのはなかなかにない体験であり、犬の少年はもう少しだけこの状況を楽しもうとしていた。
「おう、まだ入っていたか」
がらっと大浴場の扉が開けられ、そこには竜人がタオルで股間を隠して入ってきた。
「あ、は、はい!」
しまった、と犬の少年は思わず湯船から直立して敬礼をしていた。考え事、というかこの組織へのツッコミどころを模索していたらかなりの時間が経過していたらしい。
組織のトップと同じ湯に浸かる、それは組織の上下関係を考えれば自ずとまずいことだと分かる。
急いで犬の少年は浴槽のへりに置いたタオルを取って湯船から上がろうとするが、それよりも先に竜人がそれを制する。
「何、裸の付き合いもいいじゃろう」
竜人はそう言って犬の少年の手を掴む。犬の少年は出来れば避けたいところであったが、ここで逃げようとすれば怪しまれる。
「……分かりました」
仕方なく犬の少年は再び肩まで湯船に浸かる。竜人もタオルを浴槽のへりに置いて湯船に浸かる。比較的大柄な竜人が湯船に浸かると一気に湯が溢れる。
一体どういうつもりなのだと犬の少年は竜人の動向を探る。自分はまだここに入りたての新参。嫌な予感しか入らない。
既に自分が人間だということを気づいたのだろうか、例えば無意識のうちに人間しか行わない癖が出てそれを見抜かれたのか。
竜人の動向が一切分からない以上、相手からの言葉を待つしかない。犬の少年はちらりと視線を上に向け、竜人の顔を伺う。
と、竜人もちょうど自分を見やり、視線がぶつかる。一瞬犬の少年の心臓が強く鼓動を鳴らす。
だが驚くのはそれからであった。突如竜人の腕が犬の少年の首へと回され、竜人のほうへと引き寄せたのだ。
犬の少年が湯に浸かっていなければ全身の体毛が逆立っていただろう、今は湯に浸かって体毛がぺとりと張り付いていることを感謝する。
仮にも相手は組織のトップ、まさか、この場で自分を絞め殺そうというつもりなのだろうか。
そう思うと自分の首や肩に絡まる太い腕が凶器のようにも見える。今の自分は子供だ、体格差は十分なものでしかも相手は鱗を持つ竜人。腕に噛み付いたところで自分の幼い牙は鱗によって剥がれてしまうかもしれない。
むしろ、今まで善人ぶっていたこの組織は、自分がスパイだと気づいての演技なのでは、途端にこの組織への警戒心が高まる。
しかし、今更警戒心が高まったところで身体は竜人の手の中。万事休すか、と思ったところで竜人の口が開く。
「ここはなれたか?」
竜人は犬の少年を見下ろして言う。何故だかその言い方が優しいもので、少しだけ犬の少年はむず痒くなる。
ここは話をあわせるべきか、一瞬の思考の中で隙あらば逃げようと決意し、犬の少年は会話に応じる。
「はい。皆さんとてもいい人で助かります」
「そうか、ここにいるものは皆君と同じように心に傷を負っている。だから相手の気持ちも良く分かる」
ふと犬の少年の肩を掴む竜人の腕が、更に竜人の元へ犬の少年を抱き寄せる。濡れた体毛が鱗に張り付く。
「いずれはそうだな、この街を支配したいものじゃ」
世界じゃなくて1つの街とか小さすぎる規模だろ、と竜人には聞こえないほどの小さな声で呟く犬の少年。
しかしながら、竜人を慕うものは多い。それは事実であり、構成員の誰もが竜人のことを尊敬し、そして頼っていた。
これなら近いうち、この組織が地上に出てきて街を支配するのも時間の問題である。
「それと思ったんじゃが、君は今度からわしの……そうだな、右腕として活動してみないか?」
その言葉で犬の少年はぶっと吹き出す。予想だにしない言葉で頭が混乱する。
この竜人、いよいよボケが入ったのだろうか、入って間もない構成員を幹部クラスに置くとはどういうことか。
もう犬の少年はツッコミではなく、組織のボスとしてのあり方を説教しようとしていた。
こんな組織を今まで危険視してきた自分は何だったのだろうと思って肩の力がどっと抜ける。
「あの、お言葉は嬉しいですが……」
手を振って断る。と、竜人はがっくり肩を落とし項垂れ、ため息を吐く。
「そうか……孫みたいで可愛いと思って手元に置きたかったんじゃがのう……」
犬の少年の口元が釣り上がり、黒い鼻がぴくぴくと過剰なまでに動いていた。実力とかではなく可愛さで選ぶことにいい加減、犬の少年は堪忍袋の緒を切らしたかもしれない。
だが寸でのところで竜人の鱗の冷たさが頬に伝わり、冷静さを取り戻す。
が、竜人はまるで犬の少年を孫のように頭を撫でる。人の話を聞け、と言いたくなったが、頭を撫でられるのは何年ぶりだろうと懐かしむ。
少しごつごつとした鱗の手触りは元人間の犬の少年からすればなんとも不思議な感触である。その気持ちよさから、無意識に尻尾が湯の中で左右に揺れ動く。
実際この場所は居心地が悪いわけではない。組織のトップがこうであり、また構成員は誰1人として自分のことを疑ってはいない。
本来の目的を忘れ、こうして任務を忘れて人と触れ合うのも悪くはない。
「ここに再就職しよっかな……」
ぶくぶくと水泡を立てて言葉を濁し、竜人に聞こえないように本音を避ける。
薬の効果が消えるまで後1ヶ月。それまで悪の組織に身を沈めるのも悪くはないと思った。
***
「というわけで、朝の会議はこれまでにする!」
一際大きな声を放つ蒼色の鱗を持つ竜人の男。頭に生える一対の角には年季を思わせるひびが刻まれており、着ている服は非常にゆったりとしている着流し。そしてその竜人に注がれる幾多の視線。
視線を注ぐのは狼、虎、猪、熊、馬、ハイエナ、鳥、狐、狸……。その中に人間の姿はいない。
ここは、獣人だけによる集合組織。それも表沙汰になるようなことはありえない、秘密裏に結成された組織である。
上は還暦を迎える老人もいれば下は小学生程の年齢の少年もいるこの組織。皆どこから流れてやってきたかはわからないが、ボスである竜人に並々ならぬ敬意を持っているのは確かであった。
繁華街の地下にひっそりとアジトを作り、日々非人道的な活動をする組織で、殺人、麻薬売買、放火、身売りを生業とする。
──という噂であった。
会議が行われたのは広めのホールで、数十人による構成員の前には竜人が指揮を執っていた。竜人が会議の終わりを告げると皆、一様に敬礼をして散り散りになる。その中で、後方にいた1人の犬獣人の少年があっけらかんとしていた。
(なんだそりゃ……?)
会議が行われた様子を一から集中して聞いていたが、犬の少年は状況が理解できずにいた。彼よりも年上の構成員たちが後ろの扉へと駆け込み、今日も組織活動を行うために外へと出る。
「こら、走って転んではいけないぞ」
竜人が構成員たちに向かって大声で言う。それに反応して構成員たちはすいませんと言って1人、また1人ホールを抜ける。
その中で犬の少年はぽつんと取り残されていた。
「どうした?」
と、そこに一番前に立っていた竜人が犬の少年へと歩み寄る。犬の少年はびくんと肩を震わせる。
その表情は犬の少年に疑問を持っているようで、頭上には疑問符を浮かべている。
犬の少年は頭を振って、現在自分がどのような立場にいるかを思い出す。
「ご、ごめんなさい、すぐに行きます!」
そう言って犬の少年はくるりと竜人に背を向けて他の構成員と同じく扉の向こうへと走る。
竜人はぽりぽりと顎を掻いており、犬の少年を随分慌てん坊だな、とにこやかに見送った。
***
最初に獣人組織へのスパイ任務を任されたとき、犬の少年は大層肝が冷えた。
まず、厳密に彼は犬の少年──どころか、まず犬獣人ですらない。薬によって一時的に元の人間の姿から骨格を変え、体毛と尻尾を生やし、手足の先には肉球を持って犬獣人へとなったのだ。
しかも元々彼は少年ではなく、20歳を過ぎた青年である。本来彼はこの獣人組織の動向を探るべく、様々な手段を講じて調査していたのだが、上層部が痺れを切らして彼に潜入任務を任したのだ。
アジトは突き止めてはいるものの、地下にある組織ということで大人数は動かせず、また連絡も取れないということで単独任務を任されたのだ。
おまけに犬獣人へと変化する薬はまだ開発途上だったらしく、犬獣人へと変化したものの、体格は幼くなり、また声も変声期を迎える前のボーイソプラノになり、結果少年へとなったのだ。
だが、かえってこれなら相手も子供だから油断するだろう言う根拠のない上層部の判断から、そのままこの獣人組織へと送り込まれたのだ。
後で人事部に訴えてやる、と吐き捨てても任務は免れない。心細く、また武器も連絡手段も携帯できないで不安は募るばかりで潜入したのが数日前。
下水道を潜ってあっちへいったりこっちへいったりで道に迷った挙句、獣人組織の構成員に見つかったのだ。
適当に自分と似た犬獣人の少年と入れ替わろうとしていたのにあっさりと見つかって彼は死を覚悟したが、意外にも構成員の反応は不思議なものだった。
『こんなところに1人で……。良く頑張ったな』
思わずその言葉に目をぱちくりと瞬かせ、適当に相槌を打っているといつの間にか自分はアジトへと連れて行かれたのだ。
どうやらこの獣人組織は、人間たちによって迫害された者たちの集まりで、自分も人間に迫害されてここへ逃げてきたと勘違いされたらしい。
そうしてあの竜人の前に連れて行かれ、適当に両親と離れてしまって……と言ったところで、同じ場所に居合わせた構成員を含め、ボスである竜人も号泣。これには犬の少年が参ることになった。
そのまま流れで自分も構成員として加わり、今日も地上の人間たちに復讐を、と朝の会議が開かれたのだが、内容は驚くものであった。
「勝手にゴミ拾いを済ませて清掃業者の仕事を失くしてやろう!」
「学校帰りの小学生にお菓子を配って栄養を偏らせてしまえ!」
「家庭教師として勉強を教え、子供を受験戦争に巻き込んでしまえ!」
「困っている人がいたら助けて依存症を植えつけてやれ!」
その規模の小ささ、というか見方を変えればいいことをしているような気がしないでもない組織行動に犬の少年は頭を悩ませていた。
自分が人間のときは殺人組織だとか麻薬売買で幾人も廃人にさせただとか、黒い噂が絶えないもので恐怖を抱いていたのだが、実際はどうだ。
自分が構成員として加わって様々な種族の獣人と接触を試みたが、口調は優しく気遣いのあるもの達ばかりであった。
そうして犬の少年も気づいた。そういう噂があるものの、未だにこの組織から逮捕者は出ていない。つまり、勝手な思い過ごしなのだ。
仮想敵組織だと処理すれば対応が楽であるし、また勝手に敵を作り出せば統率力のない組織は一つにまとまる。
「人事部どころか上層部に訴えねーと……」
と、地上に出て人の目がないところで密かにゴミ拾いをし、また重い荷物を背負っている人の荷物を持ってあげたり、時には同じ年代の子供ということで小学生と遊んであげたり、悪の組織とは似ても似つかわしくない仕事をこなすのであった。
***
「意味わからん……マジでよく分からん……」
アジト内部にある大浴場の湯船に浸かりながら犬の少年は頭を抱えていた。それは夕食後の会議で、明日は休日だという報告がなされたからだ。
悪の組織に休日ってどういうことなんだよ、しかもその休日の理由が祝日だからってそれはどういうことなんだよ、と心の中でツッコミを入れまくってツッコミは最早苛々に変わりつつあった。
犬の少年はそうやってぶつくさ独り言を吐いて風呂に入り、気がつけば他の構成員は全て風呂から上がり彼だけが残されていた。
しかし元々人間だったためだろうか、身体に張り付く体毛がまるで服を着ているかのような感触でやはりなれない。
もう数日もすれば慣れるだろう、と思った直後、そろそろ薬の効果が切れることを思い出した。
一応薬はいくらか忍ばせており、量を考えれば後1ヶ月程度は犬獣人に変化を保つことが出来る。
いずれ自分の所属する組織に戻って報告をしなければならないのだが、この組織の居心地が良くて犬の少年は帰るのを躊躇ってしまう。
何より大人の知識を持ったまま子供に戻れるというのはなかなかにない体験であり、犬の少年はもう少しだけこの状況を楽しもうとしていた。
「おう、まだ入っていたか」
がらっと大浴場の扉が開けられ、そこには竜人がタオルで股間を隠して入ってきた。
「あ、は、はい!」
しまった、と犬の少年は思わず湯船から直立して敬礼をしていた。考え事、というかこの組織へのツッコミどころを模索していたらかなりの時間が経過していたらしい。
組織のトップと同じ湯に浸かる、それは組織の上下関係を考えれば自ずとまずいことだと分かる。
急いで犬の少年は浴槽のへりに置いたタオルを取って湯船から上がろうとするが、それよりも先に竜人がそれを制する。
「何、裸の付き合いもいいじゃろう」
竜人はそう言って犬の少年の手を掴む。犬の少年は出来れば避けたいところであったが、ここで逃げようとすれば怪しまれる。
「……分かりました」
仕方なく犬の少年は再び肩まで湯船に浸かる。竜人もタオルを浴槽のへりに置いて湯船に浸かる。比較的大柄な竜人が湯船に浸かると一気に湯が溢れる。
一体どういうつもりなのだと犬の少年は竜人の動向を探る。自分はまだここに入りたての新参。嫌な予感しか入らない。
既に自分が人間だということを気づいたのだろうか、例えば無意識のうちに人間しか行わない癖が出てそれを見抜かれたのか。
竜人の動向が一切分からない以上、相手からの言葉を待つしかない。犬の少年はちらりと視線を上に向け、竜人の顔を伺う。
と、竜人もちょうど自分を見やり、視線がぶつかる。一瞬犬の少年の心臓が強く鼓動を鳴らす。
だが驚くのはそれからであった。突如竜人の腕が犬の少年の首へと回され、竜人のほうへと引き寄せたのだ。
犬の少年が湯に浸かっていなければ全身の体毛が逆立っていただろう、今は湯に浸かって体毛がぺとりと張り付いていることを感謝する。
仮にも相手は組織のトップ、まさか、この場で自分を絞め殺そうというつもりなのだろうか。
そう思うと自分の首や肩に絡まる太い腕が凶器のようにも見える。今の自分は子供だ、体格差は十分なものでしかも相手は鱗を持つ竜人。腕に噛み付いたところで自分の幼い牙は鱗によって剥がれてしまうかもしれない。
むしろ、今まで善人ぶっていたこの組織は、自分がスパイだと気づいての演技なのでは、途端にこの組織への警戒心が高まる。
しかし、今更警戒心が高まったところで身体は竜人の手の中。万事休すか、と思ったところで竜人の口が開く。
「ここはなれたか?」
竜人は犬の少年を見下ろして言う。何故だかその言い方が優しいもので、少しだけ犬の少年はむず痒くなる。
ここは話をあわせるべきか、一瞬の思考の中で隙あらば逃げようと決意し、犬の少年は会話に応じる。
「はい。皆さんとてもいい人で助かります」
「そうか、ここにいるものは皆君と同じように心に傷を負っている。だから相手の気持ちも良く分かる」
ふと犬の少年の肩を掴む竜人の腕が、更に竜人の元へ犬の少年を抱き寄せる。濡れた体毛が鱗に張り付く。
「いずれはそうだな、この街を支配したいものじゃ」
世界じゃなくて1つの街とか小さすぎる規模だろ、と竜人には聞こえないほどの小さな声で呟く犬の少年。
しかしながら、竜人を慕うものは多い。それは事実であり、構成員の誰もが竜人のことを尊敬し、そして頼っていた。
これなら近いうち、この組織が地上に出てきて街を支配するのも時間の問題である。
「それと思ったんじゃが、君は今度からわしの……そうだな、右腕として活動してみないか?」
その言葉で犬の少年はぶっと吹き出す。予想だにしない言葉で頭が混乱する。
この竜人、いよいよボケが入ったのだろうか、入って間もない構成員を幹部クラスに置くとはどういうことか。
もう犬の少年はツッコミではなく、組織のボスとしてのあり方を説教しようとしていた。
こんな組織を今まで危険視してきた自分は何だったのだろうと思って肩の力がどっと抜ける。
「あの、お言葉は嬉しいですが……」
手を振って断る。と、竜人はがっくり肩を落とし項垂れ、ため息を吐く。
「そうか……孫みたいで可愛いと思って手元に置きたかったんじゃがのう……」
犬の少年の口元が釣り上がり、黒い鼻がぴくぴくと過剰なまでに動いていた。実力とかではなく可愛さで選ぶことにいい加減、犬の少年は堪忍袋の緒を切らしたかもしれない。
だが寸でのところで竜人の鱗の冷たさが頬に伝わり、冷静さを取り戻す。
が、竜人はまるで犬の少年を孫のように頭を撫でる。人の話を聞け、と言いたくなったが、頭を撫でられるのは何年ぶりだろうと懐かしむ。
少しごつごつとした鱗の手触りは元人間の犬の少年からすればなんとも不思議な感触である。その気持ちよさから、無意識に尻尾が湯の中で左右に揺れ動く。
実際この場所は居心地が悪いわけではない。組織のトップがこうであり、また構成員は誰1人として自分のことを疑ってはいない。
本来の目的を忘れ、こうして任務を忘れて人と触れ合うのも悪くはない。
「ここに再就職しよっかな……」
ぶくぶくと水泡を立てて言葉を濁し、竜人に聞こえないように本音を避ける。
薬の効果が消えるまで後1ヶ月。それまで悪の組織に身を沈めるのも悪くはないと思った。
リザードカクテルバー byさいと~
・あらすじ
リザードカクテルバー。
竜系の雄がスリットで客に酒を飲ませるいかがわしい店。
そこに務めることになったミドリ君のお話。
「はぁ・・・」
目の前の建物を見上げ、何度目のため息だろう。
とある事情で多額の借金を背負ってしまった僕が、大学の友人に相談したところ、蜥蜴人ならと薦められたのがここだったのだ。
給与の良さに藁にもすがる思いで連絡をしてみたのはいいものの、やはり不安なものは不安だ。
腕時計に目をやると、かなり早めに来ていたにもかかわらず、もう約束した時間になろうとしていた。
でもこんなところで逡巡していても何にもならない。僕にはどうしてもお金が必要なのだ。
勇気を振り絞り、店に足を踏み入れる。
「ん?ああ、すみませんお客様。当店は会員制となって――」
「あっ、あのっ、今日連絡させていただいたものなんですけどっ!」
緊張から相手の発言を遮って、場違いな大声を出してしまった。獅子の青年が目を丸くして固まっている。
「――ああ、今朝連絡してきた子かな。とりあえず店内に入ってくれるかい?」
獅子に促されるままに、店内に案内された。
道すがら好奇心と少しでも不安を紛らわせるためにきょろきょろと回りを見回してしまう。だが、見れば見るほど自分なんか場違いではないのかという思いがムクムクと湧き上がり、さらに不安をあおっただけだった。早鐘のような鼓動とカラカラになった口内がやけに気になった。
小部屋に着くと、獅子が椅子に腰を下ろし、こちらにも椅子を勧めてくる。
「?」
とりあえず薦められた椅子に座るも、彼が何者か分からなかったので首を傾げていると、相手もようやく思い至ったようだ。
「あ、ごめんよ。言ってなかったけど、僕がこの店のオーナーね。さっそくだけど電話で言ってたものだしてくれるかな?」
「はっ、はいっ」
思っていたよりも若い事に驚きつつも、あわてて鞄から履歴書やその他のものを取り出し見せる。
オーナーは黙って履歴書を見つめていたが、時折こちらを見つめる鋭い眼差しにだんだんと居心地の悪くなってくる。
「もういっこ確認するけど、お酒は飲めるんだよね?」
「はいっ」
いきなり声をかけられて吃驚したが、さらに驚く事になるのはこの後だった。
「おーけー。じゃあ採用で」
「えっ」
「採用で。若いし、顔も悪くないし、酒も飲める。十分だよ」
……あまり面接の経験が豊富な方ではないが、これが異常な事くらい分かる。本当に大丈夫なのだろうかこのお店、と改めて不安に思っていると店内に誰かが入ってくる音、そして遅れて挨拶が低く店内に響いた。
「おはようございます」
「あ、丁度よかった。新人君の指導任せるから、いろいろ教えてあげて」
オーナーは僕の背後に目をむけ、それだけ言うと席を立ちどこかへ行ってしまった。
オーナーのあまりのいいかげんさと軽さに呆れていると、視界に影が差し、背後に誰かが立ったのが分かる。
「よ、よろしくお願いします」
振り返りつつ挨拶するとそこには、黒い鱗に身を包んだ竜種の中年がいた。かなりの強面だ。
「ん、よろしく」
一言だけそう返されると、身振りでついてこいと案内されたのはロッカールームだった。
「改めてよろしくお願いします。僕―」
口元に指を当て、静かにというジェスチャーで遮られた。
「名前はいい。君がいいならいいけど、あんまり自分の事を言いたがらない人も多いからな。ある程度仲良くなるまではそういうことはしない方がいい」
自己紹介を遮られるとは思わなかったが、やはりワケアリの人が多いのだろうか?
「さて……、オーナーからはどこまで聞いたか分からないから、まぁ最初から言うぞ?」
まさかまったく何も聞いてないなどとは言えず、黙ってうなずく。
「この店は、まぁ俺ら鱗族のスリットを使ってお客さんにお酒を飲んでもらうサービスをする店だ、それはいいか?」
「……は、い」
分かってはいたが改めて口に出されると、自らの体を切り売りするという事実に気分が沈む。
「給与は基本的には歩合制だな。注文が入ってないときは、ウェイターとして動く。んで、お客さんに振舞った自前の酒の料金が、まぁ経費とかもろもろさっぴかれた後、俺らの懐に入る。指名料だけは例外でこれは俺たちが全部もらえる、って感じだ。だいたいはな」
全く経験のない僕がきちんとお金が稼げるのか不安になっていると、態度に出ていたのだろう。竜人が紛らわすように言葉を続けた。
「まぁ新入りの間はなんだかんだ言っても、珍しがって指名されるからそんなに心配しなくていい。問題は慣れた後だが……これは今心配するような事じゃないからな」
そういって彼はこちらに笑いかけてくれた。第一印象では無愛想なイメージだったが、意外と面倒見はいいのかもしれない。
「じゃあいろいろ測るから脱いでくれ」
「測る、んですか?」
彼は僕の質問に答えながらロッカーからいくつかの道具を取り出している。
「うん。ああ、等級は新入りは例外なく二級だからいいんだが、スリットと、その、……マドラーの大きさを測らないといけないんだ。お前だって化け物みたいなものつっこまれて怪我するのはやだろ?」
何となく察する事は出来たが、言いよどんだところを見ると、意外と生真面目で純情な人なのかもしれない。そんな人が何でこんなところで働いてるのか気にはなったが、先ほど彼に言われた事もある。口にするのは諦めた。大体僕だって事情を聞かれても答えられないのだ。
そんな事を考えながら素直に服を脱ぐ。鱗族の人はペニスも収納されてるため下着を履いていない者も多く、同族相手なら裸体でもあまり羞恥したりはしない。僕だって例外じゃない、けど。
「じゃあ勃たせてくれないか」
さすがにそういわれると恥ずかしい。だって他人に自分のペニスを見せる事なんて今まで一度もなかったのだ。でもここで恥ずかしがっても店ではもっと恥ずかしい事をしなくちゃいけない。
気持ちを奮い立たせ、スリットからペニスを取り出し普段やっているように片方を手で刺激する。他人に見られながらの行為はひどく羞恥と興奮を煽るものだったが、やはり、不安と緊張があるからだろうか?なかなか勃起しないペニスに焦りがつのる。
「……しかたないな」
竜人が困ったように笑い、必死でペニスを擦っていた僕の手をつかんで椅子に座らせると、おもむろに膝をつき、僕のペニスを両方とも口にくわえた。
「うっ!?」
まさかいきなり口に含まれるなんて、しかも両方とも。僕の上げた驚きとも快感ともつかない声にも意を介さず、黒い竜人は冷静に舌を使って僕のペニスを刺激していく。その質実剛健そのものとも言える外見と、じゅぶじゅぶと音をさせて他人のペニスをしゃぶっているという淫らな行いのギャップに、僕のペニスは直ぐに硬くなった。
「これでいっぱいか?」
頬張っていたペニスを口から出し、垂れる涎を手の甲でぬぐいながら聞いてきた。……そうだった。あまりにも気持ちよくて忘れてしまっていたけど趣旨は勃起させる事だったっけ。少しフェラされただけでそんな事も忘れてしまうほど理性が飛んでしまっていた事が恥ずかしくて答える声が少し小さくなった。
「……そうです」
「よし」
彼は手際よく上、下、両方のサイズを測り、何かのボードに記入していく。
「よし、じゃあ次はスリットの方だ。すまんが、えーっとまぁ、そいつを仕舞ってスリットを目一杯広げてくれ」
「……これでいいですか?」
目一杯。あまりの恥ずかしさにクラクラしつつも、こうなったら自棄だとばかりに思いっきりスリットを広げる。自然とM字開脚のようなポーズになり、顔から火が出そうになるが、蜥蜴人の表情なんて同族でもなければ読み取ってはくれない、だろう。
そんな気持ちを知ってか知らずか、彼はロッカーから出していた他の道具を手に取り、有無を言わせずスリットに取り付けていった。テレビの外科手術か何かで見たことがあるような形だ。
そしてスリットの下側に透明なストッパーを嵌め、先ほどの器具と固定した状態で竜人が手を止めた。どうやら取り付けは完了したらしい。
器具で無理やり広げられた隙間に空気が入ってスースーする。
「もう手は離していい。今は違和感があると思うが、すぐに慣れるからな。上から水入れるから一杯になったら言うんだぞ」
そういって竜人は水差しを手にし、スリットの上部から水を注ぎ込む。
普段は温い粘液しか触れることのないそこに水が流れ込んで来た。火照ったペニスに冷たい水が触れ心地いい。
上からは透明なストッパーを通してスリットの内側が赤くゆらめいているのが見える。そこに彼が顔を近づけて水を注ぎ込んでいるのだ。自分でも見たことのないような部位、それを奥までまじまじと見られているのを意識しだすと気になって仕方がなかった。
真剣な表情で水を注いでいる彼の表情を見ているうちに先ほど、一生懸命、僕のペニスをしゃぶっていた彼の表情が重なる。その瞬間、その時の感触と今ジョロジョロと緩くスリットの中を叩く水の刺激にゾワリと背筋が逆立った。
「……っ!?」
……逝ってしまった。咄嗟に手で股間を覆ったが、彼は目の前で見ていたのだ。水が白く濁ったのを見逃したりはしなかっただろう。
あまりの恥ずかしさと情けなさに、涙が出てきた。このまま消えてしまえればどんなに楽だろう……。
「大丈夫、大丈夫だから。とりあえずあっちにシャワールームがあるから行ってきなさい。俺もあとから行くから」
まるで子供をあやすかのような口調に情けなくなりながらも、今だけその言葉に甘えさせてもらう事にした。
シャワールームにつくと、想像したような小さいものではなく、かなり大きく複数人で入るのを想定している広さだった。そういえばこのお店の施設はどれもこれもいいものだったような気がする。意外と繁盛しているのかもしれない。
シャワーを顔に浴び涙を洗い流すが、気分は晴れないままだ。暗い気分も一緒に洗い流してくれればどれだけよかっただろう。
そういえば股間にぶらぶらと、器具をつけたままだった。はずし方がよく分からないけど、それほど複雑なものじゃないはずだ。はずしてしまおう。
「いてててて」
先ほどとは違う種類の涙が瞳から出てきた。友人がジッパーにモノを挟んだ時、確かこんな動作をしてた気がする。その時の友人に心の中で謝りながら、挟まった肉を丁寧に取り、白濁した水を洗い流す。
「そこはよーく洗っておけよ」
「うっひゃぁ」
いつのまにか背後に居た黒竜に吃驚して変な声を上げてしまった。
「悪い、驚かせたか?」
そこには大柄で筋肉質な体に、うすく脂肪の乗った見栄えのする、といっていいのだろうかとにかくとてもかっこいい裸体を晒した黒竜が居た。
いや、ここはシャワールームなんだから全裸でも当然なんだけど、体が動くたびに湯気で軽く湿った鱗がぬらぬらとなまめかしく、正直に言って目の毒だった。
「いえ、大丈夫です」
これ以上見てたら、いろいろまずい。それにジロジロ見ると失礼かもしれないし。それでも気になってチラチラと横目で見てしまうのを止める事は出来なかった。
そんな気持ちを知ってか知らずか、黒竜はシャワーを手に取り、鼻歌を歌いながらゴシゴシと石鹸で泡を立てて体を洗っている。
言われたとおり、スリットの中を丁寧に洗っていると、隣の黒竜もそこを洗い出した。
竜種は蜥蜴と違ってスリットの上部に陰毛が生えていた。まだ泡がついたそれを片手でかき分けてスリットを開きそこにシャワーを当てている。
しばらくそうしていたかと思うとスリットの中に手をいれ、一本のペニスを取り出すとシャワーを固定し、両手で洗い出した。
自慰もあんな風にするのだろうか?ドキドキしながら見ていると突然、黒竜が堪えきれないといった様子で笑い出した。
「若いなぁ」
黒竜の視線を辿ると、僕のスリットの中から露出していたペニスがギンギンに勃起していた。
「いやー、さっぱりした」
タオルで体を拭いながらそう言う黒竜はかなり機嫌がよさそうだ。やはり水浴びは鱗族なら誰でも好きなんだろうか。
それでも最低限の礼儀として、一応謝っておくべきだろう。
「すみません、つき合わせてしまって」
「いやいや、どちらにしろ出勤前に風呂に入る規則になってるからな。あっ、そうだ。体拭き終わったらこれ張っとけ」
なにやら半透明のテープを取り出し、そんな事を言い出した。何に使うのだろうか?彼はそのテープを自分のスリットの上からペッタリと張りつけた。
「えーっと、何の意味があるんですか?」
「その日まだ使ってません、って事らしい。まぁ便所とかそういう不便はあるが、何もないならつけといた方が特だな」
そういってロッカーから二着、黒い制服を取り出してきた。
「これが君の、いやミドリ君の制服」
結構高級そうな生地のウェイターの衣装が渡される。そこには名札がついており、ミドリ・二Mと書いてあった。先輩の名札に目をやると、クロ・特XLとなっている。
「ありがとうございます、クロ先輩」
しかし、下に着るシャツや、あのエプロンみたいなものはないのだろうか?
「えっと、すみません先輩。他はどうすればいいんでしょう?」
「無い」
驚愕の事実。確かに裸でもあまり恥ずかしくないとは言っても同族相手限定だし、一応の社会常識はある。少し震える声で先輩に問いただす。
「い、いいんですか?」
「注文されるたびにいちいち脱ぐのは面倒くさいだろ?俺らに付き合わされて、下脱がないといけないマドラー専門のやつらの方が恥ずかしそうだったぞ。まぁそういう毛皮連中は、剃られるまでは裸じゃない!なんて強がってたけどな」
「そ、そうですか」
そういうもんなのかな。もはや僕には何が常識か分からなくなりつつあった。
その後、店の用語や、法度、休憩室等、店内の配置を教えてもらっていると時間はあっという間に過ぎていった。
ある程度の基本を教授され、いよいよお店に出る事になった。
今は開店時間をすこし過ぎ、いわゆる一番お客が入る時間らしい。
ドアをくぐるとお客同士が話しているだけなので思ったより静かなのだが、視界の中でどこもかしこもモゾモゾとうごめいていて少し不気味だ。
カウンターでは山羊のバーテンダーが、先ほどの器具をつけた蜥蜴人を背後から貫き、胸をいじりながら喘がせている。
他の席では犬につきこまれ、声を漏らしている蜥蜴人や豚人のお客さんに、スリットの中にまで鼻をつきこまれ、舐められているものもいた。
見たこともないような刺激的な光景に、今まで自分が生きてきた世界と全く違う事が、いやでも分かる。容赦のない現実に怖くなり体が震えだす。
不意に後ろから肩を叩かれて体が跳ねる。声が漏れなかったのは僥倖だった……。見るとクロ先輩がそこにいる。
「大丈夫だ。挨拶だけはちゃんとしておけばそうひどい事にはならないよ。失敗しても俺らがフォローするから、とりあえずやってみなさい」
そう言って、尻尾をゆらゆらとゆらして行ってしまった。
先輩の言うとおりやる前から怖がっても仕方が無い。とりあえず、やってみよう。
しばらく教えられた通りウェイターをやってると、最初の不安はかなり緩和され、お客さんとスムーズに挨拶を交わす程度の余裕が出てきた。親切に対応してくれたのはこちらが新人だったからかもしれない。
しかしそうやっていると最初の不安とは別種の不安が頭をもたげてくる。注文はしてもらえるのだろうか?
「クロさん指名!とりあえず直飲みだけで頼むわ!」
その思考を遮ったのは虎のお客さんの元気な注文の声だった。
「……ミドリ、酒持ち頼むわ」
「わわっ」
またしてもいつのまにか背後に来ていたクロ先輩にささやくように言われた。……お酒持ってなくて良かった。
「ご指名、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
クロ先輩に教えられた通り挨拶する。お客さんは虎の四十代のおじさんだった。一人客で好色そうな目をクロ先輩に向けている。
クロ先輩は気にせずに中央の専用台に仰向けにごろりと寝転がると、スリットがお客の目に見えるように足を開いた。スリットには前張りがついたままだ。
「こちらで剥がしましょうか?」
「いや、自分でやる」
鼻息荒くそういうと、ベリッと勢いよく剥がし、それを嗅いで楽しんでいる。
少し唖然としたが、気を取り直し、先輩のスリットに酒を注いでゆく。……どんどん入る。マスターが瓶ごと手渡してくれた意味がようやく分かった。
なみなみ注ぐと、鼻息が荒くお客さんがクロ先輩の股間にむしゃぶりついた。鼻息で先輩の陰毛がそよいだのは気のせいじゃないと思う。
無遠慮に舌を差し入れ、スリットからこぼれた酒も啜っている。猫族特有のざらざらした舌でスリットを舐められ先輩の顔がゆがんだ。その顔を流れた汗が照明を反射して光る。
お酒を入れた後、直ぐに業務に戻るのがマニュアルなのだがあまりに扇情的な光景に目を奪われていたらしい。客が声をかけてきた。
「おっ、お前新入りか。丁度いい。マドラーやってくれ」
「えっ、僕ですか?」
ボーっとしていた意識をお客さんの声でひきもどされた。怒られなかったのは幸運だと思う。
「おう、お前のでかき混ぜてやってくれ。濁りはナシでな」
初めては怖かったが、クロ先輩となら大丈夫。とりあえず僕も前張りを剥がし先輩の前に立つと、ペニスを取り出した。先ほどの光景で既に準備は出来ている。
「……まずはゆっくりといれて、それから全体にこすり付けるようにまわすんだ。焦らずやれば大丈夫だから」
こちらを気遣って、小声でクロ先輩が指示を出してくれた。
先輩の言ったとおりにゆっくりと先輩のスリットにペニスを挿れていく。酒で火照った先輩のスリットが僕のペニスに絡みついてきて気持ちがよかった。
それだけで、先ほどのお客を笑えないくらい興奮し鼻息が荒くなる。とりあえず指示通り、かき混ぜるように腰を動かしていたがやはり見ていて物足りなかったのだろうか。客が野次を飛ばしてきた。
「じれってぇ、もう一本挿れちまえ」
「かしこまりっ、ました」
客の要望なら仕方がない。荒い息を付きながら両方とも入れる。先輩のスリットはかなり広いものだったが流石に二本とも入れるときつい。
自然と僕のペニスで先輩のペニスを挟むような形になり、どう動かしても擦れて気持ちがいい。気付けば先輩からの指示が途絶えていた。不安になりそちらを見ると、先輩の顔は大きく歪み、ペニスを動かすたびに声にならない息をもらしていた。
それを見ると自慰では感じた事のないような興奮が体を支配し、腰が止められくなる。初めてで舞い上がった僕は法度も忘れ、逝ってしまった。
「……もうしわけ、ありません。直ちに……作り、直します」
「もうしわけありません」
先輩は息も絶え絶え、という様子でお客に謝り、お酒を作り直す事になった。虎のお客はそれを見てニヤニヤといやらしい笑みを浮かべている。今度の視線には僕に対するものも含まれていた。
結局その後もう一度作るのに失敗し、注文にこたえられたのは三回目になった。
その後、流石に三回連続で酒を供した先輩と僕は休憩を取る事にした。
「す、すみません」
休憩室に入った瞬間に、先輩に詫びる。先輩の注意を忘れ、先輩に負担をかけてしまったのだ。
先輩の手が僕の頭に伸びた。てっきり殴られるのかと思ったが、そうではなく、優しく頭の上に手を置かれただけだった。
「最初ならあんなもんだ、次から気をつければいい」
「で、でも法度に……」
「あの客の悪い癖なんだ。新入りが居ると濁り抜きで注文して失敗させて楽しんでるんだ」
……なんて意地悪な客なんだろう。問題ないのだろうか?
「……悪い客じゃないんだ。新入りの宣伝にもなってるからな。多分ミドリの指名もこれから増えると思う」
「でも……、すみませんでした」
「本当に謝らなくていい。その……一回目は俺も逝ってたからな」
クロ先輩は紅潮した顔をそらす。酒のせいではないと思いたいのは僕のわがままだろうか?
「それでも、です。……僕はマドラー役だったのでもう戻ります。先輩はもうしばらく休憩していて下さい」
「分かった。……がんばれよ」
迷惑をかけた先輩に励まされ、元気が出てきた。先ほどまでは怒られるのが怖くて萎縮していたのに現金なものだと自分でも思う。
「はいっ」
これ以上先輩には迷惑はかけられない。急いで仕事に戻ろうとすると、後ろから先輩に呼び止められた。
先輩はちょっといいにくそうにしていたが意を決したように息を整えると口を開いた。
「……そういえば自己紹介がまだだったからな――」
リザードカクテルバー。
竜系の雄がスリットで客に酒を飲ませるいかがわしい店。
そこに務めることになったミドリ君のお話。
「はぁ・・・」
目の前の建物を見上げ、何度目のため息だろう。
とある事情で多額の借金を背負ってしまった僕が、大学の友人に相談したところ、蜥蜴人ならと薦められたのがここだったのだ。
給与の良さに藁にもすがる思いで連絡をしてみたのはいいものの、やはり不安なものは不安だ。
腕時計に目をやると、かなり早めに来ていたにもかかわらず、もう約束した時間になろうとしていた。
でもこんなところで逡巡していても何にもならない。僕にはどうしてもお金が必要なのだ。
勇気を振り絞り、店に足を踏み入れる。
「ん?ああ、すみませんお客様。当店は会員制となって――」
「あっ、あのっ、今日連絡させていただいたものなんですけどっ!」
緊張から相手の発言を遮って、場違いな大声を出してしまった。獅子の青年が目を丸くして固まっている。
「――ああ、今朝連絡してきた子かな。とりあえず店内に入ってくれるかい?」
獅子に促されるままに、店内に案内された。
道すがら好奇心と少しでも不安を紛らわせるためにきょろきょろと回りを見回してしまう。だが、見れば見るほど自分なんか場違いではないのかという思いがムクムクと湧き上がり、さらに不安をあおっただけだった。早鐘のような鼓動とカラカラになった口内がやけに気になった。
小部屋に着くと、獅子が椅子に腰を下ろし、こちらにも椅子を勧めてくる。
「?」
とりあえず薦められた椅子に座るも、彼が何者か分からなかったので首を傾げていると、相手もようやく思い至ったようだ。
「あ、ごめんよ。言ってなかったけど、僕がこの店のオーナーね。さっそくだけど電話で言ってたものだしてくれるかな?」
「はっ、はいっ」
思っていたよりも若い事に驚きつつも、あわてて鞄から履歴書やその他のものを取り出し見せる。
オーナーは黙って履歴書を見つめていたが、時折こちらを見つめる鋭い眼差しにだんだんと居心地の悪くなってくる。
「もういっこ確認するけど、お酒は飲めるんだよね?」
「はいっ」
いきなり声をかけられて吃驚したが、さらに驚く事になるのはこの後だった。
「おーけー。じゃあ採用で」
「えっ」
「採用で。若いし、顔も悪くないし、酒も飲める。十分だよ」
……あまり面接の経験が豊富な方ではないが、これが異常な事くらい分かる。本当に大丈夫なのだろうかこのお店、と改めて不安に思っていると店内に誰かが入ってくる音、そして遅れて挨拶が低く店内に響いた。
「おはようございます」
「あ、丁度よかった。新人君の指導任せるから、いろいろ教えてあげて」
オーナーは僕の背後に目をむけ、それだけ言うと席を立ちどこかへ行ってしまった。
オーナーのあまりのいいかげんさと軽さに呆れていると、視界に影が差し、背後に誰かが立ったのが分かる。
「よ、よろしくお願いします」
振り返りつつ挨拶するとそこには、黒い鱗に身を包んだ竜種の中年がいた。かなりの強面だ。
「ん、よろしく」
一言だけそう返されると、身振りでついてこいと案内されたのはロッカールームだった。
「改めてよろしくお願いします。僕―」
口元に指を当て、静かにというジェスチャーで遮られた。
「名前はいい。君がいいならいいけど、あんまり自分の事を言いたがらない人も多いからな。ある程度仲良くなるまではそういうことはしない方がいい」
自己紹介を遮られるとは思わなかったが、やはりワケアリの人が多いのだろうか?
「さて……、オーナーからはどこまで聞いたか分からないから、まぁ最初から言うぞ?」
まさかまったく何も聞いてないなどとは言えず、黙ってうなずく。
「この店は、まぁ俺ら鱗族のスリットを使ってお客さんにお酒を飲んでもらうサービスをする店だ、それはいいか?」
「……は、い」
分かってはいたが改めて口に出されると、自らの体を切り売りするという事実に気分が沈む。
「給与は基本的には歩合制だな。注文が入ってないときは、ウェイターとして動く。んで、お客さんに振舞った自前の酒の料金が、まぁ経費とかもろもろさっぴかれた後、俺らの懐に入る。指名料だけは例外でこれは俺たちが全部もらえる、って感じだ。だいたいはな」
全く経験のない僕がきちんとお金が稼げるのか不安になっていると、態度に出ていたのだろう。竜人が紛らわすように言葉を続けた。
「まぁ新入りの間はなんだかんだ言っても、珍しがって指名されるからそんなに心配しなくていい。問題は慣れた後だが……これは今心配するような事じゃないからな」
そういって彼はこちらに笑いかけてくれた。第一印象では無愛想なイメージだったが、意外と面倒見はいいのかもしれない。
「じゃあいろいろ測るから脱いでくれ」
「測る、んですか?」
彼は僕の質問に答えながらロッカーからいくつかの道具を取り出している。
「うん。ああ、等級は新入りは例外なく二級だからいいんだが、スリットと、その、……マドラーの大きさを測らないといけないんだ。お前だって化け物みたいなものつっこまれて怪我するのはやだろ?」
何となく察する事は出来たが、言いよどんだところを見ると、意外と生真面目で純情な人なのかもしれない。そんな人が何でこんなところで働いてるのか気にはなったが、先ほど彼に言われた事もある。口にするのは諦めた。大体僕だって事情を聞かれても答えられないのだ。
そんな事を考えながら素直に服を脱ぐ。鱗族の人はペニスも収納されてるため下着を履いていない者も多く、同族相手なら裸体でもあまり羞恥したりはしない。僕だって例外じゃない、けど。
「じゃあ勃たせてくれないか」
さすがにそういわれると恥ずかしい。だって他人に自分のペニスを見せる事なんて今まで一度もなかったのだ。でもここで恥ずかしがっても店ではもっと恥ずかしい事をしなくちゃいけない。
気持ちを奮い立たせ、スリットからペニスを取り出し普段やっているように片方を手で刺激する。他人に見られながらの行為はひどく羞恥と興奮を煽るものだったが、やはり、不安と緊張があるからだろうか?なかなか勃起しないペニスに焦りがつのる。
「……しかたないな」
竜人が困ったように笑い、必死でペニスを擦っていた僕の手をつかんで椅子に座らせると、おもむろに膝をつき、僕のペニスを両方とも口にくわえた。
「うっ!?」
まさかいきなり口に含まれるなんて、しかも両方とも。僕の上げた驚きとも快感ともつかない声にも意を介さず、黒い竜人は冷静に舌を使って僕のペニスを刺激していく。その質実剛健そのものとも言える外見と、じゅぶじゅぶと音をさせて他人のペニスをしゃぶっているという淫らな行いのギャップに、僕のペニスは直ぐに硬くなった。
「これでいっぱいか?」
頬張っていたペニスを口から出し、垂れる涎を手の甲でぬぐいながら聞いてきた。……そうだった。あまりにも気持ちよくて忘れてしまっていたけど趣旨は勃起させる事だったっけ。少しフェラされただけでそんな事も忘れてしまうほど理性が飛んでしまっていた事が恥ずかしくて答える声が少し小さくなった。
「……そうです」
「よし」
彼は手際よく上、下、両方のサイズを測り、何かのボードに記入していく。
「よし、じゃあ次はスリットの方だ。すまんが、えーっとまぁ、そいつを仕舞ってスリットを目一杯広げてくれ」
「……これでいいですか?」
目一杯。あまりの恥ずかしさにクラクラしつつも、こうなったら自棄だとばかりに思いっきりスリットを広げる。自然とM字開脚のようなポーズになり、顔から火が出そうになるが、蜥蜴人の表情なんて同族でもなければ読み取ってはくれない、だろう。
そんな気持ちを知ってか知らずか、彼はロッカーから出していた他の道具を手に取り、有無を言わせずスリットに取り付けていった。テレビの外科手術か何かで見たことがあるような形だ。
そしてスリットの下側に透明なストッパーを嵌め、先ほどの器具と固定した状態で竜人が手を止めた。どうやら取り付けは完了したらしい。
器具で無理やり広げられた隙間に空気が入ってスースーする。
「もう手は離していい。今は違和感があると思うが、すぐに慣れるからな。上から水入れるから一杯になったら言うんだぞ」
そういって竜人は水差しを手にし、スリットの上部から水を注ぎ込む。
普段は温い粘液しか触れることのないそこに水が流れ込んで来た。火照ったペニスに冷たい水が触れ心地いい。
上からは透明なストッパーを通してスリットの内側が赤くゆらめいているのが見える。そこに彼が顔を近づけて水を注ぎ込んでいるのだ。自分でも見たことのないような部位、それを奥までまじまじと見られているのを意識しだすと気になって仕方がなかった。
真剣な表情で水を注いでいる彼の表情を見ているうちに先ほど、一生懸命、僕のペニスをしゃぶっていた彼の表情が重なる。その瞬間、その時の感触と今ジョロジョロと緩くスリットの中を叩く水の刺激にゾワリと背筋が逆立った。
「……っ!?」
……逝ってしまった。咄嗟に手で股間を覆ったが、彼は目の前で見ていたのだ。水が白く濁ったのを見逃したりはしなかっただろう。
あまりの恥ずかしさと情けなさに、涙が出てきた。このまま消えてしまえればどんなに楽だろう……。
「大丈夫、大丈夫だから。とりあえずあっちにシャワールームがあるから行ってきなさい。俺もあとから行くから」
まるで子供をあやすかのような口調に情けなくなりながらも、今だけその言葉に甘えさせてもらう事にした。
シャワールームにつくと、想像したような小さいものではなく、かなり大きく複数人で入るのを想定している広さだった。そういえばこのお店の施設はどれもこれもいいものだったような気がする。意外と繁盛しているのかもしれない。
シャワーを顔に浴び涙を洗い流すが、気分は晴れないままだ。暗い気分も一緒に洗い流してくれればどれだけよかっただろう。
そういえば股間にぶらぶらと、器具をつけたままだった。はずし方がよく分からないけど、それほど複雑なものじゃないはずだ。はずしてしまおう。
「いてててて」
先ほどとは違う種類の涙が瞳から出てきた。友人がジッパーにモノを挟んだ時、確かこんな動作をしてた気がする。その時の友人に心の中で謝りながら、挟まった肉を丁寧に取り、白濁した水を洗い流す。
「そこはよーく洗っておけよ」
「うっひゃぁ」
いつのまにか背後に居た黒竜に吃驚して変な声を上げてしまった。
「悪い、驚かせたか?」
そこには大柄で筋肉質な体に、うすく脂肪の乗った見栄えのする、といっていいのだろうかとにかくとてもかっこいい裸体を晒した黒竜が居た。
いや、ここはシャワールームなんだから全裸でも当然なんだけど、体が動くたびに湯気で軽く湿った鱗がぬらぬらとなまめかしく、正直に言って目の毒だった。
「いえ、大丈夫です」
これ以上見てたら、いろいろまずい。それにジロジロ見ると失礼かもしれないし。それでも気になってチラチラと横目で見てしまうのを止める事は出来なかった。
そんな気持ちを知ってか知らずか、黒竜はシャワーを手に取り、鼻歌を歌いながらゴシゴシと石鹸で泡を立てて体を洗っている。
言われたとおり、スリットの中を丁寧に洗っていると、隣の黒竜もそこを洗い出した。
竜種は蜥蜴と違ってスリットの上部に陰毛が生えていた。まだ泡がついたそれを片手でかき分けてスリットを開きそこにシャワーを当てている。
しばらくそうしていたかと思うとスリットの中に手をいれ、一本のペニスを取り出すとシャワーを固定し、両手で洗い出した。
自慰もあんな風にするのだろうか?ドキドキしながら見ていると突然、黒竜が堪えきれないといった様子で笑い出した。
「若いなぁ」
黒竜の視線を辿ると、僕のスリットの中から露出していたペニスがギンギンに勃起していた。
「いやー、さっぱりした」
タオルで体を拭いながらそう言う黒竜はかなり機嫌がよさそうだ。やはり水浴びは鱗族なら誰でも好きなんだろうか。
それでも最低限の礼儀として、一応謝っておくべきだろう。
「すみません、つき合わせてしまって」
「いやいや、どちらにしろ出勤前に風呂に入る規則になってるからな。あっ、そうだ。体拭き終わったらこれ張っとけ」
なにやら半透明のテープを取り出し、そんな事を言い出した。何に使うのだろうか?彼はそのテープを自分のスリットの上からペッタリと張りつけた。
「えーっと、何の意味があるんですか?」
「その日まだ使ってません、って事らしい。まぁ便所とかそういう不便はあるが、何もないならつけといた方が特だな」
そういってロッカーから二着、黒い制服を取り出してきた。
「これが君の、いやミドリ君の制服」
結構高級そうな生地のウェイターの衣装が渡される。そこには名札がついており、ミドリ・二Mと書いてあった。先輩の名札に目をやると、クロ・特XLとなっている。
「ありがとうございます、クロ先輩」
しかし、下に着るシャツや、あのエプロンみたいなものはないのだろうか?
「えっと、すみません先輩。他はどうすればいいんでしょう?」
「無い」
驚愕の事実。確かに裸でもあまり恥ずかしくないとは言っても同族相手限定だし、一応の社会常識はある。少し震える声で先輩に問いただす。
「い、いいんですか?」
「注文されるたびにいちいち脱ぐのは面倒くさいだろ?俺らに付き合わされて、下脱がないといけないマドラー専門のやつらの方が恥ずかしそうだったぞ。まぁそういう毛皮連中は、剃られるまでは裸じゃない!なんて強がってたけどな」
「そ、そうですか」
そういうもんなのかな。もはや僕には何が常識か分からなくなりつつあった。
その後、店の用語や、法度、休憩室等、店内の配置を教えてもらっていると時間はあっという間に過ぎていった。
ある程度の基本を教授され、いよいよお店に出る事になった。
今は開店時間をすこし過ぎ、いわゆる一番お客が入る時間らしい。
ドアをくぐるとお客同士が話しているだけなので思ったより静かなのだが、視界の中でどこもかしこもモゾモゾとうごめいていて少し不気味だ。
カウンターでは山羊のバーテンダーが、先ほどの器具をつけた蜥蜴人を背後から貫き、胸をいじりながら喘がせている。
他の席では犬につきこまれ、声を漏らしている蜥蜴人や豚人のお客さんに、スリットの中にまで鼻をつきこまれ、舐められているものもいた。
見たこともないような刺激的な光景に、今まで自分が生きてきた世界と全く違う事が、いやでも分かる。容赦のない現実に怖くなり体が震えだす。
不意に後ろから肩を叩かれて体が跳ねる。声が漏れなかったのは僥倖だった……。見るとクロ先輩がそこにいる。
「大丈夫だ。挨拶だけはちゃんとしておけばそうひどい事にはならないよ。失敗しても俺らがフォローするから、とりあえずやってみなさい」
そう言って、尻尾をゆらゆらとゆらして行ってしまった。
先輩の言うとおりやる前から怖がっても仕方が無い。とりあえず、やってみよう。
しばらく教えられた通りウェイターをやってると、最初の不安はかなり緩和され、お客さんとスムーズに挨拶を交わす程度の余裕が出てきた。親切に対応してくれたのはこちらが新人だったからかもしれない。
しかしそうやっていると最初の不安とは別種の不安が頭をもたげてくる。注文はしてもらえるのだろうか?
「クロさん指名!とりあえず直飲みだけで頼むわ!」
その思考を遮ったのは虎のお客さんの元気な注文の声だった。
「……ミドリ、酒持ち頼むわ」
「わわっ」
またしてもいつのまにか背後に来ていたクロ先輩にささやくように言われた。……お酒持ってなくて良かった。
「ご指名、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
クロ先輩に教えられた通り挨拶する。お客さんは虎の四十代のおじさんだった。一人客で好色そうな目をクロ先輩に向けている。
クロ先輩は気にせずに中央の専用台に仰向けにごろりと寝転がると、スリットがお客の目に見えるように足を開いた。スリットには前張りがついたままだ。
「こちらで剥がしましょうか?」
「いや、自分でやる」
鼻息荒くそういうと、ベリッと勢いよく剥がし、それを嗅いで楽しんでいる。
少し唖然としたが、気を取り直し、先輩のスリットに酒を注いでゆく。……どんどん入る。マスターが瓶ごと手渡してくれた意味がようやく分かった。
なみなみ注ぐと、鼻息が荒くお客さんがクロ先輩の股間にむしゃぶりついた。鼻息で先輩の陰毛がそよいだのは気のせいじゃないと思う。
無遠慮に舌を差し入れ、スリットからこぼれた酒も啜っている。猫族特有のざらざらした舌でスリットを舐められ先輩の顔がゆがんだ。その顔を流れた汗が照明を反射して光る。
お酒を入れた後、直ぐに業務に戻るのがマニュアルなのだがあまりに扇情的な光景に目を奪われていたらしい。客が声をかけてきた。
「おっ、お前新入りか。丁度いい。マドラーやってくれ」
「えっ、僕ですか?」
ボーっとしていた意識をお客さんの声でひきもどされた。怒られなかったのは幸運だと思う。
「おう、お前のでかき混ぜてやってくれ。濁りはナシでな」
初めては怖かったが、クロ先輩となら大丈夫。とりあえず僕も前張りを剥がし先輩の前に立つと、ペニスを取り出した。先ほどの光景で既に準備は出来ている。
「……まずはゆっくりといれて、それから全体にこすり付けるようにまわすんだ。焦らずやれば大丈夫だから」
こちらを気遣って、小声でクロ先輩が指示を出してくれた。
先輩の言ったとおりにゆっくりと先輩のスリットにペニスを挿れていく。酒で火照った先輩のスリットが僕のペニスに絡みついてきて気持ちがよかった。
それだけで、先ほどのお客を笑えないくらい興奮し鼻息が荒くなる。とりあえず指示通り、かき混ぜるように腰を動かしていたがやはり見ていて物足りなかったのだろうか。客が野次を飛ばしてきた。
「じれってぇ、もう一本挿れちまえ」
「かしこまりっ、ました」
客の要望なら仕方がない。荒い息を付きながら両方とも入れる。先輩のスリットはかなり広いものだったが流石に二本とも入れるときつい。
自然と僕のペニスで先輩のペニスを挟むような形になり、どう動かしても擦れて気持ちがいい。気付けば先輩からの指示が途絶えていた。不安になりそちらを見ると、先輩の顔は大きく歪み、ペニスを動かすたびに声にならない息をもらしていた。
それを見ると自慰では感じた事のないような興奮が体を支配し、腰が止められくなる。初めてで舞い上がった僕は法度も忘れ、逝ってしまった。
「……もうしわけ、ありません。直ちに……作り、直します」
「もうしわけありません」
先輩は息も絶え絶え、という様子でお客に謝り、お酒を作り直す事になった。虎のお客はそれを見てニヤニヤといやらしい笑みを浮かべている。今度の視線には僕に対するものも含まれていた。
結局その後もう一度作るのに失敗し、注文にこたえられたのは三回目になった。
その後、流石に三回連続で酒を供した先輩と僕は休憩を取る事にした。
「す、すみません」
休憩室に入った瞬間に、先輩に詫びる。先輩の注意を忘れ、先輩に負担をかけてしまったのだ。
先輩の手が僕の頭に伸びた。てっきり殴られるのかと思ったが、そうではなく、優しく頭の上に手を置かれただけだった。
「最初ならあんなもんだ、次から気をつければいい」
「で、でも法度に……」
「あの客の悪い癖なんだ。新入りが居ると濁り抜きで注文して失敗させて楽しんでるんだ」
……なんて意地悪な客なんだろう。問題ないのだろうか?
「……悪い客じゃないんだ。新入りの宣伝にもなってるからな。多分ミドリの指名もこれから増えると思う」
「でも……、すみませんでした」
「本当に謝らなくていい。その……一回目は俺も逝ってたからな」
クロ先輩は紅潮した顔をそらす。酒のせいではないと思いたいのは僕のわがままだろうか?
「それでも、です。……僕はマドラー役だったのでもう戻ります。先輩はもうしばらく休憩していて下さい」
「分かった。……がんばれよ」
迷惑をかけた先輩に励まされ、元気が出てきた。先ほどまでは怒られるのが怖くて萎縮していたのに現金なものだと自分でも思う。
「はいっ」
これ以上先輩には迷惑はかけられない。急いで仕事に戻ろうとすると、後ろから先輩に呼び止められた。
先輩はちょっといいにくそうにしていたが意を決したように息を整えると口を開いた。
「……そういえば自己紹介がまだだったからな――」